イスラムvs.アメリカ 「終わりなき戦い」の秘予言

 『イスラムvs.アメリカ 「終わりなき戦い」の秘予言』は、アメリカ同時多発テロを踏まえてノストラダムス予言を再解釈した五島勉の著書。2002年に青春出版社の新書版「プレイブックス」の一冊として刊行された。


【画像】カバー表紙

内容

 全5章である。
 1章「それは三〇年も前にひとりの英国女性に見通されていた」では、政治や軍事の専門家たちも予想できなかった2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを、エリカ・チータムはただ一人見通し、その著書『ノストラダムス予言集』に書き記していたとされている。
 その根拠として、恐怖の大王を英語圏で初めてthe Great King of Terror と訳し、「テロの大王」とも解釈できる道を開いたことと、百詩篇第1巻87番の解釈でニューヨークの「塔」への攻撃の可能性を示したことを挙げている。

 2章「イスラムvs.アメリカ 深まる怨念と報復の果てに」では、引き続き第1巻87番の解釈を扱い、3行目の「2つの岩」 rochers をチータムも rocks とそのまま英訳していることを説明している。五島はここに解釈を加え、これはラテン語で言えばペトロ、この場合は使徒ペテロそのものを越えた強固な信仰集団の喩えとして使われており、キリスト教徒とイスラム教の強い宗教対立が暗示されていると説明している。

 3章「くり返される小さな恐怖が“広大なローマ”をじわじわ荒廃させる、の真意」は、百詩篇第10巻65番を扱い、そこに出てくる lettres をチータムが letters とそのまま英訳したのは、手紙による炭疽菌テロまで見通していたからだと解釈した。

 4章「繁栄する文明の終焉 そして、そこから始まるもの」は、根本的な問題が一神教そのものにあるとして、特にキリスト教はイエスが「自分は戦争をやめさせるためにこの世に来た」*1と述べて「徹底した無抵抗主義」を示していたのに、それに背くような行為を数多く行なってきたと指摘している。
 話はさらにノストラダムスが予言していた「別のもの」に及び、自分は『ノストラダムスの大予言』初巻できちんと希望を示していたのに、それが碌に取り上げられることもないまま、バッシングされまくったと主張している。

 5章「浮かび上がる釈迦『未来経』の最終シナリオ ―― 人類の明日に、ひとすじの光明を求めて」は、仏教の経典から業に関するくだりなどを引き合いに出し、アメリカは「建国以来二〇〇年余の身勝手とゴウ慢のツケ」を払い切っていないと指摘し、逆に日本は世界再生のカギを握っている可能性があることを示している。

コメント

 五島は1999年の予言が外れたという批判に対し、1999年から2000年にかけて、「核兵器とか環境汚染とかが増えて、このままじゃダメだというギリギリの線まで来ていたのを、人類は何とか押しとどめて破滅を回避した」*2だとか、「九九年にユーゴの中国大使館がNATO軍に誤爆されたでしょ」*3などと釈明し、「もう、ノストラダムスについては話したくないんです」*4と話すこともあった。
 しかし、この本を境に、「恐怖の大王は同時多発テロを予言しており、2年ずれたとはいえエリカ・チータムだけはいい線まで解釈できていた」というストーリーに転換し、以降は『EX大衆』2巻2号(2006年)、『ムー』2010年8月号などの雑誌記事や、著書『未来仏ミロクの指は何をさしているか』(2010年)でもその線の主張を繰り返している。
 いうなれば、五島説の重要な転換点に当たる著書ということが出来るだろう。

 しかしながら、その主張は全く支持できない。「恐怖の大王=アメリカ同時多発テロ事件」説の項目で例示してあるように、「恐怖の大王」に Terror をあてたのはチータムが初めてでもなければ唯一でもない。しかも、五島は第10巻72番についてのチータムの解釈には全く触れていない。それに触れてしまえば、チータムが見通せていたというストーリーが崩壊するのが目に見えているからであろう。
 また、百詩篇第1巻87番にしても「岩」が大事だといったところで、チータム最後の著作である『決定版ノストラダムスの予言集』では、訳語から rocks が消えた上で、セントへレンズ大噴火(1980年)と再解釈されているのである。ニューヨークテロを見通せていなかったのは明らかだろう。

 自分は最初から希望を示していたという釈明については、いずれ別項で詳述する予定なので、ここでは立ち入らない。

 五島は『ノストラダムスの大予言・最終解答編』では究極の詩として百詩篇第9巻44番を取り上げていたが、今回のストーリーには組み込めなかったのか、ひとことも触れておらず、あの「最終解答」は結局なんだったのかという印象がぬぐえない。

 五島の宗教認識や国家論には深入りしないが、とりあえずイエスが徹底した無抵抗主義であるなどという認識は、堅苦しい専門書を紐解くまでもなく、新書本でも滝澤武人『人間イエス』(講談社現代新書)、岡野昌雄『イエスはなぜわがままなのか』(アスキー新書)などと見比べれば、あまりにも皮相的なものに思える。

 仏教予言の部分は経文の片言節句を強引に予言に仕立てているように見えるが、五島はこれ以降の著書(『やはり世界は予言で動いている』『未来仏ミロクの指は何をさしているか』)では、そうした仏教予言を中心主題にすえるようになる。そういう意味でも転換点といえる著書なのかもしれない。


【画像】『やはり世界は予言で動いている』


【画像】『未来仏ミロクの指は何をさしているか』

書誌

書名
イスラムvs.アメリカ 「終わりなき戦い」の秘予言
著者
五島勉
版元
青春出版社
出版日
2002年1月1日
注記

外国人研究者向けの暫定的な仏語訳書誌(Bibliographie provisoire)

Titre
Islam vs. America “Owarinaki tatakai” no hiyogen (trad./ Islam vs. Les Etats-Unis. Les prophéties secrètes de “guerres infinies” )
Auteur
GÔTO Ben
Publication
Seishun shuppansha
Lieu
Tokyo, Japon
Date
le 1er janvier 2002
Note
Examen des quatrains I-48, I-87, X-65, X-72


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最終更新:2019年10月12日 23:01

*1 五島『イスラムvs.アメリカ』p.140

*2 『SPA!』1999年8月11日・18日号、p.136

*3 『週刊朝日』2000年12月15日、p.165

*4 『週刊女性』2000年7月11日、p.225