原文
Les
1 vieux chemins
2 seront tous embelys,
Lon
3 passera à Memphis
4 somentrée5,
Le grand
6 Mercure d'Hercules
7 fleur de lys
8
Faisant trembler
9 terre, mer
10 & contree
11.
異文
(1) Les : Ses 1611B
(2) chemins : chemine 1668P
(3) Lon : L'on 1611B 1644Hu 1649Ca 1650Mo 1650Ri 1650Le 1653AB 1665Ba 1668 1672Ga 1697Vi 1698L 1716PR 1720To 1772Ri 1840 1981EB
(4) Memphis : Nemphis 1627Di, Mamphis 1665Ba 1697Vi 1698L 1840, Manphis 1720To
(5) somentrée : son entree 1568X 1590Ro, somontree 1627Di, somentrées 1605sn 1611A 1611B 1628dR 1649Xa 1649Ca 1650Le 1981EB 1667Wi 1668 1672Ga
(6) Le grand : Se grand 1611A, 'est grand 1611B
(7) Hercules : Hercule 1653AB 1665Ba 1697Vi 1698L 1720To
(8) fleur de lys : fleur-de-lys 1644Hu, fleur de Lys 1840
(9) trembler : trambler 1590Ro, trenbler 1611A
(10) terre, mer : terre, & mer 1665Ba 1697Vi 1720To, Terre, Mer 1672Ga
(11) & contree : & contrées 1605sn 1611 1628dR 1649Xa 1649Ca 1650Le 1981EB 1667Wi 1668, contrée 1665Ba 1697Vi 1720To, & Contrées 1672Ga
(注記1)3行目冒頭の1611B の異文は原文ママ。
(注記2)1697Vi, 1698Lは版の系譜の考察のために加えた。
校訂
従来、ノストラダムスの造語ではないかと推測されていた2行目の
somentrée は、1568Xなどの異文からすれば、son entrée の単なる誤植だった可能性がある。
日本語訳
古い道々は全て飾り立てられ、
メンフィスにてその入市が認められるだろう。
白百合の花のヘラクレスの偉大なる
メルクリウスが
大地、海、国を揺り動かしつつ。
訳について
2行目
somentrée は son entrée として訳している。entrée は「入ること」全般をさすが、メンフィスに対応させる意味で「入市」と訳した。
3行目は区切り方でいくつかの訳し方がありうる。前半律の区切れ目を基にすれば、Le grand Mercure で一度区切れると見るべきだろうし、その観点から直訳した。
ピーター・ラメジャラーや
リチャード・シーバースは Mercure を形容詞的に見て、The great, mercurial Hercules [of the] fleur-de-lys(ラメジャラー)、The mercurial Gallic Hercules (シーバース) などと訳している。彼らの訳だと Hercules の直前の d’ がどう処理されているのかが今ひとつ分かりづらい。
ジャン=ポール・クレベールは「偉大なるメルクリウスが白百合の花のヘラクレスのおかげで」のように訳している。
既存の訳についてコメントしておく。
大乗訳は、2行目「メンフィスへの道は簡略になり」がまずおかしい。
somentréeを「簡略」としたのは、
ヘンリー・C・ロバーツが summarily と英訳していたためだろうが、根拠が分からない。
同3行目「ヘラクレスの使者である水星はリリーの花のように」は、この行にいくつかの訳し方がありうるとはいえ、かなり変則的なものに見える。
信奉者側の見解
19世紀まででこの詩の解釈にコメントしていたのは
テオフィル・ド・ガランシエールと
アナトール・ル・ペルチエのみだった。もっともガランシエールは、
somentréeがサッパリ意味不明なせいで全体の意味も構文もつかみかねる、とコメントしただけだったので、実質的に解釈したのはル・ペルチエのみである。
ル・ペルチエは古い道々をカトリックや君主制の伝統と解釈し、未来においてそれらが再び評価され、東方をカトリックの信仰にするための十字軍が組織されることの予言と解釈した。
エリカ・チータムは最初の本では一言もコメントをつけず、最後の本でも解釈不能であることを述べただけだった。その日本語版では、世界の終末における「善の種族」の支配に関する予言とする解釈に差し替えられている。
ジョセフ・サビノは
somentréeから一部の文字を抜き出し、なおかつ文字を足してテネシー州 (TENnesSEE) を導いた上で、英語を元に so は南、men は人々、tree は木材で、テネシーに大きな木材マーケットがあることを予言していると解釈した。その上で、この詩はテネシーで起きたマーチン・ルーサー・キングJr.牧師の暗殺事件の予言とした。
川尻徹は
somentréeを somen と tree に分けた上で日本語読みや英語読みして、「ソーメン」(素麺)・「ツリー」(木)と解釈した。そこで、この詩はポールシフトによって気候が激変した日本は、ソーメンのように真っ白な木、すなわち樹氷に閉ざされた極寒の地になってしまうことの予言と解釈した。
同時代的な視点
「白百合の花」はフランス王家の象徴であり、「白百合の花のヘラクレス」が「ガリアのヘラクレス」こと
オグミオスを指しているであろうことはほぼ疑いない。
ジャン=ポール・クレベールは17世紀初頭に偽造されたノストラダムスの複数の四行詩に「メンフィス」が登場していることを指摘している。「
メンドススの偉大なる
シランは休んでいる。涙せよ、メンフィス。涙せよ、シリアのダマスカス…」(1606年)、「王家の雄鶏は獅子を目覚めさせる。涙せよ、メンフィスとマケドニアの都市よ…」(1612年)といった具合である。
つまり、メンフィスは偉大なフランス王 (「メンドススの偉大なるシラン」はどう考えてもヴァンドーム出身の
アンリ4世のことだろう) に攻略される東方の地名として描かれているわけで、偽造者たちがそのように描いていたということは、当時の人々にとって「メンフィス」という名前が、再び十字軍が組織される時に攻略すべき目標の一つと認識されていたことを示すはずである (詩篇の偽作の背景には政治的プロパガンダがあったはずなので、そうしたメッセージは受け手にすんなり伝わらないと意味がないからだ)。
ノストラダムスが同じ認識で「メンフィス」に言及したかは不明だが、この詩の前半は国王の入市式の挙行を描いているようにも読めるので、フランスの偉大な王族が武勲を重ねて東方に勢力を拡大することを願った詩という可能性はあるだろう。
最終更新:2019年11月16日 11:16