百詩篇第8巻35番


原文

Dedans l'entree de Garonne & Bayse 1
Et la forest 2 non loing de Damazan 3
Du 4 marsaues 5 gelees, puis gresle & bize 6
Dordonnois gelle 7 par erreur 8 de mezan 9 .

異文

(1) Bayse : Blaye 1672
(2) forest : Forest 1672
(3) Damazan : damazan 1611, Damasan 1981EB
(4) Du : De 1672
(5) marsaues : mar saues 1597 1600 1603Mo 1610 1627 1644 1650Ri 1716, Marsaves 1672 1772Ri, marsuaues 1981EB
(6) bize : Bize 1672
(7) gelle : gelé 1672
(8) erreur : terreur 1590Ro
(9) mezan : Mezan 1605 1611 1628 1649Ca 1649Xa 1650Le 1668 1672 1772Ri 1981EB, mesan 1590Ro 1597 1600 1603Mo 1610 1627 1650Ri 1653 1665, Mesan 1840

校訂

 3行目の du marsaves は不自然である(du の直後には単数の男性名詞が来なければならない)。ただし、当「大事典」で確認している範囲では誰も直していないので、ここでも特段の修正は提案しない。

日本語訳

ガロンヌ川とバイズ川の入り口で
そしてダマザンから遠くない森で
沼は凍らされる。次に雹と北風。
ドルドーニュ川は月を間違えて凍る。

訳について

 3行目 marsave はひとまずラメジャラーやシーバースの読み方に従った。「3月に種蒔きされた植物が凍らされる」でも文脈には沿っているように思える。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳は、1行目「ガロンヌとブライエの入り口で」 *1 がまずおかしい。Bayseが Blaye になっている底本に基づく訳だから仕方ない側面もあるが、その場合でも、Blaye は例外的な読みをする地名なので「ブライユ」と読む。
 同3・4行目では実証的にも読みが分かれているmarsavemezanがそのまま「マルサーブ」「メザン」と表記されており、意味不明になっている(もっとも、これはテオフィル・ド・ガランシエールヘンリー・C・ロバーツの英訳でもそのままになっており、解釈も示されていない)。

 山根訳は、細かい固有名詞の表記を除けば十分に許容範囲内である。3行目「凍れる海の発見 つぎに雹と北風」 *2 は、現在ではほとんど支持されていない読み方だが、もとはエドガー・レオニが提示した読みである。

信奉者側の見解

 20世紀前半までで解釈していたのはテオフィル・ド・ガランシエールのみである。もっとも、ガランシエールは自分が改変した原文を元に、ガロンヌ川とその河口の港町ブライユ、そして近くのドルドーヌ川 (Dordone) が凍結する恐れがあると述べるにとどまった *3 。ドルドーヌはドルドーニュ (Dordogne) の誤記だろう。

 それ以降も目ぼしい解釈はほとんどない。
 セルジュ・ユタンはフランス南西部での雹や暴風の予言としているだけで、ボードワン・ボンセルジャンもそのまま踏襲した *4
 エリカ・チータムも言及されている地域での季節外れの天気の描写とするにとどまった *5その日本語版では、20世紀末にヨーロッパを襲う大寒波の予言と拡大解釈されていた。
 それに影響されたのか、藤島啓章は2000年に起こるポールシフト(極移動)によって、各地の気候が激変することの予言と解釈していた *6

同時代的な視点

 ピーター・ラメジャラーは2003年の時点では、ノストラダムスがアジャン近郊に住んでいたときに体験した寒波ではないかとしていたが、2010年になると、フランス南西部の悪天候に伴って起きる軍事行動にもとづいた詩と若干解釈を修正した *7

 当時は小氷期に当たっていたので、真冬でなくとも川などが凍結することは、決してありえない話ではなかったものと思われる。


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