原文
PAV.1 Veronne2 , Vicence3 , Sarragousse
De glaifues4 loings5 terroirs6 de sang humides:
Peste si grande viendra à la grand gousse
Proches7 secours, & bien loing8 les remedes.
異文
(1) PAV. 1555 1840 : Pau, T.A.Eds. (sauf : Pau. 1644 1650Ri, Peau, 1653 1665)
(2) Veronne : verronne 1589Me
(3) Vicence : Vicenne 1600 1610 1653 1665 1716
(4) glaifue : Glaive 1672
(5) loings : loingts 1600, atteints 1672
(6) terroirs : terrois 1568A, terroir 1627, terroit 1630Ma, Terroirs 1672
(7) Proches 1555 1589PV 1627 1630Ma 1644 1649Ca 1650Le 1650Ri 1653 1665 1668 1840 : Proche T.A.Eds.
(8) loing : long 1588-89, loings 1589PV 1649Ca
校訂
日本語訳
訳について
既存の訳についてコメントしておく。
大乗訳 について。
1行目 「ポー ベロナ ビセンザ サラゴサ」は、固有名詞の細かい読みを措くとして、「ポー」に問題がある。確かにほとんどの版で Pau となっており、かつてはポーと訳すのが一般的だった (ブライラーなど、PAV. となっている原文を使用していながらポーと訳していた)。
しかし、ブランダムールが初版の原文 PAV. をパヴィーア (Pavie) の省略と見て以降、プテ=ジラール、クレベール、ラメジャラーはいずれもそれを踏襲している (シーバースのみはそのまま PAV. と表記し、注もつけていない)
2行目 「剣で打ち 国土は血でしめり」 は、loings が atteints になっている特殊な底本に依拠したためだが、その異文を支持すべき理由はない。
3行目 「疫病が猛烈ないきおいではやり」は誤訳。
ヘンリー・C・ロバーツ の英訳をほぼそのまま訳したようなものだが、gousse をどう処理しているのかが全く不明。gousse はマメ類の莢のことで、エドモン・ユゲの辞書では、綴りの揺れである gosse について、ソラマメ (fève) の莢として使われている用例が載っている。
山根訳 について。
1行目 「ポー ヴェローナ ヴィチェンツァ サラゴサ」の「ポー」の適否は上で述べた通り。
2行目 「遠い領土から血を滴らせる剣」 は言葉の修飾関係がやや強引に思われる。
3行目 「未曾有の大疫病が大きな殻をかぶってやってくる」は、かつて
エドガー・レオニ がしていた英訳とほぼ同じだが、現代のまともな専門家たちには見られない訳である。
信奉者側の見解
エリカ・チータム は1973年には、ヨーロッパで起こる化学兵器を使った戦争と解釈していた。1988年に発売されたその日本語版では、1976年にイタリアのセヴェソで起きた化学薬品工場の爆発事故とする解釈になっている。チータム自身の1989年の解釈では、エイズの蔓延とする解釈に差し替えられている。
ジョン・ホーグ も中部アフリカという「離れた土地」からヨーロッパにもたらされたエイズと解釈した。
同時代的な視点
ピエール・ブランダムール によれば、3行目の「大きな莢」は、イタリア半島をそのように見立てたものだという。ブランダムールは具体的な事件と一切結び付けていないが、その見立てが正しいのならば、描かれているのはイタリア諸地方での戦争と疫病であろう。
『
ミラビリス・リベル 』の描くヨーロッパの受難がモデルになっていると解釈しているラメジャラーは、地名の選択は韻律にあわせたもの (つまり厳密に深い意図があってのものではない) と推測している。
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最終更新:2020年03月10日 16:33