百詩篇第9巻14番


原文

Mys en 1 planure chaulderons 2 d’infecteurs 3 ,
Vin, miel & huyle 4 , & bastis sur fourneaulx 5
Seront plongez sans mal dit mal facteurs 6
Sept. 7 fum 8 extaint 9 au canon 10 des borneaux 11 .

異文

(1) Mys en : Mis’en 1650Le
(2) chaulderons : chauderon 1605 1611 1628 1649Ca 1649Xa 1650Le 1668 1672 1981EB
(3) d’infecteurs : d’Infecteurs 1672
(4) & huyle : en huile 1672
(5) fourneaulx : forneaux 1665, Fourneaux 1672
(6) mal facteurs : mal-faicteurs 1590Ro, malfacteurs 1600 1627 1668P 1672 1716, mal faicteurs 1611B 1981EB, malefacteurs 1644 1650Ri, mal-facteurs 1840
(7) Sept. : Sept 1600 1610 1627 1644 1650Ri 1716, Sept, 1668P
(8) fum : fum. 1605 1611 1628 1649Ca 1649Xa 1650Le 1668 1672 1840 1981EB
(9) extaint : extinct 1981EB
(10) canon : Canon 1672
(11) borneaux : bordeaux 1600 1610 1627 1981EB, bourdeaux 1644 1650Ri 1650Le 1668, Borneaux 1672, Bourdeaux 1716

校訂

 1行目 chauderons は chaudrons の綴りの揺れで異論はない *1
 4行目 borneaux という語は辞書にはない。ボルドーの誤記とされることもあるが、ピエール・ブランダムールは bardeaux (屋根板) と校訂していた *2ピーター・ラメジャラージャン=ポール・クレベールリチャード・シーバースらは誰も踏襲していないが、文脈を考えると十分に説得力はあるものと考えられる。

日本語訳

伝染させる者たちの大鍋が水平に置かれる。
ブドウ酒と蜂蜜と油、そして炉で作られる物とが、
無害なのに、害悪を生み出すものと言われ、沈められるだろう。
七番目の煙は屋根板の煙突にて消える。

訳について

 1行目 mis en planure は直訳すれば、「平野に置かれる」 だが、ピエール・ブランダムールは単に 「平らに置かれる」(mis à plat) としているので、それに従った *3
 4行目の Sept. は 「七番目 (Septième)」 の略の可能性を示していたジャン=ポール・クレベールの読みを参考にしたが、Septembre (9月)、Septentrion (北方) など、同じ書き出しの単語は他にいくつも挙げられる。なお、fum も extaint (éteint) も単数なので、よく訳される「七人」や「七つの煙」といった訳は妥当性に疑問も残る。
 borneauxはブランダムールの校訂に従ったが、ジャン=ポール・クレベールのように、プロヴァンス語起源で 「煙突」 を導くのもありうる読みだろう。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 1行目「平らなところに染物台が置かれ」 *4 については、chauderons (chaudrons) が 「鍋」 の意味であることからすれば、「台」は不適切であろう。infecteur を「染物屋」 と理解することは可能な読み。
 2行目「酒と蜜と油が満たされ かまどをつくり」 は、前半のような意訳はピーター・ラメジャラーらにも見られるものだが、後半は前置詞 sur を無視して訳したとしか思えない。
 4行目「七人はボルドーの法でよびだされる」 は元になったヘンリー・C・ロバーツの英訳をほとんどそのまま転訳したものである。canonは規律の意味もあるから、「ボルドーの法」はまだよいとしても、extaint (éteint, 消える) がどうして 「よびだされる」 になるのか不明だし、fumも訳に反映されていない。

 山根訳について。
 1行目 「染物屋の大釜が平らな場所に置かれ」 *5 は、前述の理由によって可能な読み方。
 2行目 「ブドウ酒 蜂蜜 油脂 そしてかまどの上に建てられる」 は、直訳としてはむしろ正しい。なお、bastir (bâtir) は確かに現在は 「建てる」 の意味が主だが、中期フランス語ではより一般的な 「創出する」(créer)、「加工する」(façonner) などの意味もあった *6 。当「大事典」の読み方はそうした語義に基づいている。
 3行目 「彼らは溺れ死ぬだろう 何一つ悪いことをいわず しないのに」 は後半が疑問。 mal dit と mal facteurs では語形も単複も一致しておらず、並列的と読むには苦しいのではないだろうか。
 4行目 「ボルノーの七人 蛇は大砲で消される」は、元になったエリカ・チータムの英訳の忠実な転訳だが、snake はおそらく smoke の誤植ではないかとも思える。他方で、のちの最終改訂版でも snake になっていることから、チータムがエドガー・レオニあたりの英訳を見間違えて、そのまま気付かずじまいになっていた可能性も否定できない。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエール(1672年)は、油を満たした鍋で処罰される贋金の鋳造者について予言したものと解釈した *7

 アンリ・トルネ=シャヴィニー(1861年)はこの詩をルイ18世とナポレオンに当てはめ、borneauxという語はワーテルロー付近の古称セット・ボルン (7 born) と結びつけた *8

 セルジュ・ユタン(1978年)は第一次世界大戦で登場した近代科学兵器の数々と解釈した *9

 川尻徹(1987年)は、大乗訳を採用して東京裁判と解釈し、4行目の 「七人」 は A 級戦犯とされた7人を意味するとした *10

 竹本忠雄(2011年)は、2行目のブドウ酒と蜂蜜と油をひとまとめに「超高エネルギーの比喩」として、「炉」を原子炉と解釈し、東日本大震災における福島の原発事故と解釈した *11

同時代的な視点

 ピーター・ラメジャラーは出典不明としていた *12

 ジャン=ポール・クレベールは錬金術的な詩か、宗教戦争の一場面に関する詩の可能性を示していた。
 当「大事典」の見解は後者に近く、プロテスタントに関する詩ではないかと考える。
 2行目の「炉で作られるもの」が金属細工やガラス細工のようなものを指すのだとすれば、2行目はすべて奢侈品が列挙されていることになる。それを鍋に放り込むというのは、百詩篇第3巻67番にも見られるような、プロテスタントによる私有財産の否定を表現しているのではないだろうか。
 この視点では、1行目の「伝染させる者」はもちろんプロテスタントを指すが、infecteurのもうひとつの可能性である「染める者」 という訳を採用したところで、(日本語でも 「悪い思想に染まる」 などの言い回しがあるように) 大意としては何の差支えもないだろう。


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