百詩篇第5巻19番


原文

Le grand Royal d’or1, d’ærain2 augmenté3,
Rompu la pache, par ieune4 ouuerte guerre:
Peuple affligé par vn chef lamenté,
De sang barbare5 sera couuerte6 terre7.

異文

(1) d’or : d’Or 1672
(2) d’ærain 1557U 1557B 1568 1588-89 1589PV : d’airain T.A.Eds.(sauf : d’airin 1627 1644 1653, d’Airain 1672)
(3) augmenté : augmenré 1665
(4) ieune : jéune 1716
(5) barbare : Barbare 1589PV
(6) couuerte : couuert 1649Ca
(7) terre : de terre 1649Ca, Terre 1672

(注記1)1588-89では、3-4-1-2の順で、II-40に差し換えられており、不収録。
(注記2)1590Roは比較せず

日本語訳

大いなるロワイヤル金貨は青銅(の含有量)が増やされる。
約定は破られ、若者によって戦端が開かれる。
民衆は指導者によって悲しみに暮れ、嘆かされる。
大地はバルバロイの血で覆われるだろう。

訳について

 1行目 grand Royal は、名詞+形容詞と理解して「王家の偉人」と訳すことも可能だが、Royal が大文字であることや、直後に d’or(黄金の)とあることから言って、形容詞+名詞と理解すべきだろう。
 名詞としての Royal は 「王の像を刻んだ14、15世紀のフランス金貨の総称」*1として使われ、DFE にも 「約68スーの価値がある古金貨」 という語義が載っている。
 実際、ピーター・ラメジャラージャン=ポール・クレベールらはそのように理解している。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 1行目 「金の王宮 銅がふえ」*2は、grand を宮殿と訳すのが強引だろう。
 2行目 「一致は若い人に破られ戦いがはじまり」 は、確かに par jeune (若者によって)を前半に係らせることは可能である。ただし、前半律は pache までだし、少なくとも初出の句読点の位置が正しいのだとすれば、不自然なことは否定できない。
 3行目 「人々は首長を失ってなげき悲しみ」 は、「失って」にあたる単語が原文にない。そのように意訳できる可能性はあるが、反面、2行目にある戦争に突っ込む指導者のせいで、人々が嘆かされるとも読める。

 山根訳について。
 1行目 「偉大な黄金の王族 銅により勢力を増し」*3は、そう訳せないこともないが、前述の理由によって不適切だろうと思われる。
 3行目 「人々は悲嘆の王に苦しめられ」 は、単語の位置関係からすれば、そうも訳せる。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、金銀を豊富に持つ王が、約束を違えた人物との戦争を行う予言と解釈した上で、スウェーデン王グスタフ・アドルフの可能性を検討した*4


 エリカ・チータムは解読不能としていた*5

 セルジュ・ユタンはナポレオンと解釈していた*6

同時代的な視点

 1行目は明らかに金貨の改悪を述べている。

 ピーター・ラメジャラーは、当時の貨幣改悪の動きと、『ミラビリス・リベル』に描かれた予言とが重ねあわされているのではないかとした*7


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  • 皇室(黄金)がある日本の兵力(青銅)が増大したが、1945年8月8日、日ソ中立協定を破って、ソ連が満州国に侵攻してきた。しかし、国境付近で多くの日本部隊が全滅して、野蛮な血筋のソ連兵に居留民の多くが殺傷・強姦・略奪された。二行の若者は二・ニ六事件を起こした青年将校を指しているようにも思える。 -- とある信奉者 (2013-03-01 02:16:41)
  • 何故、皇室が“黄金の偉大な王家”と表現されているのかを説明したい。マルコ・ポーロの『東方見聞録』で、我が国は「黄金の国 ジパング」と紹介された。「宮殿も黄金で出来ている」と凄く誇張されて紹介された。加えて、黄金は殆ど腐食しないので、万世一系の皇室を表現するのに最適な表現になる。 -- とある信奉者 (2013-03-04 12:00:02)
最終更新:2013年03月04日 12:00

*1 『ロベール仏和大辞典』

*2 大乗 [1975] p.154。以下、この詩の引用は同じページから。

*3 山根 [1988] p.184。以下、この詩の引用は同じページから。

*4 Garencieres [1672]

*5 Cheetham (1989)[1990]

*6 Hutin (2002)[2003]

*7 Lemesurier [2010]