ノストラダムスの遺言補足書 原文と全訳

 ノストラダムスの遺言補足書の原文と日本語訳を示す。遺言書のほうは原文日本語訳を分けたが、遺言補足書は短いので、同じページで原文と訳文を扱う。
 底本はダニエル・ルソの紹介によるマルセイユ原本 *1 を使用し、直後にカッコのない下線部はエドガー・レオニの紹介によるアルル写本 *2 での省略部分、直後にカッコのある下線部はアルル写本でカッコ内の語に置き換わっている箇所を示す (「マルセイユ原本」「アルル写本」といった当「大事典」特有の便宜的名称については、ノストラダムスの遺言書・遺言補足書の概説を参照のこと)。マルセイユ原本とマルセイユ抄本の比較については、パトリス・ギナールによる外部サイトのコンテンツLa troisième et dernière Épître de Nostradamus: Son Testament を参照のこと。
 原本に節の区切りはないと思われるが、ここでは原文と日本語訳を対応させやすいように、ダニエル・ルソの区切りを踏襲した。
 なお、従来の唯一の日本語訳は『ノストラダムスの遺言書』 (二見書房)およびその改題版に含まれたものだった(外部サイト「ノストラダムスサロン」の「ノストラダムス遺言補足書」では、信頼性に注意を喚起した上で全文を引用している)。それは省略が多いが、遺言書と違い元の文書が短いこともあり、不適切な訳はそれほど多くはない。省略箇所の検討などは、ページサイズへの配慮などから、逐一行うことはしなかった。
 最後に 「遺言補足書」 という訳語について説明しておく。上記の日本語版では 「遺言書添え書き」 と記載されているが、原語 codicille については『ロワイヤル仏和中辞典』、白水社『仏和大辞典』などが 「遺言補足書」、『ロベール仏和大辞典』が 「遺言変更証書」 という訳語をあてている。「添え書き」というのは本来、手紙の末尾などの書き添える言葉を指すので、独立した公正証書を指す訳語としては不適切であろうと判断した。

原文

(1) L’an à la Nativité nostre<de Notre> Seigneur mil cinq cens soixante six et le dernier jour du moys de Juing, saichent tous présentz et advenir qui ces présentes verront que, par devant et en la présence de moy Joseph Roche notaire royal et tabellion juré de la présente ville de Sallon diocèze d’Arles soubzigné et des tesmoings cy après nomméz, feust présent en sa personne monsieur maistre Michel Nostradamus docteur en médecine astrophille conselhier et médecin ordinaire du roy, lequel considérant et rédvisant *3 en sa mémoyre comme il a dict avoyr faict son dernier<dernier testament> nuncupatif, prins et receu par moydict<moy dit> et soubszigné notayre sur l’an présent et le présent et le dix-septiesme jour du présent moys de Juing, auquel entre aultres choses *4 contenues en icelluy auroyt faict ses héritiers Cézar Charles et André de Nostradamus ses enffans ;
(2) et pour ce que à ung chescung est licite et permis de droict codicilles<codiciller> et faire ses codicilz après son testement par lesquels à son dict testement puisse adjouster ou diminuer ou aultrement de tout en tout abollir pour ce ledict Maistre Michel de Nostradamus voullant faire ses codicilz et de présent codicillant et adjoustant à sondict testement, a légué et lègue audict Cézar de Nostradamus son filz bien aymé et cohéritier son astralabe<Astrolabe> de leton *5 ensamble son gros aneau d’or avec la pierre cornelline *6 y enchassée, et ce oultre et par dessus le prélégat à luy faict par ledict de Nostradamus son père à son dict testement ;
(3) et aussy a légué et lègue à damoyselle Magdaleyne de Nostradamus sa filhe légitime et naturelle oultre ce que luy a esté légué par sondict testement scavoyr est : deux coffres de baut<bois> noyer estant dans l’estude dudict codicillant, ensambles<ensamble> les habilhements bagues et joyeaulx que ladicte damoyselle Magdalleyne aura dans lesdicts coffres, sans que nul puisse veoyr ne<ny> regarder ce que sera dans iceulx ains dudict légat l’en a faicte<fait> mestresse incontinant après le décepz dudict codicillant, lequel légat ladicte damoyselle pourra prandre de son aucthorité sans quelle<qu’elle> soyt tenue de le<les> prandre par main d’autre<d’autruy> ny consentiment d’aulcun<d’aucuns> ;
(4) et en toutes et chescunes les aultres choses contenues et déclairées à son dict testement ledict maistre Michel de Nostradamus codicillant a apprové ratiffié et confirmé et a voleu et veult icelles valloyr et avoyr tousjours perpétuelle valleur et fermesse *7 et aussy a voleu<a vollu et veut> icelluy dict codicillant ce présent codicil et tout le contenu en icelluy avoyr vertu et fermesse par droict de codicil ou eppitre<et autres> et par droict de toute<tout> aultre dernière volanté et pour<par> la melheur forme et manière que fere se pourra ; et a requis et requiert moydict et<moy> soubzigné notaire et tesmoings cy après nomméz estre recordz de son dict présent codicil, lesquels tesmoings il a bien cogneuz et nommés par leurs noms et lesquelz tesmoings ont aussy cogneu ledict codicillant, dont et de quoy ledict maistre Michel de Nostradamus codicillant a voleu acte en estre faict à ceulx à qui de droict apartiendra par moydict et soubzsigné notaire.
(5) Faict passé<et passé> et publié audict Sallon et dans la maison dudict codicillant èz presences<en presence> de sieur<sire> Jehan Allegret trézorier, Maistre Anthoine Paris docteur en médecine, Jehan Giraud dict Bessonne<dit de Bessoune>, Guilhen Heyraud<Guillem Eyraud> appothicquaire et maistre Gervais Berard cirurgien dudict Sallon, tesmoings requis et appellés<tesmoin à ce requis et appellés> ; lesquelz codicillant et tesmoings jedict notaire ay requis soy signer suyvant l'ordonnance du roy qui se sont soubzsignés excepté ledict Giraud tesmoing qui a dict ne scavoyr scripre ainsy signés à son premier originel. M. Nostradamus, Jehan Allegret, Gervais Berard, A. Paris, Guilhen Heyraud<Guillem Eyraud> tesmoings.
(Signum du notaire Roche)<Roche notaire>

日本語訳

(1)
 現下の全てと、居合わせる者たちが目にするであろう未来をご存知の、我らが主の御降誕より数える1566年の6月末日。
 以下に署名する私こと当アルル司教区サロン市の王国公証人にして法廷公正証書役たるジョゼフ・ロシュと、以下に選任された証人たちは、医学博士にして愛星家、国王の常任侍医にして顧問たるミシェル・ノストラダムス師の前に立ち会った。この者は、本年の当月すなわち6月の17日に直近の遺言書を口述で作成するように命じ、様々な事項が含まれるその書状において、彼の子供たちであるノストラダムス家のセザール、シャルル、アンドレを自らの相続人とし、以下に署名する公証人である当の私によって受容された。その時と同じように、この者は熟慮し、覚書をしたためている 1
(2)
 そして、遺言を変更する権利は誰にでも認められており、遺言書の後に遺言補足書を作成することは適法であるから、それによって遺言を書き足したり、削ったり、あるいは一切を廃棄したりできるのである。そのため、当ミシェル・ド・ノストラダムス師は遺言補足書を作成することで今から彼の前記の遺言書に追補することを望みつつ、深く愛する息子であり共同相続人の一人であるセザール・ド・ノストラダムスに、真鍮製の天体観測儀を、紅玉髄を嵌めこんだ大きな金環とともに残し、彼の父である前記のド・ノストラダムスによって、前記の遺言書において彼に対して行われた遺贈の先取分に上乗せするものである。
(3)
 そして同じく、嫡出子である娘マドレーヌ・ド・ノストラダムス嬢には、前記の遺言書で彼女に遺したものに加え、以下のもの、すなわち前記の遺言補足人の書斎にあるクルミ材の木箱2個を、そこに入っていて前記マドレーヌ嬢が手にすることになる衣類、指輪類、宝石類とともに遺贈する。その中に入っているものを誰も確認することはできず、前記の遺言補足人の死後ただちに、彼女は前記遺贈分の持ち主になる。それらの遺贈分を前記の令嬢 〔であるマドレーヌ〕 は、他者の手にゆだねることも他者の同意を得ることも求められずに、自身の権限で受け取れるであろう 2
(4)
 遺言補足人である前記ミシェル・ド・ノストラダムス師は、前記の遺言書で表明されたそこに含まれる他の全事項のおのおのについて賛同し、それらを堅持する。そして、それらが有効であり、永続的な価値と揺るぎなさを持つことを望む。そして同じく前記の遺言補足人は、この遺言補足書とその内容の全てが、遺言補足書ないし書簡 3 の権利により、また、他の最後の意思表示の権利により、行いうる最良の形式と様式をとって、効力と揺るぎなさとを持つことを望む。そして、以下に署名する公証人である当の私と、以下に選任される証人たちに、彼のこの遺言補足書の立会人となることを要請した。彼はその証人たちのことをよく知っていて彼らの名前を挙げたのだし、その証人たちもまた前記遺言補足人のことをよく知っている。そのことから、前記の遺言補足人ミシェル・ド・ノストラダムス師は、法的にしかるべき彼らと、以下に署名する公証人である当の私によって、〔遺言書や遺言補足書の執行に関わる〕 法的行為が行われることを望む。
(5)
 当サロン市の前記遺言補足人の自宅にて、財務官ジャン・アルグレ殿、医学博士アントワーヌ・パリ師、ジャン・ジロー通称ド・ベソンヌ、薬剤師ギヤン・エロー、当サロン市の外科医ジェルヴェ・ベラール師、〔以上の〕 要請と召集を受けた証人たちの立会いのもとで作成され、承認され、公にされた。公証人である私は王令に従い、前記の遺言補足人と証人たちに自署を要請した。字の書き方を知らないと述べた証人である前記のジローを除き、署名が行われた。
 そうしてその最初の原本には 〔以下の者たちの〕 署名がされた。M・ノストラダムス、証人たちであるジャン・アルグレ、ジェルヴェ・ベラール、A・パリ、ギヤン・エロー。
(公証人ロシュの署名)

注記

  • 1. この節の後半は関係詞の係り方を日本語として自然に訳すのが難しいため、原文の意味を損ねない範囲で意図的にフレーズの順序を入れ替えて訳している
  • 2. マリオ・レディングの小説 『ノストラダムス 封印された予言詩』 では、マドレーヌへの遺贈品に誰も触れさせようとしなかったのは、そこに失われた詩篇が含まれていたからということになっている。フィクションの設定にあれこれ言っても仕方がないが、この場合に封印するよう指示したのは、まだ15歳くらいでしかなかったマドレーヌが、周囲の干渉を受けて一部を取り上げられたりすることなしに、そっくりそのまま受け取れるようにという、父親としての配慮に過ぎないものと思われる。
  • 3. 「遺言補足書ないし書簡」の 「書簡」(eppitre) が意味するところは不明。文脈からすれば、法的に作成が認められている何らかの文書を指すのだろうが、古語辞典にはそれらしい語義は見当たらない。アルル写本で 「その他」(autre) と書き換えられてしまったのは強引だが、ひとまず文脈には沿う。信奉者的な解釈を採るパトリス・ギナールは eppitre という語について、ノストラダムスが遺言書と遺言補足書を、『予言集』の第1の書簡(セザールへの手紙)、第2の書簡(アンリ2世への手紙)に続く第3の書簡と位置づけていた証拠としているが、当「大事典」としては支持しがたい。


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