百詩篇第2巻15番


原文

Vn peu deuant monarque 1 trucidé? 2
Castor Pollux 3 en nef 4 , astre crinite 5 .
L'erain 6 publiq 7 par terre & mer 8 vuidé 9
Pise 10 , Ast, Ferrare, Turin, terre 11 interdicte.

異文

(1) monarque : Monarque 1588-89 1644 1653 1665 1672
(2) trucidé? 1555 1557U 1557B 1568A 1568B 1568C 1591BR 1597 1610 1611A 1628 1716 1772Ri 1840 : trucidé T.A.Eds.(*)(sauf : crucidé, 1589Rg)
(3) Pollux : pollux 1589PV 1590SJ
(4) nef : nerfs 1653 1665
(5) crinite : aninite 1557B
(6) L'erain : L'ærain 1557B 1981EB, Lerain 1605, L'Airain 1672
(7) publiq : publiq' 1589PV
(8) terre & mer : Terre & Mer 1672
(9) vuidé : vuide 1665
(10) Pise : Pisa 1672
(11) terre : Terre 1672

(*) trucidé? の異文として、疑問符 (?) の代わりにヴィルギュル ( , ) になっている版が非常に多い。例外はドゥーポワン ( : ) になっている1568I、何もない1589PV、ポワン ( . ) になっている1627、感嘆符 (!) になっている1630Ma である。煩雑になるので、上の異文欄にはまとめず、このように別記した。

校訂

 ピエール・ブランダムールは1行目の疑問符をヴィルギュル( , )に直した。文脈からすれば妥当だろう。

日本語訳

君主が弑せられるほんの少し前に、
船上にてカストールとポリュデウケース、長髪の星が(目撃される)。
国庫は海と陸のせいで空ろになるだろう。
ピサアスティフェッラーラトリノは禁じられた土地に。

訳について

 ピエール・ブランダムールによると、3行目 erain publiq はラテン語の aerarium publicum をフランス語化したものであるという。当「大事典」はこの読みに従い、「国庫」とした。
 この訳語は高田勇伊藤進訳も同じである。エドガー・レオニは若干根拠が異なるが、やはりpublic treasure と英訳していた。ピーター・ラメジャラーリチャード・シーバースも同様であり、「国庫」という訳に特段の問題はないだろう。なお、この読み方を遡ると、19世紀のアナトール・ル・ペルチエにすでに見出すことができる。
 4行目 terre interdit は最も一般的な意味でほぼ直訳した。高田勇伊藤進訳では「破門されし地」、彼らによるブランダムールの釈義の翻訳では 「聖務停止処分を受けた地」 とされている *1

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 2行目 「カースター ポラックス そして彗星が空にあらわれ」 *2 は、固有名詞を英語読みする是非を棚に上げるとしても、nef (船) が訳に反映されておらず、不適切だろう。
 3行目「おおやけの真ちゅうが陸にも海にも」は、erain publiq を airain public と見なしたものであろうし、そう読めないわけではない。しかし、「真ちゅう」はどのみち誤訳だし、それでは意味不明である。また、vuidé (vuiderの過去分詞) が訳に反映されていない。
 4行目「ピサ アスティ フェララ チュリンはうろたえるだろう」は、terre interdit が「うろたえるだろう」になる根拠が不明。もとになったはずのヘンリー・C・ロバーツの英訳は shall be forbidden countries *3 で、特におかしなものではない。

 山根訳について。
 2行目 「カストールとポリュデウケースが船に乗って髭の星に宿る」 *4 は、解釈を交えて訳しすぎである。もとになったエリカ・チータムの英訳は2行目をほぼ逐語訳していて問題ないのだが、彼女が解釈として示していたことを訳文に取り込んでいるため、日本語訳が妙なことになっているのである。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエール(1672年)は、2行目を天体についてと見なしアルゴ座 (現在の竜骨座、帆座、艫座、羅針盤座。これらを分割したのは18世紀のラカイユであり、ノストラダムスだけでなくガランシエールの時代においても一つの星座だった) に2つの流星と1つの彗星が見られた少し後に君主が死ぬことや、4行目に示された諸都市が教皇から破門されることなどを予言していると解釈した *5

 その後、20世紀に入るまででこの詩を解釈したのはアナトール・ル・ペルチエくらいのようである。
 ル・ペルチエは彼の著書の中では数少ない未来予測の項目でこの詩を扱っており、双子座とアルゴ座に彗星が見られる時期の君主の殺害や、該当する諸都市の破門を予言したものと解釈した *6

 ヘンリー・C・ロバーツ(1947年)はいくつかの単語の解釈を示しただけだったが、後の息子らの改訂版では、エジプト大統領サダトの暗殺(1981年)とする解釈が付け足された *7

 エリカ・チータム(1973年)はル・ペルチエと似通った解釈を展開し、まだ起こっていない事件もしくは外れた予言ではないかとした *8 。しかし、その日本語版(1988年) では、ムッソリーニとする解釈に差し替えられた *9

 セルジュ・ユタン(1978年)もムッソリーニの最期を予言したものではないかとした *10

同時代的な視点

 2行目のカストールとポリュデウケースはいわゆる聖エルモの火 (先端放電) のことである。船乗りたちは船のマストに一つ現れる場合を凶兆、二つ現れる場合を吉兆と見なしており、後者をギリシア神話の双子になぞらえて「カストールとポリュデウケース」(カストルとポルックス)と呼んだのである。このことはプリニウスの『博物誌』で言及されているほか、ノストラダムスと同時代にはエラスムスの『対話集』、アンドレーア・アルチャート(アルチャーティ)の『エンブレム集』などをはじめ、文学などでは非常によく知られたモチーフでもあった *11
 同じく2行目の「長髪の星」は、これまたプリニウスの『博物誌』において、彗星の別名として言及されている *12 。そもそも彗星を意味するcomet (英語。仏語なら comète) はギリシア語の「長髪」に由来している。

 これらのモチーフについては、ピエール・ブランダムールの簡潔な釈義を基にして高田勇伊藤進が指摘している通りであり、一般的に凶兆とされた彗星だけでなく、吉兆とされた二連の聖エルモの火までもが王の殺害を予告する凶兆として描かれているらしい。ただし、彼らは全体的なモチーフについては特にコメントしていなかった。

 ピーター・ラメジャラーは2003年の時点では『ミラビリス・リベル』に描かれたイスラーム侵攻のモチーフをモデルと見なしていたが、2010年には1526年にハンガリーのラヨシュ2世がモハーチの戦いで敗死したことと解釈し、2行目の双子は双子のように発達した都市ブダとペシュト (現在のブダペストにおけるブダ地区とペシュト地区) とする解釈に差し替えた *13

 ロジェ・プレヴォアンリ2世の死(1559年)の暗示を読み取ったが *14 、この詩が初版(1555年)に載っていたことを考えると無理があるといわざるをえない。

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