百詩篇第10巻50番


原文

La 1 Meuse 2 au iour terre 3 de Luxembourg 4 ,
Descouurira Saturne & trois 5 en lurne 6 ,
Montaigne & pleine 7 , ville 8 , cité 9 & bourg 10 ,
Lorrain 11 deluge 12 trahison par grand hurne 13 .

異文

(1) La : Le 1650Le 1668
(2) Meuse : Muse 1665
(3) terre : Terre 1672
(4) Luxembourg : Lucembourg 1568A
(5) & trois : en trois 1981EB
(6) en lurne : enlurne 1568A, en l'vrne 1627 1630Ma 1644 1650Ri 1650Le 1653 1665 1668 1840, en Lurne 1672
(7) pleine : peine 1600
(8) ville : Ville 1672 1716, vîlle 1772Ri
(9) cité : cite 1568A, Cité 1672 1716
(10) bourg : Bourg 1672 1716
(11) Lorrain : Lors grand 1572Cr
(12) deluge : Deluge 1672
(13) hurne : vrne 1572Cr

校訂

 ピーター・ラメジャラーは1行目の au jour (その日に) を autour (~の周囲で) と校訂している。リチャード・シーバースも around と英訳しているので、同様の読みをしているものと思われる。ジャン=ポール・クレベールは en sa traversée (その渡河で) と釈義しているが、 根拠が分からない。
 2行目の lurne が l'urne の誤記という点には異論がない。エドガー・レオニピエール・ブランダムール、ラメジャラー、クレベール、シーバースおよびマリニー・ローズはいずれもそう読んでいる。
 3行目 pleine をブランダムールは plaine と校訂している。いちいち注記していない論者たちも、この部分はそう読んでいる。

日本語訳

ルクセンブルクの土地周辺のムーズ川は、
宝瓶宮に土星と三つ(の星)を見出すだろう。
山と平原、都市、旧市街と町(が)、
ロレーヌ(で)、洪水(に遭う)。この年、貴人による裏切り。

訳について

 1行目は au jour を autour / au tour とし、2行目 lurne を l'urne とする読みに従っている。urne は本来は単なる「壺、水がめ」の意味だが、この場合は宝瓶宮を指すという点は、マリニー・ローズピーター・ラメジャラージャン=ポール・クレベールリチャード・シーバースも一致している *1
 3行目から4行目前半は名詞の羅列のため、訳では( ) によって適宜言葉を補った。なお、ville は都市一般を指す語である。また、中世の城塞都市では市壁内を cité と呼び、市壁外を bourg と呼んだ *2 。要するに、3行目の ville, cité & bourg というのは「(市壁のない)都市、(市壁のある)都市内の地区と外の地区」ということではないかと思われるが、単にどういう町であろうと例外なしに、といった意図なのかもしれない。あまり訳し分ける必要はないかもしれないが、一応、3通りに訳し分けた。ただし、暫定的なものである。

 最大の問題が4行目の hurne である。素直に読めば、これはurne の綴りの揺れと見るべきだろう。1572Cr(アントワーヌ・クレスパン)の異文もそのことを示している。現代でも、シーバースは urn と英訳している。クレベールはそういう理解から投票箱 (フランス語の urne にはこの意味もある) を想定し、大きな選挙で不正があることを読み取っている。
 他方、ロジェ・プレヴォはラテン語の horno (今年)にひきつけて理解し、「その年に」(dans l'année)を導いた。ラメジャラーもこの読みを踏襲し、this year と英訳している。やや強引の感はあるものの、この詩については後述のように有力になりつつあるモデルが提示されており、それに基づくならばこちらの読みのほうが好ましいため、当「大事典」でもあえて採用した。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 1行目 「その日ミューズはルクセンブルグの地で」 *3 は、固有名詞の読み方はともかく、本来の原文どおり au jour と読む場合には、許容される読みだろう。
 2行目「リロンで土星と三つのものを発見するだろう」は、リロンを「フランスの町」としているが、不適切だろう。Lurne (リュルヌ)などという綴りの町はDNLFにも載っていないし、大乗訳の元になったはずのヘンリー・C・ロバーツの英訳本でも何も注記されていない(この点、後述の山根訳も参照)。
 4行目「ロレーンの血 反逆はヒーランによって」とあるが、意味不明。deluge は「洪水」であって、「血」となるのは明らかにおかしい。ロバーツの英訳の flood を blood と見間違えたのではないだろうか。また、「ヒーラン」を「古代ギリシアの数学者」と注記しているが、これは hurne をロバーツが Heron と英訳したことによるのだろう。ただ、仮にこの読み方が正しいとしても、普通は「ヘロン」と表記するのではないだろうか。数学科卒業という大乗が「ヘロンの公式」を知らなかったとも思えないし、よほど急いで翻訳作業が行われたのだろうか。

 山根訳について。
 1行目 「昼間 リュクサンブールの大地をうるおすムーズ川」 *4 は、大乗訳と同じく au jour を採用した訳としては正しい(「うるおす」にあたる語はないが、意訳の範囲内だろう)。
 2行目「リュルンに土星と三つを発見するだろう」は、lurne を固有名詞的に理解するなら可能な訳。「リュルン」については、「月」(Lune)かフランス東部の町リュール (Lure)のことだろうとしている。もっとも、これらは日本語版で付け足された注記で、元になったはずのエリカ・チータムの英訳本では宝瓶宮とされている。チータムは原文を lurne のまま、何も注記せずに宝瓶宮と訳していたため、日本語版スタッフには訳の根拠が分からなかったのだろう。
 4行目「ロレーヌの洪水 大墳墓に裏切られる」は可能な訳。hurne を urne と訳す場合、それには「骨壺」の意味があるので、墓の連想は可能だろう。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエール(1672年)は、2行目の土星(サトゥルヌス)を鉛の隠喩と見て、ムーズ川の大洪水の後、3箇所の鉛の鉱脈が発見されることと解釈した *5


 マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)(1938年)は、未来に現れる偉大な君主に関連する詩としていた *6 。息子のジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは1980年のベストセラーでも、晩年の著書でも全く触れていなかった。

 ヘンリー・C・ロバーツ(1947年)は「万国の人々に影響する戦争の『洪水』によって、商業と学問が危機にさらされるだろう」(Commerce and learning shall be endangered by a “flood” of wars, affecting all the peoples of the world.) *7 とだけ解釈した。その日本語版では「貿易と学問が世界を変えていく」 *8 云々と訳されているが、ロバーツ本人の解釈からは離れすぎている。

 エリカ・チータムは1973年の時点では文字通り一言も(語注すらも)付けていなかった。最後の著書でも、時期を特定できない甚大な洪水の予言としか解釈していなかった *9

 セルジュ・ユタン(1978年)は1940年5月のベネルクス方面へのドイツ軍侵攻と解釈した *10

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールは4行目の hurne はオルヌ伯(comte de Hornes) フィリップ・ド・モンモランシーかもしれないとしつつも、星位についてごく簡単に説明しただけだった *11

 ロジェ・プレヴォは2行目を宝瓶宮に土星、太陽、金星、木星が入った1523年2月と解釈した。その月、まさにロレーヌ地方では大洪水があり、特にポン=タ=ムソンでは水道橋が損壊するなどの被害があったという。その年に裏切る貴人とは、フランス大元帥であったにもかかわらず神聖ローマ皇帝カール5世と内通して亡命したシャルル・ド・ブルボンのことと解釈された *12
 プレヴォのこの解釈はピーター・ラメジャラーリチャード・シーバースが踏襲している(シーバースは上述の通り、hurne を urn と英訳しているが、これがどうブルボン公に結びつくのかは説明していない)。


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