百詩篇第9巻73番


原文

Dans Fois 1 entrez Roy ceiulee 2 Turbao 3 ,
Et regnera moins 4 reuolu 5 Saturne 6 ,
Roy Turban 7 blanc 8 Bizance 9 coeur ban 10 ,
Sol, Mars 11 , Mercure pres 12 la hurne 13 .

異文

(1) Fois : Foix 1590Ro 1627 1630Ma 1644 1650Ri 1653 1665 1672 1840 1981EB
(2) ceiulee : cerulee 1603Mo 1627 1630Ma 1644 1650Le 1650Ri 1653 1665 1668 1840 1981EB, celulee 1611, Cerulée 1672, cejeulée 1716
(3) Turbao 1568B 1568C 1568I 1772Ri : Turban T.A.Eds. (sauf : Turbam 1568A 1590Ro)
(4) moins : moings 1568A 1590Ro
(5) reuolu 1568A 1568B 1568I 1590Ro 1772Ri : euolu T.A.Eds.
(6) Saturne : saturne 1590Ro 1653
(7) Turban : Turbam 1590Ro
(8) blanc : Blanc 1672
(9) Bizance : Et Bizance 1627, & Bizance1630Ma 1650Le 1668, & Bisance 1644 1650Ri 1653 1665, et Bisance 1840, et Bizance 1981EB
(10) ban : bau 1627
(11) Mars : Marc 1600
(12) pres : ensemble pres 1627 1630Ma 1650Le 1668 1840 1981EB, ensemble apres 1644 1650Ri 1653 1665, prez 1716
(13) hurne : nurne 1590Ro, Hurne 1672

校訂

 1行目 Fois / Foix をピエール・ブランダムールは Fez と校訂した *1ジャン=ポール・クレベールは Fois/Foix には問題があるとして、ブランダムールの読み方を紹介した *2ピーター・ラメジャラーは疑問符付きでそういう読み方を紹介しつつも *3 、英訳では Foix のみを採用した *4
 ceiulee は celulée ないし cerulée とすべき。現代フランス語の綴りを基準にすれば後者が正しく、クレベールやラメジャラーはそちらを採用しているが、ブランダムールは語源となるラテン語が時期によって caeluleus と caeruleus の両方あったことを指摘した上で前者を採用している。どちらの綴りでも意味は変わらない。
 Turbao および Turbam が Turban の誤りなのは言わずもがなだろう。当時はアルファベット順に並べたときに隣接する文字の取り違えは珍しいものではなかった。

 3行目と4行目は明らかに10音節に満たない。
 3行目はブランダムールが coeur ban の部分を vainqueur ban と校訂した。
 ラメジャラーは Bizance 以降を疑問符つきで à Bizance se courbant と校訂した *5
 4行目はブランダムールが17世紀の異文をそのまま採用している以外には、校訂案を出している論者は見当たらない。 

日本語訳

空色のターバンの王がフェズに迎え入れられ、
サトゥルヌスのひと巡りよりも短いあいだ統治するだろう。
白いターバンの王はビュザンティオンで勝者の布告を。
太陽、火星水星は宝瓶宮のあたりで一つになる。

訳について

 どの行もピエール・ブランダムールの校訂に従ったが、彼は釈義を施していなかったので、明らかに動詞や前置詞が不足している3行目の翻訳が難しかった。

 4行目 la hurne はこの場合 l'Urne に同じ。後者に比べて前者は1音節増えるので、韻律上の要請によって綴り変えたものだろう。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 1行目 「フォワクスで王は青いターバンを巻いて」 *6 は、entrez が訳に反映されていない。
 2行目「土星が回転するまえに統治し」は、moins (英語の less) を「まえに」と訳すのに無理があるだろう。
 3行目「そこで王は白いターバンでトルコをゆるがす」は元になったヘンリー・C・ロバーツの英訳のほぼ直訳だが、ロバーツの読み (これはテオフィル・ド・ガランシエールの英訳のほぼ丸写しである) 自体がどういう読み方に基づくのか、根拠が分からない。
 4行目「太陽 火星 水星はマストのてっぺん近くに」もロバーツ=ガランシエールの英訳のほぼ直訳だが、誤訳。「マストのてっぺん」 は hurne を hune と読み替えた結果だろう。

 山根訳について。
 3行目 「白いターバンの王 心をビザンチウムに追放され」 *7 は、banをbanné と読み替えた上で前置詞を補えば成立する。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、青いターバンをトルコの君主、白いターバンをフランス王とし、トルコの君主がフランスの都市フォワにやってきて君臨するが、100年もしないうちに、フランス王が逆にビザンチンを征服することになる予言と解釈した *8
 その後、20世紀に入るまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、ジャック・ド・ジャンバルタザール・ギノーD.D.テオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードマックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)ロルフ・ボズウェルジェイムズ・レイヴァーの著書には載っていない。

 アンドレ・ラモン(1943年)は、4行目の星位を1981年とし、その年にフランスはイスラーム勢力に支配されるが、その支配期間は土星の周期すなわち約30年に満たないと解釈していた *9
 リー・マッキャン(未作成)も1981年としていたが、実際にその年を過ぎた後、エリカ・チータムは未成就の予言だろうとした *10

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ(1980年)は青いターバンを青をシンボルとするフランスの王とし、近く起こると想定していた世界大戦末期の情勢と解釈していた *11 。しかし、晩年に当たる2006年の著書では一言も触れなかった。

 セルジュ・ユタン(1978年)は 「アンリ・ド・ナヴァル」(についての予言) とだけコメントしていたが、のちに補訂をしたボードワン・ボンセルジャンは、現在のアリエージュ県に対応する旧フォワ伯領がかつて異端のアルビジョワ派の拠点であったことから、「白いターバン」を地域の異端派と結びつけ、アンジュレの反乱など、17世紀における地域動向に関する予言ではないかとする解釈に差し替えた *12

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールは4行目の星位が1586年に見られたとし、そのことはノストラダムスの存命中にもレオヴィッツの著書などで知られていたとした。そして、サトゥルヌスの周期(約30年)に満たない期間を、この詩が書かれた頃 (1550年代後半から1560年代前半) から1586年までの期間と解釈した。
 また、空色のターバン、白いターバンについては、それぞれ百詩篇第2巻2番(未作成)の 「青い頭」「白い頭」 とともに、青い方をペルシア人(サファヴィー朝ペルシア、1501年 - 1736年)、白い方をトルコ人 (オスマン帝国) と解釈した。
 ヨーロッパを脅かしていたオスマン帝国はペルシアとも争っており、ヨーロッパでも大いに関心がもたれていた。ノストラダムスも『1565年向けの暦』および『1566年向けの暦』で相次いでこの二大国が繰り広げるであろう大きな戦争についての見通しを語っており、同時代人として強い関心を持っていたことが窺える *13

 ピーター・ラメジャラーは1行目の Foix をそのままフランスのフォワと理解していることから、『ミラビリス・リベル』に描かれたイスラーム勢力によるヨーロッパ侵攻のモチーフが投影されている可能性に触れているが、他方で、ブランダムールの読み方を基本的に受け入れ、1586年までに起こると想定していたが、実際には起こらなかった事件の描写が重ねあわされていると理解した *14


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