百詩篇第2巻65番


原文

Le parc enclin 1 grande 2 calamité
Par l’Hesperie & Insubre 3 fera:
Le feu en nef 4 , peste 5 & captiuité 6 :
Mercure en l’Arq 7 Saturne 8 fenera 9 .

異文

(1) parc enclin : bras enclin 1588-89, pare enclin 1600 1610, par cenclin 1627 1644 1650Ri, park enclin 1672, Parc enclin 1772Ri
(2) grande : grand 1665
(3) Insubre : insubre 1588-89 1611B, iusubre 1627, in subre 1981EB
(4) feu en nef : Feu en Nef 1672, feu enef 1981EB
(5) peste : Peste 1672
(6) captiuité : Captivité 1672
(7) l’Arq 1555 1627 1840 : l’Arrc 1557U, l’arc 1557B 1589PV 1649Ca 1650Le 1653 1665 1668, l’Arc 1568 1590Ro 1597 1600 1611 1644 1650Ri 1772Ri 1981EB, darc 1588Rf 1589Rg, d’arc 1589Me, l’Art 1605 1628 1649Xa, l’Are 1610 1716, l’Ar 1672
(8) Saturne : Saturn 1672
(9) fenera : finira 1588-89

校訂

 1行目 Le parc が文脈にはそぐわない。エヴリット・ブライラーは運命の女神パルカ三姉妹にひきつけて La Parque encline ないし Parques enclines ではないかとした *1

 ピエール・ブランダムールは parc を p. arc. と校訂し、pôle arctique (北極)の略と理解した *2 。たしかに百詩篇集には pole(pôle) arctique が何度か登場しているが、p. arc. などと略した事例はない。
 いささか強引なことは否めないだろうが、高田勇伊藤進ブリューノ・プテ=ジラールリチャード・シーバースといった実績ある仏文学者たちが踏襲している読み方なので *3 、当「大事典」としてもこれを採りたい。

 ピーター・ラメジャラーは2003年の時点ではブランダムールの読みを踏襲していたが、2010年になると Le parc を Léopard (豹) と読み替えたらしく、英訳は park と leopard が併記されている *4

 ジャン=ポール・クレベールはラテン語の parcus からとして 「吝嗇家」 の意味を導いたが、ブランダムールの読み方も紹介した *5

日本語訳

緯度上の北極地方が大規模な破局を
ヘスペリアインスブリアとを介して生み出すだろう。
船には火、ペストと捕囚。
メルクリウスは人馬宮に。サトゥルヌスは刈り取るだろう。

訳について

 1行目 parc は前述のように p. arc. とする読みを採った。また、enclin はしばしばラテン語から「傾いた」 の意味に解釈されるが、ギリシア語の語源なども援用して en latitude (緯度上の) としたブランダムールの読みに従った。
 4行目 fener は「(干し草などを)刈る」の意味 *6

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 1・2行目「公園はヘスペリアとインスブリアにかけて/大災害で傾き」 *7 は、2行目 fera (行うだろう、生み出すだろう)の主体が不明瞭で、強引に思える。
 4行目「白羊宮の水星と土星は衰えるだろう」は、l’Arc(弓、比喩的に人馬宮)を白羊宮とするのが誤り。テオフィル・ド・ガランシエールは原文を l’Ar と書き換えて l’Aries の略と見なしたからそう訳していたのだが、ヘンリー・C・ロバーツは原文を l’arcに直していながら、訳はガランシエールの丸写しをしている。大乗訳はそれをそのまま引き写したものだろう。「衰える」も不適切だが、エドガー・レオニも fanera と同一視してそのように訳していた。かつては許容されたかもしれないが、中期フランス語の語義から言っても、もはや支持できないだろう。

 山根訳について。
 1行目 「衰えた狩猟場で常ならぬ災難が」 *8 は、parc には狩猟場、猟園の意味もあるので、前置詞を補った上での直訳としては間違いではない。
 2行目 「アメリカとロンバルディアで」 はヘスペリアが 「西方」 の意味であることを踏まえたのだろうが、「アメリカ」 は意訳しすぎだろう。
 4行目「水星が射手座に 土星が警告する」は、後半が不適切。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、単語は平易でも意味が曖昧だとして、ヘスペリアがスペイン、インスブリアがサヴォワだとする語釈を示すにとどまった *9
 その後、19世紀までにこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、ジャック・ド・ジャンバルタザール・ギノーD.D.テオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードの著書には載っていない。

 マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)(1938年)は、parc をラテン語の parcus からと見た上で、経済問題の失墜がスペインやイタリアに破局をもたらし、カトリック教会(船)も炎上するという、解釈時点から近未来にかけての情景と解釈した *10
 アンドレ・ラモン(1943年)の解釈は明らかにそれに触発されているが、彼の場合、1936年のイタリアによるエチオピア占領やスペイン内戦に関する詩と解釈した *11
 スペイン内戦とする解釈はセルジュ・ユタンも採用していた *12

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ(1980年)は、近未来に起こると想定していた欧州大戦の一場面としての経済危機やローマ教会の受難、モナコ (彼は Arc をモナコのラテン語名 Monoeci Arx と結び付けた) への略奪行為などの予言と解釈していた。

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールが示し、高田勇伊藤進が敷衍した読み方では、4行目にある人馬宮にメルクリウス (水星) がある星位は10月半ばから1月半ばのことであり、北極圏の人々がインスブリア(ミラノ周辺) やヘスペリア (西方の国。ギリシアを基準にするとイタリア、ローマを基準にするとスペインなど) に攻撃を仕掛けることが前半に示されている。3行目の列挙は全部を災厄 (船火事、ペスト、捕囚) と見ることも、舟の火をセント・エルモの火 (凶兆とされた放電現象) と見て、3行目後半の災厄を告げる凶兆と見ることも可能である。サトゥルヌスは鎌を持った神として描かれるので、それが刈り取るというのは、命を刈り取ることの比喩だという *13
 ノストラダムスはしばしば北極圏地方の人々の動向を描写している(百詩篇第6巻21番など)。

 ピーター・ラメジャラーは1行目の Le parc enclin を前述の校訂に従って 「屈んだ豹」 と理解していることもあってか、1527年のローマ掠奪がモデルとした *14


コメントらん
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  • 11/23(水)頃に起きるISSの落下事故である。 -- れもん (2016-11-06 11:42:51)
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