百詩篇第9巻50番

原文

Mandosus 1 tost viendra à son hault regne 2
Mettant arriere 3 vn peu de Norlaris 4 :
Le rouge 5 blaisme 6 , le masle à l'interregne 7 ,
Le ieune crainte & frayeur 8 Barbaris 9 .

異文

(1) Mandosus : MENDOSVS 1594JF 1605 1628 1649Ca 1650Le 1668 1840, Mande sus 1627, MENSODVS 1649Xa, Mendosus 1672
(2) regne : Regne 1672
(3) arriere : en arriere 1981EB
(4) de Norlaris : les Norlaris 1568C 1597 1600 1610 1611 1627 1716 1772Ri 1840 1981EB, les Nolaris 1644 1650Ri 1653 1665, le NORLARIS 1594JF, le Norlaris 1605 1628 1649Ca 1649Xa 1672, le Nolaris 1650Le 1668
(5) rouge : Rouge 1594JF 1628 1649Ca 1650Le 1668
(6) blaisme 1568 1590Ro 1772Ri : blasme 1572Cr, blesme 1594JF 1597 1600 1610 1611 1627 1644 1649Ca 1649Xa 1650Ri 1650Le 1653 1665 1668 1672 1716 1840 1981EB, blesme. 1605 1628
(7) masle à l'interregne : masle a linter regne 1568A, meslera l'interregne 1590Ro
(8) frayeur : ftayeur 1611A
(9) Barbaris : barbaris 1572Cr 1653 1665

(注記)1568B は Barbaris の最初の r が逆に印字

校訂

 Mandosus はMendosusの綴りの揺れと見るべきだろう。

日本語訳

メンドススがすぐにその高い玉座へと来るだろう、
ノルラリスの幾人かを後ろに置きつつ。
赤い者が蒼ざめ、男は空位へと。
若者、バルバロイの不安と恐怖。

訳について

 1行目は「メンドススがすぐにその高貴な王国に来るだろう」とも訳せる。
 若干難しいのが4行目で、 Le jeune と crainte は活用形や冠詞から判断すれば、直接形容する関係にない。ジャン=ポール・クレベールは「若者がバルバロイを恐れるだろう」のように、不安や恐怖を抱く主体を「若者」と見なしているが、若干疑問に思えることもあり、ここでは直訳した。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳は、2行目「ノーラリスの人々をかたわらにおき」 *1 が微妙。固有名詞の読み方を措くとしても、arriere (うしろに) が「かたわら」になるのは不適切だし、un peu (少し) が訳に反映されていない。この点はヘンリー・C・ロバーツの底本で un peuple Norlaris となっていたせいだろうが、それは単なる誤植である(ロバーツの英訳では a little となっている)。
 同3行目「赤いペール 男は内部をおさめ」も不適切。大乗訳ではわざわざペールに「紋章のひとつで盾の中央にある縦筋のこと」と注記されているが、この場合の pale は「蒼ざめる」の意味である。原語が blaisme であることから言っても、重訳による誤訳であることは明らかである。
 「内部をおさめ」も、なぜ interregne (空位) が「内部」になるのか不明。

 山根訳は、1行目「ヴァンドームがただちに大いなる支配の座につくだろう」 *2 が、意訳しすぎに思える。たしかにMendosusはヴァンドームのことだろうが、2行目の Norlaris がロレーヌではなく「ノラリ」と表記されていることと整合していない。せめて同じ詩の中では原語のまま示すか解釈してしまうか統一すべきではないだろうか。
 同4行目「驚愕の若者 野蛮人どもの恐怖」は、上述の通り、jeune を crainte が直接形容していると見るのは不適切である。

信奉者側の見解

 Mendosusがヴァンドームのアナグラムで、ヴァンドーム公でもあったアンリ・ド・ベアルン(のちのアンリ4世)、Norlarisがロレーヌのアナグラムで、そこを所領としていたギーズ家、赤い者は枢機卿を指し、アンリ4世のおじのブルボン枢機卿と解釈し、宮廷の有力者たちを斥けて王位に就いたアンリ4世の見事な予言と解釈される。


 異なる解釈を採用した論者としては、フランス革命期の予言としたセルジュ・ユタン、未来に現れるフランスの大君主の予言としたジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌなどがいる *4

同時代的な視点

 ピーター・ラメジャラーは2003年の時点では『ミラビリス・リベル』に描かれたアラブ(バルバロイ)のヨーロッパ侵攻のモチーフと解釈していたが、2010年になると「出典不明」として、事実上解釈を撤回した。

 この詩には確かにブルボン家とギーズ家のことが書かれている可能性がある(百詩篇第10巻18番(未作成)では、アナグラム無しにロレーヌとヴァンドームが対比されている)。その場合、確かにこれは的中例の一つと数えられるのかもしれない。

 ただし、上でも述べたように「メンドススがすぐにその高貴な王国に来るだろう」とも訳せるだけに、アンリ4世の即位を的確に言い当てたかには疑問も残る。しかも、メンドススはラテン語で「誤りが多い」「あてにならない」という意味であり、かなりネガティヴな評価が込められている。「誤りの多い(人物)がすぐにその高貴な王国に来るだろう」では、何かふさわしくない人物が闖入してくるかのようでさえある(これは百詩篇第9巻45番にも同様に当てはまる)。

 この詩の現在確認できる最古の出典は、1568年版『予言集』である。これはノストラダムスの死後2年目であり、「ろくでもないブルボン家が、ロレーヌ家を押しのけつつ王位を簒奪しようとしている」という政治的宣伝を込めた偽作(詩篇そのものの偽造、またはすでにあった詩篇の改悪)の可能性も、多少は視野に入れておくべきではないだろうか。


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