ネロ

 ネロ (Nero) 、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスは、ローマ皇帝(在位54年 - 68年)。暴君の代名詞としてその名前が知られている。フランス語ではネロン (Néron)。


【画像】『ナショナル ジオグラフィック日本版』2014年9月号

概要

 西暦37年12月15日にイタリアのアンティウム (現アンツィオ) にて、名家の父ルキウス・ドミティウス・アエノバルブスと、カリグラ帝の妹にあたる母アグリッピナの間に生まれた。
 幼くして父と死別したが、アグリッピナと再婚したクラウディウス帝の養子となり、その娘オクタウィアと結婚したことで、クラウディウスの死後、16歳で帝位についた。

 当初は善政を敷いたが、母親殺しも含む乱行によって、次第に悪評が上回るようになった。64年のローマ大火も、ネロはキリスト教徒の仕業だとして迫害を強めたが、人々はネロ自身の新宮殿建設用地獲得のために仕掛けられたものであると噂した。

 ネロは反逆罪の疑いを掛けた資産家たちから次々と財産を没収したが、これが元老院の反発を招き、過酷な徴税のせいで属州の支持も失った。そして、属州での反乱を鎮圧しきれぬ中で親衛隊の支持も失ったネロは、68年6月9日、逮捕に赴いた兵士たちに囚われることをよしとせずに自害した*1

再来のネロ

 しかし、ネロの悪政とあっさりとした自害は、実はネロが生きて東方に逃れており、いずれ大軍を率いて舞い戻ってくるという 「再来のネロ」 の伝説を生み出すことになった。
 ネロはキリスト教徒にとっては、母親を殺した、自らを神と宣言した、キリスト教徒を迫害したなどの諸要素によって、反キリストのイメージの形成に大いに寄与した。聖書の外典・偽典の中には、「再来のネロ」のモチーフは複数登場しており、『イザヤの殉教』では、悪魔ベリアルとネロが同一視されている。また、『シビュラの託宣』においても、「再来のネロ」のモチーフは複数箇所で述べられており、当時の黙示的終末論に大きく影響した*2

 新約聖書の『ヨハネの黙示録』にも、「再来のネロ」のモチーフが現れているという説は、広く知られている。

  • ヨハネの黙示録第13章1~3節(一部略)(2種の訳を並べる)
  • また私は、一匹の獣が海から〔陸地へと〕上がってくるのを見た。その獣は十本の角と七つの頭を持っており、その角の上には十の王冠を戴き、またその各々の頭には神を冒瀆する[さまざまな]名前が記されていた。(略)獣の頭の一つは傷を受けて死にかけているように見えたが、その致命的な傷が治ってしまった(小河陽訳)*3
  • そして私は海から獣が上って来るのを見た。その獣は十の角と七つの頭を持ち、その角の上には十の帯冠、頭の上には冒瀆の名前。(略)そして(私は)その獣の頭の一つが屠られて死んだのを(見た)。そしてその死の打撃は癒された(田川健三訳)*4

 この致命傷が治る獣の頭については諸説あるが、「再来のネロ」伝説の投影だという説があり*5、「最も蓋然性が高い」説という評価もある*6
 他方、田川健三は、頭の傷が治るのではなく、一つの頭がダメになっても獣全体はビクともしないという描写であること以外には、文脈から理解できないとして、「再生のネロ」を読み込むことを否定している*7
 田川は、「再生のネロ」伝説が古代末期から中世初期に語られていたことを認めつつ、ヨハネの黙示録が書かれた時期にさかのぼらせることを批判している*8

 このほか、『ヨハネの黙示録』では、獣の数字六百六十六がネロを指しているという説の存在も広く知られている。

ノストラダムス関連

 ノストラダムスは詩百篇集でネロの名前に3回直接的に言及しているが、すべて第9巻に集中している。

 このほか、アエノバルブス家の出身ということから、詩百篇第5巻に2回登場するAenobarbeがネロを指しているという説がある。


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最終更新:2020年03月04日 13:44

*1 以上はクリス・スカー『ローマ皇帝歴代誌』創元社

*2 マッギン『アンチキリスト』pp.66-70

*3 小河陽訳『ヨハネの黙示録』岩波書店、p.75

*4 田川健三『新約聖書 訳と註7・ヨハネの黙示録』第7巻、作品社、p.28

*5 『増訂新版 新約聖書略解』日本基督教団出版局、pp.795-796。『新約聖書 共同訳・全注』講談社学術文庫、p.847 ほか

*6 小河、前掲書、p.80

*7 田川、前掲書、pp.491-493

*8 田川、前掲書、pp.651-657