百詩篇第8巻36番


原文

Sera commis conte 1 oingdre 2 aduché 3
De 4 Saulne & sainct Aulbin 5 & Bell'œuure 6
Pauer de marbre 7 de tours 8 loing 9 espluché 10
Non Bleteram 11 resister & chef d'œuure 12 .

異文

(1) conte : contre 1649Xa 1672 1981EB
(2) oingdre : ioindre 1590Ro, oinde 1605 1649Xa, Oinde 1672
(3) aduché : a duché 1590Ro 1650Le, à duché 1627 1630Ma 1644 1650Ri, à Duché 1653 1665 1840, a Duché 1672
(4) De : Ce 1627
(5) saint Aulbin : S. Aulbin 1649Xa, Saint Aubin 1672 1772Ri
(6) Bell'œuure : Bel l'œuure 1597 1603Mo 1611 1981EB, bel l'œuure 1600 1630Ma 1644 1650Ri, Bel l'œure 1610 1716, bel l'œure 1627, Belœuure 1605 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1668 1672 1840, Bel'œuure 1665
(7) marbre : Marbre 1672
(8) tours : tous 1649Ca, Tours 1650Le 1668 1772Ri
(9) loing : loings 1597 1600 1603Mo 1610 1627 1630Ma 1716
(10) espluché : pluche 1672
(11) Bleteram 1568 1590Ro 1597 1600 1603Mo 1610 1653 1665 1716 1772Ri : Bleteran 1591BR & T.A.Eds.
(12) chef d'œuure : chef-d'œuvre 1716(a c)

校訂

 マリニー・ローズロジェ・プレヴォピーター・ラメジャラージャン=ポール・クレベールパトリス・ギナール(未作成)は、若干採用している綴りに違いはあるが、1行目の conte を conté とし、 aduché を à duché と校訂した *1 。conté は伯爵領のことである(現代では普通 comté と綴るが、中期フランス語ではどちらの綴りもあった *2 )。さらに、プレヴォ、ローズ、ラメジャラーは oindre を joindre と校訂しているが、クレベールとギナールはそのまま oindre としている。リチャード・シーバースは、英訳を見る限りではプレヴォ=ラメジャラー式の読みを採用しているようである *3

 2行目の前半律(最初の4音節)は1音節足りない。そこでギナールは & の後に Loue を挿入した。他の論者はこの1音の不足について特にコメントしていない。Bell'œuvre (逐語訳すれば「美しい作品」)は、ベルヴェヴル(Bellevesvre)のことであろう点について、ローズ、プレヴォ、ラメジャラー、クレベールらに異論はないが、綴りの揺れなのか、韻を踏ませるための言葉遊びなのか、判然としない。

 4行目 Bleteram が Bletterans であろうことは異論がない。プレヴォとラメジャラーは Non を Nom と見なしている。 

日本語訳

(彼は)伯爵領を公爵領に結びつけることを任されるだろう、
(ロン=ル=)ソニエとサン=トーバンとベルーヴルから。
遠くの塔からこそぎ取られた大理石で舗装する。
ブレトランの名と傑作は抵抗する。

訳について

 上の「校訂」節から明らかな通り、この詩の原文には様々な混乱があるため、翻訳のバリエーションも多くならざるをえない。当「大事典」は原則としてロジェ・プレヴォピーター・ラメジャラーの読みを中心とした。

 1行目は校訂しないと例えば「連れてこられた者が話に塗油することを委任されるだろう」というような意味不明な句になる。そこで、プレヴォ=ラメジャラーの校訂を全面的に取り入れた。2行目は Bell'œuvre は言葉遊びの可能性もあるので、ベルヴェヴルとせずにそのまま表記した。同じ行の Saulne は「ソーヌ」と表記してしまうと、ソーヌ川(Saône) と勘違いされかねないことを考慮し、ロン=ル=ソニエ (Lons-le-Saunier) であることがほぼ定説化していることを踏まえ、そう訳した。
 3行目 espluché は esplucher (éplucher) の過去分詞形。éplucher は「(果物などの)不要な部分を取り除く、(織物などの)不純物を取り除く」の意味なので、「こそぎ取られた」と訳したが、「吟味する」などの意味もあり、プレヴォは塔を形容して「見張り塔」の意味になっているとする。
 4行目について、プレヴォもラメジャラーも3行目の「塔」と4行目の「傑作」を同一視しており、ラメジャラーは「ブレトランの名は傑作よりも長生きする」と英訳しているが、そう訳すには & の位置が不自然に思われることから、上のように訳した。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 1行目 「公国はオインデに反抗してしばられ」 *4 は底本に基づく訳としては理解できないこともないが、不適切。大元を辿ればテオフィル・ド・ガランシエールの英訳で oindre が Oinde と表記されていたところに行き着くが、ガランシエール自身オイデプスかも知れないとする程度の考えしかなく、熟慮の結果の校訂というには程遠いので、支持すべき理由がない。
 3行目「大理石を手にもって塔をしっかりつかみ」は元になったはずのヘンリー・C・ロバーツの英訳をほとんど逐語訳した感じだが、仏語原文からすればロバーツの英訳の have は pave の誤植だろう。また、picked を「つかみ」とするのも不適切。仏語原文 éplucher からすれば、「剥ぎ取る、盗み取る」といったニュアンスだろう。
 4行目「ブリテランは反抗せず、主人は打たれる」は、前半はともかく(non をそのまま否定にとれば、理解できる)、後半は誤訳。ロバーツの英訳 master stroke の stroke を動詞だと思い込んだのだろう。master stroke (masterstroke) は「見事な腕前」を意味する。仏語原文 chef d'œuure (傑作、代表作)からも誤訳なのは明らか。

 山根訳について。
 1行目 「油を塗られた者に対して危うくされよう」 *5 は、conte を contre とし、oindre を過去分詞形 oint と理解すれば成立する。
 2行目「ロン・ル・ソーニエやサン・トンバンやベルーブルから連れてこられた者」の「連れてこられた」は1行目aduchéをそのまま理解する場合に成立する。ただ、1、2行目とも現在の実証主義的研究者の読みでは全く支持されていない。
 4行目「ブレットランと彼の傑作に抵抗せぬよう」は「彼の」に当たる語がない。その程度を補うのは意訳の範囲かもしれないが、日本ではブレトランという地名が広く知られているとは思えないため、人名と誤解される恐れがあるのではないだろうか。なお、「抵抗せぬよう」という訳は、大乗訳と同じく、Non をそのまま訳す場合には正しい。

信奉者側の見解

 ほとんど全訳本の類でしか言及されてこなかった詩であり、言及されている場合にもあまりきちんとした解釈がなされない場合が多かった。

 テオフィル・ド・ガランシエール(1672年)は、1行目の oindre を Oinde と修正し、オイデプスと結びつく可能性を挙げただけで、解読不能とした *6


 ヘンリー・C・ロバーツ(1947年)は後期の予言に見られる曖昧で理解不能な詩の一つとした *7 。後の改訂版でも一切変更がない *8

 エリカ・チータム(1973年)はブレトランにいくつか注記しただけで、解釈困難とした *9

 セルジュ・ユタン(1978年)はルイ14世によるヴェルサイユ宮殿建設とした *10

 パトリス・ギナール(未作成)(2011年)はかつてのブルゴーニュ公国からハプスブルク家の手に渡っていたフランシュ=コンテがフランスに完全に併合された1678年は、ヴェルサイユ宮殿の大規模な改築工事が始まった年でもあると解釈した *11

同時代的な視点

 ロジェ・プレヴォは、15世紀にルイ・シャロン=アルレーが計画した事業がモデルと推測した。その事業は、フランシュ=コンテ(ブルゴーニュ伯領)とブルゴーニュ公国とを道でつなぐというもので、その敷設には古代ローマ時代の見張り塔「狼の塔」(Tour du Loup)やその周辺の建材が再利用されたという *12 。ブレトランの名が抵抗するというのは、ブレトランの名が古代ローマ時代、さらにはケルト人たちの時代にまで遡る名前であって、(資材を剥ぎ取ることはできても、名前を奪うことはできず)残り続けたことを指すようである。

 この解釈はピーター・ラメジャラーリチャード・シーバースが踏襲した *13
 いずれにせよ、記載されている地名はいずれもジュラ地方のものであり、それを含んだフランシュ=コンテやブルゴーニュ公国の動きと結び付けられることは確かではないかと思われる。


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