原文
異文
(1) Asop 1555 1557U 1557B 1568A 1588-89 1590Ro 1650Le 1668 : Aso, 1589PV 1649Ca, Alcop 1653 1665,
Ascop T.A.Eds.
(2) d'Eurotte 1555 1589PV 1627 1644 1649Ca 1650Le 1650Ri 1653 1665 1668A : d'Europe
T.A.Eds.
(3) de l'isle : de lisle 1555A 1557U 1840, de l'Isle 1588-1589 1589PV 1597 1600 1610 1650Ri 1660 1716, del'Isle 1611B, de l'ilse 1627
(4) submergée : subrogee 1627, subrogée 1644 1653 1665
(5) D'Arton : D'Aaron 1600, D'
Araon 1610 1716, D'Aarton 1627 1644 1650Ri 1653 1660 1665, d'Arton [
sic.] 1668A
(6) classe : lasse 1653 1665
(7) phalange : phalangue 1588-1589
(8) plus : pl' 1557B
日本語訳
アソポスの陣営がエウロタスを発つだろう。
沈んだ島の近くに接すると、
艦隊は帆柱を折るだろう。
世界のへそで、最も偉大な声が仰がれる。
訳について
初出の句読点の打ち方からすれば、大乗訳や山根訳のように最初の2行をセットにすべきだが、ここでは
ピエール・ブランダムールたちの読み方に従い、2行目と3行目をセットにした。
山根訳1行目「目的のない軍隊がヨーロッパを発ち」、大乗訳1行目「アスコップの陣営はヨーロッパから出発し」は、1568年版やその亜流の原文に従った訳としては許容できる。
2行目 S'adjoignant は山根訳のように「仲間入りする」とも訳せるが、この場合は arrivant と現代語訳しているブランダムールの読み方に従った。
ジャン=ポール・クレベールや
ピーター・ラメジャラーも類似の読み方である。
大乗訳の3行目「アートンから海や陸を通って軍隊は進み」は
ヘンリー・C・ロバーツの英訳をほぼ直訳したもので、classe を「艦隊」、phalange を「(陸の)軍隊」と理解したものと考えられる。
ガランシエール=ロバーツの異文の訳としては誤訳とはいえない(Arton を「アートン」と英語読みしていることの是非は措く)。山根訳の3行目「ARTONの艦隊が軍旗を畳み」も許容されうる訳。
D'Arton については、ブランダムールに従い、d'artimon の誤記として処理した。
4行目は原文通りなら比較級(「より偉大な声」)であるが、ブランダムールらの読みに従い最上級(「最も偉大な声」)として訳した。また、世界のヘソにも前置詞が略されているものと見て「で」を補った。
subrogée は「代えられる」(大乗訳)、「母屋を奪われる」(山根訳)などと訳すのもおかしいわけでなく、「世界のへそが、より偉大な声にとって代わられる」とも読めるが、ここではブランダムールや
ブリューノ・プテ=ジラールの読み方に従った。
信奉者側の見解
エリカ・チータムはArton を NATO(北大西洋条約機構)のアナグラムと見なした。日本でも、
川尻徹などはこの解釈を支持していた。
同時代的な視点
エドガー・レオニが指摘するように「数多くの異文と古典的な用語のせいで、この詩の解明が困難になっている」。
初版をもとにブランダムールが校訂した読み方は、プテ=ジラールやラメジャラーにも支持されている。ブランダムールは、アソポスはボエオティアの川、エウロタスはスパルタの川、「沈んだ島」はプリニウスが紹介しているコリント湾の沈んだ都市と関わりがあるのではないかとしている(「島」でないことはブランダムールも認めており、ほかにもいくつかの候補を挙げている)。つまりは、スパルタから出発したボエオティアの軍隊の帆桁が、コリント湾のそばで折れてしまうという詩である。
4行目、「世界のへそ」はギリシャ神話ではデルポイを指す慣用表現で、つまり「最も偉大な声」とはデルポイの神託を指す。
ピーター・ラメジャラーは、パウサニアスが描く紀元前371年のレウクトラの戦いでテーバイ人がスパルタ人を破ったことと結び付けている。
クレベールは、ヘロドトス『歴史』に描かれた紀元前479年のプラタイアの戦いが元になっている可能性があることを指摘した。プラタイアはアソポス川源流に近いボエオティアの地名で、この戦いではマルドニオスとともにその子アルトンテス(Artontes)が指揮を執り、勝利の後デルポイに赴いたからである(クレベールの解釈に従えば、3行目の読みは「アルトンテスの艦隊が(敵の)軍隊を挫くだろう」となる)。
エヴリット・ブライラーは camp ascop をギリシャ語の catascope と結び付けて「偵察船」(spy ship)とし、アクティウムの海戦(紀元前31年)やプレヴェザの海戦(1538年)と関連がある可能性を示した。同時に、4行目は「世界のへそ(デルポイ)が、より偉大な声(キリスト教)にとって代わられる」と読んだ場合に、ギリシャにキリスト教が広まった様子を描いているとも見ている。
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最終更新:2009年10月18日 12:01