原文
Tous les amys qu'auront tenu party,
Pour rude en lettres
1 mys mort & saccagé
2,
Biens
publiez3 par fixe
4 grand
5 neanty
6,
Onc
7 Romain peuple ne feut
8 tant
outragé.
異文
(1) lettres : lettre 1653AB 1665Ba 1720To 1840
(2) saccagé : sacaigé 1568X, sacagé 1590Ro, saccageé 1627Di
(3) publiez : oubliez 1611 1981EB
(4) fixe : fize 1568X 1590Ro
(5) grand : Grand 1772Ri
(6) neanty : ne nty 1653AB、me r ry 1665Ba
(7) Onc : Que 1650Le 1667Wi 1668A 1668P
(8) feut / fut : fust 1650Mo
- (注記1)1653ABの異文 ne nty , はy と , の間にも1字分の空白があるので、neanty の脱字かは断定できない (neantyr と綴ろうとした?)。この脱字(?)は当「大事典」がメインで比較に使っているアンドレ/ボードラン版だけでなく、同系統のゲー/ボードラン版でも等しく見られる。
- (注記2)1665Ba の me r ry という異文は複数の伝本で確認できるので、特定の版の字が掠れたというものではなく、活字そのものが最初から不鮮明もしくは脱落していたものと思われる。これはおそらく meurtry のつもりだったのだろう。
- (注記3)1867LPはテクスト篇では3行目の fixe をそのままにしているが、解釈篇では 原文そのものを fisc に書き換えている。
日本語訳
味方につくであろう全ての友が
書体のざらつきのせいで殺され、掠奪される。
財産は競売に掛けられ、国庫によって大々的に使い果たされる。
かつてローマの民衆がここまで荒らされたことはなかった。
訳について
中期フランス語には、tenir le parti de... やtenir son parti で「~の味方である」「~と同盟する」などの意味があった。1行目の表現はそれに準ずるものだろう。
3行目については、いくつかの読みがある。ここでは
マリニー・ローズや
ジャン=ポール・クレベールの読みを参考に、fixe を fisc (国庫、内帑) と見なした (確認できる範囲で、この読みの可能性を最初に示したのは、17世紀の
テオフィル・ド・ガランシエールである)。
エドガー・レオニは「固定価格で売られる」(property up for sale at fixed price) というように理解しているし、
ピーター・ラメジャラーは biens publics parfaits と読み替えることで、「完璧な公共事業」(perfect public works)と読んでいる。
リチャード・シーバースの Beautiful public works という読みは、ラメジャラーのものに近いのかもしれない。
なお、neanty は
アナトール・ル・ペルチエが anéanti (>anéantir) の語頭音消失と指摘して以来、その読みが定着している。もっとも、DALF には anéantir の意味を持つ古語 noiantir の綴りの揺れとして、neantir も載っているので、ノストラダムス独自の綴りというわけではない。
既存の訳についてコメントしておく。
大乗訳について。
1行目 「すべての友は一部をわかちあい」は誤訳。元になったはずの
ヘンリー・C・ロバーツの英訳では all the friends that shall have taken the partとなっている。この場合の take the part は「肩を持つ、味方する」の意味だろう。
2行目「無知な者は死にいたり うばい」も誤訳。「無知な者」はロバーツの英訳の unlearned の直訳だろう。これは rude en lettres を「学芸に粗野」と理解すれば、導きうる訳かもしれない。しかし、そこに pour が付いているのだから、これを主語に持ってくるのは無理だろう(ロバーツの英訳では of が付いており、1行目の the part につながっている)。もちろん、意味上の主語になりうるのは確かで、(どちらも受動態である「死なされる」「奪われる」を) 無知な者が「死なせる」「奪う」とすれば、一応同じ意味にはなるが、大乗訳だとその2つの主体が統一できておらず、無知なものが「死にいたり」というのは明らかにおかしい。
3行目「よきものはおおやけのせり売りで買い 無知によって」も誤訳。ロバーツの英訳では正しく sold とあり、「買い」がどこから出てきたのか不明。また、grand が訳に反映されていない上、「無知」は転訳による誤訳だろう。ロバーツは emptiness を当てているが、これは要するに財産が空っぽになるという意味で、頭が空っぽということではない。
4行目「ローマ人はひどい暴行をくわえられることはない」も誤訳。動詞は直説法単純過去であり、onc (かつて~ない) とあわせれば、大乗訳のようにならないことは明らかであろう。
山根訳について。
1行目 「特定団体に属していたすべての友人」で、parti を「特定団体」と訳すのは可能ではあるだろう。ただ、関連する成句は上述の通り。
2行目「粗野な文書をもとめ 死に追いやられる」は、saccagé が訳に反映されていない。
3行目「公共財産 大立者 六人に滅ぼされる」は、fixe が
エリカ・チータムの採用した原文では sixe となっていることから「六人」が導かれているが、こうした読み方の妥当性は疑問である。
信奉者側の見解
テオフィル・ド・ガランシエール(1672年)は、ほとんどそのまま敷衍したような解釈しかつけていなかった。なお、彼は3行目の fixe は fisc の、neanty は Nancy の誤植ではないかという可能性も示していた。
アナトール・ル・ペルチエ(1867年)は、未来に現れる大君主「偉大なケルト人」に関する予言の一つとして、彼のイタリア遠征のテーマの中に含めていた。
同時代的な視点
ピーター・ラメジャラーは、1527年のローマ掠奪(サッコ・ディ・ローマ)がモデルと見ている。
「書体のざらつき」は、
詩百篇第9巻26番、
第10巻65番と同じでドイツ古書体(いわゆるヒゲ文字)を指し、ローマ掠奪を指揮したドイツ(神聖ローマ帝国)の軍人ゲオルク・フォン・フルンツベルクを指す。
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最終更新:2019年01月21日 18:18