百詩篇第6巻21番


原文

Quant1 ceulx du2 polleartique3 vnis ensemble,
En4 Orient grand effraieur5 & crainte6:
Esleu nouueau, soustenu le grand temple7,
Rodes, Bisance de8 sang Barbare9 taincte.

異文

(1) Quant : Quand 1568I 1589M 1600 1628 1649Ca 1650Ri 1653 1665 1840
(2) du : de 1649Ca 1650Le 1668
(3) polleartique 1557U 1557B 1568A 1649Ca : polle artiq 1568B 1568C 1568I 1588-89 1611A 1772Ri, polleartiq 1589PV 1590Ro, polle arctic 1597 1600 1610 1644 1653 1665 1716, pole Arctique 1603PL, pole artiq 1605 1628 1649Xa, polle rectic 1627, Polle artiq’ 1611B, polle artiq’ 1981EB, pole arctic 1650Ri 1650Le 1668, Pole Artique 1672, pole arctiq 1840
(4) En : Et 1597 1600 1610 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1716 1840
(5) grand effraieur : grande frayeur 1603PL
(6) crainte : craints 1627 1650Ri 1716 1867LP
(7) temple : tremble 1568B 1568C 1568I 1597 1600 1605 1610 1611 1627 1628 1644 1649Xa 1650Ri 1653 1665 1672 1716 1772Ri 1840 1981EB
(8) de : en 1603PL
(9) Barbare : barbare 1588-89 1603PL 1627 1644 1649Ca 1650Ri 1650Le 1653 1665 1668 1772Ri 1840

校訂

 1行目のpolleartique は明らかに polle (pôle) arctique の誤記だろう。ブリューノ・プテ=ジラールの校訂では polle arctiq と綴られている。

日本語訳

北極の人々が一つにまとまる時に、
オリエントでは大きな恐怖と畏怖が。
新たな者が選ばれ、大神殿は支えられる。
ロードスビュザンティオンバルバロイの血に染まるだろう。

訳について

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 3行目 「人が新しく立てられ ほこ先をにない」*1は、後半が誤訳で、temple が tremble (古語では tremblement と同じ*2)になっている異文に依拠したことを差し引いてもおかしい。ヘンリー・C・ロバーツが brunt と訳していたことを基にした転訳による誤りだろう。

 山根訳について。
 3行目 「新しい人物が選ばれる 震える偉人に支持されて」*3は、大乗訳同様、temple を tremble とする異文に従ったものだが、tremble (振動)を tremblant (震える)と同一視できるかは疑問が残る。

信奉者側の見解

 ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは、『七星集』(1603年)の冒頭で、「新たな者が選ばれ」をアンリ4世と解釈しているが*4、それ以降、19世紀末までにこの詩に触れたのはテオフィル・ド・ガランシエールのみのようである。
 少なくとも、ジャック・ド・ジャンバルタザール・ギノーD.D.テオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードの著書には載っていない。
 ガランシエールは、ヨーロッパ諸国が対トルコを目的に連合を形成し、新たに選ばれる将軍によって勝利することの予言と解釈した*5

 マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)は、近未来の情勢の中で採り上げていたが、ほとんどそのまま言い換えたような内容で、具体性に乏しい*6
 ロルフ・ボズウェル(1943年)は、当時の第二次世界大戦の情勢と解釈し、米英とソ連が手を組んでヒトラーに対峙していることと解釈した*7。同じ時期のアンドレ・ラモンの解釈も似たようなものだったが、彼の場合は対峙する対象を日本としていた*8

 エリカ・チータム(1973年)は、アメリカとソ連が将来的に同盟し、勃興する中国と対立することと、中東の戦争が予言されているとした*9。チータムはのちに、百詩篇第6巻5番と関連付けつつ、エイズが蔓延するようになった時期に新教皇ヨハネ・パウロ2世が選ばれたことや、ブッシュ(父)とゴルバチョフとの間で新しい歩み寄りが見られるのではないかとした*10

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ(1980年)は、ソ連が東方を恐れさせることや、新教皇が選ばれるときにトルコで戦いがあることなどの予言としていた*11

同時代的な視点

 ピーター・ラメジャラーは、3行目の新たに選出される者を天使教皇(未作成)と解釈し、『ミラビリス・リベル』に収録されている予言の中で、ヨーロッパ勢力がイスラーム勢力の侵攻に対して、攻勢に転ずることの描写がモデルになっていると判断した*12

 ジャン=ポール・クレベールは、1547年にはじめてツァーリを名乗ったロシアの雷帝イヴァン4世が、勢力を広げるべく対外戦争を行い、オスマン帝国の領地も脅かしていたことと関連付けた*13


【画像】 『イヴァン雷帝』中公文庫


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最終更新:2013年11月26日 22:30

*1 大乗 [1975] p.180

*2 LAF

*3 山根 [1988] p.216

*4 Chavigny [1603] Livre I, p.13

*5 Garencieres [1672]

*6 Fontbrune [1939] p.246

*7 Boswell [1943] p.242

*8 Lamont [1943] p.313

*9 Cheetham [1973]

*10 Cheetham (1989)[1990]

*11 Fontbrune (1980)[1982]

*12 Lemesurier [2003b]/ Lemesurier [2010]

*13 Clébert [2003]