原文
Le
1 deffaillant en habit de bourgois
2,
Viendra le Roy tempter
3 de son offence
4:
Quinze souldartz
5 la pluspart
6 Vstagois7,
Vie derniere & chef de sa
cheuance.
異文
(1) Le : Le’ 1672
(2) bourgois 1557U 1557B 1590SJ : bourgeois T.A.Eds. (sauf : borgois 1589PV, Bourgeois 1644 1653 1665 1672 1840)
(3) tempter 1557U 1557B 1568 1589PV 1590SJ 1627 1630Ma 1649Ca 1772Ri : tenter T.A.Eds.
(4) offence : offense 1600 1610 1650Ri 1716
(5) souldartz 1557U 1557B 1568 1590Ro 1605 1628 1649Xa 1772Ri : soldats T.A.Eds.(sauf : soldartz 1589PV, soldatz 1590SJ, soldat 1627 1630Ma, Soldats 1672)
(6) pluspart : plus part 1589Me 1589Rg 1627 1630Ma 1644 1649Ca 1650Le 1668
(7) Vstagois : Vstageois 1588*-89* 1605 1611 1627 1628 1630Ma 1649Xa 1668P 1981EB, vstagois 1653, vilageois 1665, Villageois 1672, villageois 1840, ostagois HCR
(注記1)1588-89では、3-4-1-2の順でVI-44としても採録。上記*はそちらの異文
(注記2)HCR は
ヘンリー・C・ロバーツの異文。
校訂
1行目 bourgois は bourgeois になっているべき。
ブリューノ・プテ=ジラールはそのように校訂している。
そうなると3行目 Vstagois (Ustagois)も、韻を踏むために Vstageois (Ustageois)と校訂されねばならない。プテ=ジラールは現にそのように校訂している。
2行目 offence は語源(ラテン語の offensa)からしても、標準的な綴り(DMFの見出しも含めて)からしても、offense の方が妥当。もっとも、この程度は綴りの揺れの範囲だろう。
日本語訳
都市民の身なりの背信者が、
国王を傷つけようと試みることになるだろう。
十五人の兵士たち、その大部分が無法者。
生命は最後に(残り)、そして(それは)彼の財産の筆頭。
訳について
1行目 defaillant の直訳は「衰えている〔人〕」「欠いている〔人〕」。
ピーター・ラメジャラーは deserter (脱走兵)、
リチャード・シーバースは weakling (虚弱者)、
エドガー・レオニは transgressor (宗教・道徳上の罪人)と英訳している。
ジャン=ポール・クレベールの釈義では「義務、誓約を破る者」である。レオニやクレベールの訳語は強引なようだが、中期フランス語の defaillir には「誓約を破る」という意味もあった。当「大事典」の訳語は、レオニやクレベールの読みを参考にしている。
4行目はラメジャラーの英訳を参考にした。
既存の訳についてコメントしておく。
大乗訳について。
1行目 「罪ある者 市民の法のもと」は誤訳だろう。「罪ある者」については、上述の通り、
エドガー・レオニの英訳にも類似の訳は見出されるが、habit を「服装」以外に訳すのは一般的ではない(habit は現代フランス語では「衣服」の意味しかない。中期フランス語でなら「慣習」(habitation)の意味もあったが、それにしてもやや強引だろう)。たとえば、
ピーター・ラメジャラーは garb、
リチャード・シーバースは clothes と英訳している。
2行目「王を罪人とみなし」も不適切。確かに英語の offense には「罪」の意味もあるが、中期フランス語の offense は「損害」(dommage)、「攻撃」(attaque)の意味であった。
3行目「十五人の兵士はほとんど人質となり」は、出所不明の異文(
ヘンリー・C・ロバーツによる改変?)である ostagois を otage (人質)と理解したものだろう。ustagois を人質と結び付けられる可能性もなくはないが(
Vstagois参照)、実証主義的論者の間にそういう読みは見られない。
4行目「ついには彼の生活も最上の身分をも」は少なくとも「身分」が誤訳。ロバーツの英訳 estate の転訳による誤りだろうが、原語
chevanceからすれば、その場合の estate は「財産」の意味だろう。ロバーツの4行目の英訳はガランシエールの英訳のほぼ丸写しである(冒頭にThe があるかないかだけ)。その訳は大乗訳とはやや異なり、ガランシエールが釈義しているように、「最後に残るのは、彼の生命と財産の最良の部分」という意味になる。当「大事典」の読みとは違うが、これはこれで成立する読み方である。
山根訳について。
4行目 「彼のいのちと領地の大半が息絶える」は、chef を「大半」と訳すのが強引ではないだろうか。
信奉者側の見解
エリカ・チータムは1973年の時点では文字通り一言も解釈しておらず、後の決定版でも未解明であると述べただけだった。彼女の著書の
日本語版では、アメリカ大統領暗殺のためにテロリスト・グループが渡米するが、未遂に終わって射殺されるという、(おそらく日本語版監修者らによる)解釈に差し替えられた。
セルジュ・ユタン(1978年)はフィリップ・エガリテ(平等公フィリップ、ルイ=フィリップの父)と関連付ける解釈を示した。
同時代的な視点
Vstagoisをどう読むかにもよるのだろうが、国王が何らかの事件に巻き込まれ、金品は奪われても、一番大事なものである命までは取られずにすむ、といった情景だろう。ただし、漠然としすぎていて特定性が低いことは否めない。
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最終更新:2015年11月21日 22:30