原文
Classe Gauloyse par apuy
1 de grand garde
2
Du grand Neptune, & ses tridents
3 souldars
4
Rousgée
5 Prouence
6 pour sostenir
7 grand
8 bande,
Plus Mars Narbon.
9 par iauelotz
10 & dards
11.
異文
(1) par apuy : apuy 1557B, par appuz 1653, n'aura apuy 1656ECL
(2) grand garde : grande garde 1557U 1557B 1568 1588-89 1589PV 1590Ro 1591BR 1597 1605 1649Xa 1772Ri, grand' garde 1590SJ 1649Ca 1650Le 1668, garde grande 1656ECL, grand Garde 1672
(3) tridents : tridans 1627
(4) souldars : soldats 1605 1628 1630Ma 1644 1649Ca 1649Xa 1650Ri 1650Le 1653 1656ECL 1665 1668, Soldats 1656ECLb 1672, sonldats 1772Ri
(5) Rousgée 1555 1840 : Rongée T.A.Eds. (sauf : Ronsgée 1557U 1557B 1568A, Rougee 1627 1630Ma 1644 1650Ri 1653 1665, Ronger 1672)
(6) Prouence : prouence 1557B 1589PV 1590SJ 1649Ca 1650Le 1653 1665 1668
(7) sostenir 1555 1840 : soustenir T.A.Eds.
(8) grand (vers3) : grande 1588-89 1656ECLa, grand' 1649Ca 1650Le 1668
(9) Narbon. 1555 1557U 1840 : Narbon 1557B 1568 1589PV 1590SJ 1590Ro 1591BR 1605 1611 1628 1649Ca 1649Xa 1656ECL 1772Ri 1981EB, Narbon, 1588-89 1597 1600 1610 1627 1630Ma 1644 1650Ri 1650Le 1653 1665 1668 1672 1716
(10) par iauelotz : pariauelots 1589Rg, par Javelots 1672
(11) dards : Dars 1656ECLb, Dards 1672
(注記)Rousgée Prouence は1555V, 1555A とも RousgéeProuence と繋がっているように見えるが、原文比較が見づらくなるだけなので、上では扱わなかった。
校訂
4行目 Narbon. のポワン(ピリオド)をブランダムールは削っている。しかし、Narbonne の略と考えれば、むしろポワンはあった方がよいのではなかろうか。実証主義的な諸論者の中では、ラメジャラーがポワンを採用している。ブランダムールも用語解説欄では Mars Narbon. とポワンつきで紹介しているので、原文でポワンが削られているのは単なる誤植なのかもしれない。
日本語訳
ガリアの艦隊は偉大なる
ガルドの、
偉大なる
ネプトゥヌスの、そしてその三叉戟の兵士たちの支援によって。
プロヴァンスは大軍を援助するために貪られるだろう。
くわえて
ナルボ・マルティウスは投槍や槍によって。
訳について
1行目 garde は本来ならば一般名詞。ただし、ノストラダムスの知人
ラ・ガルド男爵と掛けている可能性が指摘され、
高田勇・
伊藤進、
ピーター・ラメジャラー、
リチャード・シーバースがいずれも固有名詞として訳出しているため、ここでもそれに従った。
1行目 par appui de (~の支援によって)につながる言葉は2行目以降にも並列されているので、訳の都合上、「~の支援によって」は2行目に回した。
3行目はブランダムールの校訂に従っている。
4行目の Mars Narbon. は
ナルボンヌの古称ナルボ・マルティウスに由来する表現であることは実証主義的論者の間で一致している。「マルスのナルボンヌ」と翻訳ないし釈義しているのがブランダムール、高田・伊藤、シーバースら、単に「ナルボンヌ」と意訳しているのがラメジャラーである。当「大事典」では元になったラテン語名称を使った。
同じ行の javelot と dard はどちらも投槍を指す。ここでは高田・伊藤訳で「投槍と槍」となっていることに倣った。
既存の訳についてコメントしておく。
大乗訳について。
1・2行目 「大海神と三つまたやりをもった兵士によって/ゴールの部隊は助けられる」は、訳の都合上、1行目と2行目を入れ替えて訳したのは理解できるにしても、1行目の de grand garde が訳に反映されていない。
3行目「大きな軍隊をささえるためにいなかは荒らされ」はProvence (プロヴァンス)と province (地方、田舎)を取り違えたのではないだろうか。大乗訳の元になったはずの
ヘンリー・C・ロバーツの英訳では、普通にプロヴァンスとされている。
4行目「火星はナーボンヌを投げやりで悩ますだろう」は微妙。Plus (さらに、加えて)が訳されていないのはささいな点だが、この行は動詞がない。ゆえに Mars を主語、Narbon.を目的語と理解して、「悩ますだろう」を補うというのはというのはひとつの意訳としてはありえないとまでは言えないが、もはや実証主義的に支持できるものではないだろう。
山根訳は、4行目 「おまけにナルボンヌでは投槍と弓矢が飛びかう戦闘が」がやや言葉を補いすぎではないかと思われる点を除けば、おおむね許容範囲内かもしれない。もっとも、
ピエール・ブランダムールは3行目と4行目を同質の出来事と理解していること(つまり、軍隊の維持のために、ナルボンヌが投槍で脅されて金品を巻き上げられるということ)からすれば、「投槍」から直ちに「戦闘」を導き出せるかには疑問もある。
この詩については
五島勉も『
ノストラダムスの大予言』で訳している。その4行目「マルスは飛ぶ大きな火槍や小さな火矢によって、ナルボンヌをめちゃめちゃにするだろう」は、大乗訳や山根訳以上に言葉を補いすぎだろう。
信奉者側の見解
1656年の解釈書では、1558年の事件と解釈されている。かつてフランス軍は強大なオスマン帝国の海軍と共同歩調をとり、それらの海軍の維持のためにプロヴァンス地方があらされることもあったが、もはやそれがなくなった(1656年の解釈書では、上述の異文欄にあるように apuy の直前に n'aura が補われることによって「支援を持たないだろう」という逆の意味になっている)。そして、1558年にはナルボンヌで激しい戦闘があったことが4行目に示されているとした。
ヘンリー・C・ロバーツ(1947年)は場所を特定せずにイギリスの支援を受けるフランス海軍についてと解釈した(なお、その日本語版では「ドイツ軍を追い出した」という言葉があるが、原書にはない)。
エリカ・チータム(1973年)は1540年代のフランスとオスマン海軍の同盟関係などに言及しただけだった。それはおそらく
エドガー・レオニの指摘を転用したものだろう。後には、外れた予言か遡及的予言ではないかとした。
五島勉(1973年)はノルマンディ上陸作戦と解釈し、プロヴァンスは「ノルマンディ海岸」の「背後の地方」とし、ナルボンヌは「ノルマンディの小都市」で激戦の「中心」であったとした。
しかし、
志水一夫が指摘したように、この地理的認識はデタラメなもので、南仏の地方であるプロヴァンスや、同じく南仏の都市であるナルボンヌは北仏のノルマンディとは何の関係もない(DNLFを参照する限りではナルボンヌと同名の都市が北仏にもあるということもない)。
しかし、まったく別の観点からノルマンディ上陸作戦と解釈した人物がいる。それが
ヴライク・イオネスク(1976年)である。
イオネスクはプロヴァンス(Provence)はプロウィンキア(province)の誤りで、もともとプロウィンキアは単なる地方ではなく、ローマから派遣された執政官によって監督される土地を指したことから、この場合はアメリカの司令部を指すとした。また、ナルボンヌ(Narbon.)は bonnar の
アナグラムで débonnaire に通じるこの言葉はチャーチルの隠喩だとしたのである。
同時代的な視点
エドガー・レオニや
エヴリット・ブライラーは、フランス海軍がオスマン帝国の艦隊と共同で作戦行動に当たったことをモデルと見なしていた。
それらの解釈の場合、海神ネプトゥヌスはオスマン艦隊の隠喩となるが、むしろ1行目の garde が
ラ・ガルド男爵を指していると見るならば、海神はラ・ガルドに対する好意的な賛辞となる。
garde とラ・ガルド男爵を最初に結びつけたのは
ピエール・ブランダムールである。彼は、ノストラダムスが『ガレノスの釈義』のラ・ガルド男爵宛ての献辞でも、彼のことをネプトゥヌスに喩えており、献辞の中ではその三叉戟(trident)にも複数言及されていることを指摘し、この推測を補強している。
後半2行はラ・ガルド男爵には似つかわしくないようだが、1540年代のフランス海軍とオスマン帝国の海賊艦隊の共同作戦には彼も中心的に関わっており、その出来事と結びつく可能性がある。そうした可能性はブランダムール、
高田勇・
伊藤進、
ピーター・ラメジャラーらが指摘している。
その他
予兆詩旧2番との類似性はつとに知られてきた。
ブランダムールらはラ・ガルド男爵とする解釈の補強材料と見なしていたが、その後、
ベルナール・シュヴィニャールが旧2番を偽作と指摘したため、再検討の余地がある。
予兆詩旧2番の記事に明記したように、当「大事典」としては旧2番が真作の可能性もあると考えるが、いずれにしても無批判に真作と主張するのはまず無理だろう。
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最終更新:2015年08月23日 10:18