詩百篇第1巻8番


原文

Combien de foys prinse1 cité2 solaire3
Seras4, changeant les5 loys6 barbares7 & vaines8:
Ton mal s'approche. Plus9 seras tributaire10,
La11 grand Hadrie12 reourira13 tes14 veines15.

異文

(1) prinse : priinse 1627Di
(2) cité : Cité 1589PV 1590SJ 1628dR 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668 1672Ga
(3) solaire : solitaire 1606PR 1607PR 1610Po 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri 1716PR, Solaire 1672Ga
(4) Seras : Sera 1589Me 1612Me 1665Ba
(5) les (vers2) : ses 1606PR 1607PR 1610Po 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba 1716PR
(6) loys / loix : Loix 1672Ga
(7) barbares : barhares 1612Me
(8) vaines : veines 1557U 1557B 1568X 1589PV 1590Ro 1590SJ 1667Wi
(9) Plus : plus 1588-89 1589PV 1590Ro 1590SJ 1612Me 1649Ca 1650Le 1665Ba 1668 1672Ga
(10) tributaire : tributaires 1716PR(a c)
(11) La grand : Le grand 1607PR 1627Ma 1650Ri 1667Wi 1672Ga, La grande 1716PRb
(12) Hadrie : Hardrie 1588Rf 1589Me 1612Me, Hardie 1606PR 1607PR 1610Po 1716PR, Adrie 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba 1672Ga
(13) reourira 1555 1557U 1557B 1568X 1568A 1840 : recourira 1568B 1568C 1591BR 1611A 1611B 1981EB 1772Ri, reouurira 1590Ro, recouurira T.A.Eds.
(14) tes : les 1612Me
(15) veines : vaines 1557U 1557B 1568X 1588-89 1589PV 1590Ro 1590SJ 1612Me 1649Ca 1650Le 1668 1716PRb

(注記)1597Brは比較できず

校訂

 ピエール・ブランダムールは2行目末尾の "barbares & vaines :" を "barbares vaines ?" と校訂した。& を省くのは韻律上の要請だという。「?」 とするのは1行目の combien に対応させたものだろう。

日本語訳

太陽の都市よ、汝は何度囚われと
なるのだろうか、空虚なバルバロイの掟を変えつつ。
汝の災禍が近づく。より一層従属することになるだろう。
アドリア海の大物が汝の血管を再び開くだろう。

訳について

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 1行目 「おお 太陽の町がいくたび訪れるのだろうか」*1は、不適切だろう。元になったヘンリー・C・ロバーツの英訳では taken が使われているが、この文脈でわざわざ 「訪れる」 と訳す必然性が分からないし、原文が受動態であることとも対応しない。
 2行目 「汝の無益な残虐な法は変えられるだろう」 も不適切な可能性がある。法についているのは定冠詞 les なので、「汝の」 法とは限らない。
 3行目 「汝が不正に近づけば いっそう従属することになるだろう」 は、前半が不適切。条件法 (英語の仮定法) は使われていないし、主語は 「汝の災禍」 なので、汝が(主体的に)近づくというニュアンスではない。
 4行目 「そして偉大なるベニスは汝の本性を取りもどすだろう」 は色々問題がある。後述するように 「アドリア海の大物」 がヴェネツィアを指している可能性は十分にあり、「偉大なるベニス」 はその解釈をまじえたものだろう (ロバーツの英訳でもそうなっている)。「本性」 は確かに英語の vein にはそういう意味もあるとはいえ、本来の 「血管」 の意味にとって問題があるとも思えない。

 山根訳について。
 3行目 「ひどい時代がおまえに近づく もうおまえは奴隷になることはない」*2は後半がおかしい。これはエリカ・チータムの英訳をそのまま転訳したものである。確かに現代でも中期フランス語でも、plus は否定語を伴わずに否定的意味合いを持つことはある。しかし、この場合は、むしろ文脈にそぐわなくなるのではないだろうか。実際、ピエール・ブランダムールリチャード・シーバースといった学識ある人物は、否定的意味には訳していない。
 4行目 「偉大なアンリが血管を蘇らせてくれよう」 は、解釈をまじえすぎであろう。エリカ・チータムにしても、英訳の時点ではそのまま Great Hadrie とし、解釈でアンリ4世と結び付けているにすぎない。後半は依拠した原文の違い。異文欄にあるように、初期の版がいずれも reouvrira (再び開くだろう) となっていたものを、1568年版の一部の版が (おそらく単純に誤って) recouvrira (回復するだろう) としてしまい、それが後に引き継がれた。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、太陽の都市を特定するのは難しいとする一方、アドリア海の大物はヴェネツィアのことだろうとしたが、それ以上の解説はなかった*3

 その後、19世紀末までにこの詩を解釈したのはアンリ・トルネ=シャヴィニーだけのようである。そのトルネ=シャヴィニーはアンリ4世の治世下のパリと解釈していた*4
 アンリ4世とパリに結びつける解釈は、ジェイムズ・レイヴァーエリカ・チータムジョン・ホーグネッド・ハリーらが踏襲した*5。彼らの解釈では、4行目の grand Hadrie は 「偉大なハドリアヌス」 と読まれ、アンリ4世と結び付けられる。

 アンドレ・ラモンは1943年時点において、近未来のイタリアの政体が目まぐるしく変化することの予言と解釈した*6

 竹本忠雄は第二次世界大戦の予言のひとつとし、王政を放棄した時代のフランスは (ナポレオンの敗北後、普仏戦争後、第二次大戦時) と、何度もパリを占領される羽目になったことの予言とし、Hadrie は「アドルフ・ヒトラー、アーリア人」の省略形のアナグラムであると解釈した*7

同時代的な視点

 エドガー・レオニは 「太陽の都市」 をローマではないかとし、1527年のローマ掠奪以上の災いが予言されているのではないかとしていた。ローマ掠奪がモデルとする見解は、ロジェ・プレヴォも示していた*8

 ピエール・ブランダムールは 「太陽の都市」 を古代に太陽神ヘリオスの信仰で知られていたロードスではないかとし、ロードス島の領有権がノストラダムスの時代にヴェネツィア (アドリア海の大物) とオスマン帝国 (バルバロイ) の間で二転三転していたことを描いているのではないかとした*9

 ピーター・ラメジャラーは2003年の時点ではロードスとするブランダムール説を土台に、『ミラビリス・リベル』の予言も投影されている可能性を示していたが、2010年になると 「出典未特定」 として、事実上解釈を取り下げた。

 ロードスを 「太陽の都市」 とするのは、現代人には分かりづらい。しかし、古代の世界七不思議に数えられていたロードスの巨像は太陽神ヘリオスをかたどったものであり、古典的素養があれば結びつけは容易である。そして、別の予言についてではあるが、ノストラダムスの秘書だったこともあるシャヴィニーは、「太陽の都市」 をロードスと断言していた(太陽の都市参照)。つまり、16世紀の教養人にとっては、この結び付けには無理がないものだったように思われる。

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コメントらん
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  • ヴェネチアやバルバロイ(イスラム)との関係から言うと、 キプロス島の首都ニコシアが当てはまりそうだが、どうか。 -- とある信奉者 (2017-03-24 00:08:00)

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詩百篇第1巻
最終更新:2018年06月21日 11:03

*1 大乗 [1975] p.47。以下、この詩の引用は同じページから。

*2 山根 [1988] p.40。以下、この詩の引用は同じページから。

*3 Garencieres [1672]

*4 Torné-Chavigny [1862] p.6 (Googleブックスのf.153

*5 Laver [1952] p.90, Cheetham [1973], Hogue (1997)[1999], Halley [1999] p.30

*6 Lamont [1943] p.270

*7 竹本 [2011] pp.631-633

*8 Prévost [1999] pp.204-205

*9 Brind'Amour [1996]