la
trehemide は
詩百篇第10巻85番に一度だけ登場する語で、現代語にも古語にも見当たらない単語である。
エドガー・レオニは、tremor とする読みを一応受け入れ、英訳でも trembling を採用しているが、「賢明だが、語源的には隔たりがある」 と評しており、ギリシア語の trachoma から 「ざらつき、不作法」(roughness) の可能性も挙げていた。
当「大事典」として一つ見解を加えておきたい。
初出である
1568年版『予言集』では、1568A (当「大事典」での分類。ギナール式には1568X) が最も古い可能性が高い。そして、
詩百篇第8巻以降には、
Pampon (>Pamplon) や
somentree (>son entree) などのように、1568Aで普通の綴りだったものが、1568B (ギナール式の1568A) に引き継がれた際の誤植によって意味不明になった疑いのある単語が複数ある。
1568Aでは la trehemide が larthemide と綴られている。1568Aはしばしばアポストロフ(アポストロフィ)が省かれる誤植が見られる。d'Angolmois が Dangolmois と綴られていることなどはその最たる例である。そこで、larthemide は l'Arthemide のことではないか、という可能性を指摘しておく。
通常、
アルテミス(未作成)はフランス語で Artémis と綴るが、ノストラダムスは
詩百篇第4巻27番、
詩百篇第9巻74番で Artemide と綴り、
詩百篇第10巻35番(未作成)では Arthemide と綴っているので、l'Arthemide と綴ることは十分にありうる。なお、通常は神名に定冠詞をつけることはないが、当「大事典」ではアルテミス神殿 ( l'Artémision) と同義に使われている可能性を提案しておきたい。
その場合、au point de l'Arthemide の意味は「アルテミス神殿の地点で」、point が古くは pointe の意味でも使われたことを踏まえれば「アルテミシオンの岬で」の意味となるだろう。アルテミシオン岬 (le cap Artémision) は、サラミスの海戦に先立つアルテミシオンの戦い (紀元前480年) の舞台となった。
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最終更新:2021年08月09日 18:31