2、4行目は前半律(最初の4音節)に1音節足りないので、明らかに1語(以上)不足している。
2行目については誰も候補を挙げていない。しかし、ピーター・ラメジャラー、リチャード・シーバースが英訳に際して With を補っており、エヴリット・ブライラーも括弧と疑問符付きで With を補っていたので、「~とともに」に当たる語を補うのは一案だろう。ただし、フランス語の Avec は2音節なので、補うとしたらその意味を持つスペイン語の Con ないしイタリア語の Cón か。
あるいは、ノストラダムスがリスボンに触れたもう一つの詩篇(第9巻54番)では Vlisbonne と綴られているので、これを導入すれば一応10音節にはできるが、前半律が崩れているという問題は解消できない。
4行目は neuf の後に se を補ったブライラー、疑問符付きで vu を補ったラメジャラーなどがいる。
それに対し、ほとんどお手上げなのが2、4行目である。
Neuf Arriens は何らかのささいな読み替えを必要とする。Arriens は r を一つ抜いて「アリウス派の者たち」(Ariens) と読めるし(ジャン=ポール・クレベール)、s を落としてアッリアノス (Arrien, 『アレクサンドロス大王東征記』を著した古代ギリシアの歴史家・哲学者) と読むこともありうる(ピーター・ラメジャラー、リチャード・シーバース)。
それに伴い Neuf Ariens と読むなら、「九人のアリウス派信者たち」になるし、Neufs とs を補えば「新しいアリウス派信者たち」の意味になる。アッリアノスという読みを採用するなら「新しいアッリアノス」となるだろう。
エヴリット・ブライラーのように、ヌヴァリアン (Neuf Arriens) をナヴァリアン (Navarriens ; Navarrais, ナヴァル地方の人々・諸都市)と読み替える例もある。
ラメジャラー、シーバースは「ポルトガル人の新たなアッリアノスとともに」(with a new Portuguese Arrianus(*2) / With the new Arrianus, Portuguese(*3))と読んでいるが、リスボンを省略していることや & の位置など、疑問もある。
4行目は10音節に満たず、音数上も構文上も明らかに1語以上不足している。17世紀以降の異文を尊重するなら「怪物たる新しい指導者がロラゲから出てくるであろう時に」となり、意味の上では整合するが、初出となった1620年代後半のリヨン版は百詩篇第7巻44番などの初出と思われる版であり、到底信頼できる版とは言いがたいため、正当性は疑わしい。
ブライラーは se を補って monstre を代名動詞 se montrer と理解した。3行目との時制の違いは気になるが、当「大事典」ではひとまずこの読みを採用している。
ラメジャラーは「見る」を補って「新しい指導者がロラゲから怪物を見るであろう時に」と訳しているが、「見る」を補った根拠が不明である。
シーバースは The new chief, a monster from Lauraguès と並列的に訳しているが、Quand に対応する語がない。