百詩篇第4巻84番


原文

Vn grand d’Auserre 1 mourra bien miserable,
Chassé de ceulx qui soubz luy ont esté:
Serré de chaisnes 2 , apres d’vn rude cable 3 ,
En l’an que Mars, Venus, & Sol 4 mis en esté 5 .

異文

(1) Auserre 1557U 1557B 1589PV 1620PD 1649Ca : Auxerre T.A.Eds.
(2) chaisnes : chaisne 1653 1665
(3) cable : eable 1610, table 1627
(4) & Sol: Sol 1557B 1589PV 1620PD 1649Ca 1650Le 1653 1665 1668 1840, : Sol 1627 1644 1650Ri
(5) mis en: ioints 1627 1644 1650Le 1650Ri 1653 1665 1668 1840

校訂

 ピエール・ブランダムールは1993年に、3行目の apres を aupres と校訂した。これは、ジャン・デュペーブの示教によるものだという *1ブリューノ・プテ=ジラールリチャード・シーバースが踏襲しているが、ピーター・ラメジャラーは支持していない(シーバースも英訳ではむしろ apres と見なして訳している)。また、ブランダムール自身、1996年に3行目を引用した際にはそのまま apres としていた *2

日本語訳

オセールの貴人があまりにも無残に死ぬだろう、
彼の下にいた人々に追い払われ、
荒々しい索条での(繋留の)後に、鎖で繋がれて。
夏に火星と金星と太陽の合がある年に。

訳について

 3行目はブランダムールが最終的に aupres とする校訂案を堅持したのか不明のため、とりあえずそのまま訳したが、その校訂を受け入れる場合は「荒々しい索条の近くで鎖に繋がれて」となる。

 4行目の直訳は「火星と金星と太陽が夏に置かれる年に」である。しかし、これが合を意味することはブランダムール、ラメジャラー、クレベール、シーバースらに全く異論がないため、若干意訳した。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 1行目 「オークレレの人はみじめに死に」 *3 は、例によって固有名詞の表記が不適切なことを措くとしても、grand を単なる 「人」 と訳すには問題があるだろう。
 3行目 「鎖で結ばれ それから強い綱で」 については許容されうる。一般に A après B は「BのあとにA」を意味するが、ノストラダムスの四行詩では après cela などの省略として理解されることがしばしばあるからだ。当「大事典」の訳はリチャード・シーバースの英訳に従ったものであり、わざわざ鎖につないだ後に綱に繋ぎ直すよりも、最初は綱だったものがより厳重に鎖に変わると見るほうが自然なように思われる。ただし、ピーター・ラメジャラーは2010年には鎖の後に綱と読んでいるので、その可能性も認められるべきだろう。

 山根訳はおおむね問題はない。3行目 「鎖でつながれ つぎに頑丈な荒縄で」 *4 については、上の大乗訳へのコメントを参照のこと。

信奉者側の見解

 匿名の解釈書『1555年に出版されたミシェル・ノストラダムス師の百詩篇集に関する小論あるいは注釈』(1620年)は、1602年に起こったビロン公の国家反逆事件と解釈した。この事件は、ビロンが信頼していたラ・ファンの密告によって露見し、ビロン公は斬首刑となったものである。この解釈書の著者は、2行目がラ・ファンの密告に対応していると解釈した *5

 テオフィル・ド・ガランシエールは、「オセールはパリから南方40リーグにあるフランスの都市」とコメントしただけだった *6

 アンリ・トルネ=シャヴィニーは、シャルル10世が夏に起こった七月革命によって、臣下だった者たちから追い出され、復権することのないまま亡命先のゴリツィア(伊)で客死したことと解釈した *7

 アンドレ・ラモンは、オセールをパリ近郊と訳しかえた上で、星位は1942年を表しているとしていた。しかし、それが過ぎた1943年の改訂版でも、特定の事件とは結び付けていない *8

 この詩についてはエリカ・チータムセルジュ・ユタンのようにほぼ全詩にコメントしていた論者も具体的な解釈を何もつけていない *9ジョン・ホーグはオセール出身の未来のフランス大統領に関する予言と解釈した *10

 加治木義博は d'Auxerre の部分を「ダウセリ」と読んだ上で、「証券の代名詞である『ダウ』を競る『ダウセリ人』という名の発音を写したものとみるとピッタリ」 *11 と主張し、当時(1991年)の証券スキャンダルがまだ続くことと解釈した。彼の『真説ノストラダムスの大予言』シリーズでは、この「ダウセリ」は度々引き合いに出されることになる *12

懐疑的な見解

 加治木はノストラダムスが「発音に注意しろ」と述べているという自身の説に従い、上のような解釈を導いている。その主張の問題点は姉妹サイトで述べているのでここでは繰り返さないが *13 、「ダウセリ」についてコメントしておく。

 ダウは、ダウ=ジョーンズ社によるダウ平均株価のことであろうが、それが証券全体の代名詞といえるかどうかは大いに議論のあるところだろう。そもそも、ダウ平均株価は「競る」ものではまったくない。当然にして、「ダウ競り」ないし「ダウを競る」などという言葉は経済・金融の用語としては存在せず、ネットでも加治木説関連以外ではまったくヒットしない。
 加治木以外が使わない特殊な(実態に沿っていない)造語をノストラダムスが d'Auxerre という語の発音に込めた、というのは無理がありすぎるように思われる。

同時代的な視点

 4行目の星位について、エドガー・レオニは稀であるとしていたが *14ピエール・ブランダムールピーター・ラメジャラーは逆に頻繁に起こるとしている *15

 ラメジャラーは2003年の時点ではモデルを特定できていなかったが、2010年には、13世紀初頭のオセール伯ピエール・ド・クルトネ(2世)と結びつけた *16 。ピエール2世はコンスタンティノープルに建国されていたラテン帝国の皇帝に即位したのはよかったが、コンスタンティノープルに向かう途上で捕らわれ、そのわずか2年後に死んだのである。


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