1999年日本「大予言(ノストラダムス)」からの脱出

 『1999年日本「大予言」からの脱出』は1996年に光文社から刊行された五島勉の著書。

 「大予言」の部分に「ノストラダムス」と読みがながふってある。

内容

 題名にノストラダムスとはあるものの、副題が「終末を覆す『来るべきものたちの影』」となっているように、H.G.ウェルズのSF小説 The Shapes of Things to come (邦題:世界はこうなる) を予言書として見た上で、そこに他の予言者らの予言を重ねて未来像を探るといった体裁になっている。

 そのウェルズに基づく予言の例として、「たとえばあと十年も待てば、ガンやエイズや強いアトピーなどで苦しむ人たちへの朗報がかならず聞かれる。つまり画期的な全治への治療法が発見される。また感染しても発病しなくなる」*1といった未来予測が書かれている。

コメント

 ノストラダムスとの関連では、その予言は警告だったと言うことと、自分は『ノストラダムスの大予言』の末尾できちんと希望に触れていたのだという釈明が展開されている。

 前者に関連して、「いまから八年ぐらい前、大阪のホテル」でタバコの火の不始末などが原因で 「七階の一室でボヤ」が発生した時の体験が語られ、非常ベルの重要性が強調されている*2

 1996年の本の8年位前なら1988年ころということになるのだろうが、『2000年5月5日』(三笠書房、1984年)では 「四、五年ほど前に」「大阪に行き、あるホテルに泊まった」 ときに、「八階だか九階の小調理室から火が出た」ことで起きたボヤで、非常ベルの重要性を認識した話が出てくる*3
 そちらのエピソードは実質的な文庫化である『THE LAST DAY』(1988年)では、きちんと 「七、八年ほど前」に直されている*4

 後者の釈明はある時期以降の著書ではしつこいくらいに語られることになるが、この本はその中でも最も早い部類に属すると思われる。

ウェルズ予言

 五島がこの本で採り上げたThe Shapes of Things to come は、『H・G・ウェルズの予言された未来の記録』(祥伝社、2013年)で再び採り上げられることになる。

 もっともそちらでは題名が 「来るべきものたちの姿」 と訳しなおされている。


【画像】 H・G・ウェルズの予言された未来の記録

 こちらの本では、The Shapes of Things to comeに登場する四行詩の 「アーモンド」 が、邦訳版では 「もも」 と訳されていることについて、訳者の吉岡義二に生前直接会って疑問をぶつけ、本来アーモンドと訳すべきところをなぜ 「もも」 と誤魔化さざるをえなかったのかの真意を聞き出したことになっている。

 それは『H・G・ウェルズの予言された未来の記録』で肝になる重要な部分のひとつなので、ここでのネタバレは当面避けるが、吉岡とのやり取りが 「高度成長期の最中」*5だったという割に 『1999年日本「大予言」からの脱出』 では、何の秘密もない 「桃の花」 としてあっさり片付けられていた*6

 また、『1999年日本「大予言」からの脱出』 と 『H・G・ウェルズの予言された未来の記録』 では、ウェルズ予言を知ったきっかけが阿部知二・訳の 『ウェルズ傑作集』 の訳者あとがきだったという点は一致しているが、それについて電話した時の阿部の対応が180度異なっている*7

 五島がウェルズの The Shapes of Things to come に昔から関心を寄せていたことは確かである。
 『ノストラダムスの大予言』を出す前に、五島はウェルズの予言に絞った企画を出していたという話もあるし、『微笑』特別号(1974年)でSF作家・田中光二と対談した際にも自発的に言及していたからだ。
 ただし、そこでは「まあ、でも、逆説ですよね。そういうふうにはもうならないですね」と否定的に断言してしまっており*8、これを大々的扱うのは難しいという自覚があったようにも読める。

 なお、そのように思い入れを持っていたらしいことは確かにしても、その紹介には様々な嘘や疑わしい情報が混ぜられていることを、古典的なSFに造詣が深く、自身もSF作家として活躍している山本弘が、『謎解き超常現象IV』にて具体的に指摘している。


【画像】 ASIOS 『謎解き超常現象IV』

外部リンク



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最終更新:2014年12月31日 23:11

*1 同書 p.89

*2 同書pp.34-43

*3 同書pp.217-219.

*4 同書pp.218,219

*5 同書p.158

*6 同書p.70

*7 『1999年日本「大予言」からの脱出』pp.204-205、『H・G・ウェルズの予言された未来の記録』pp.110-114

*8 同誌p.165