ve

 ve は、『予言集』の中では詩百篇第8巻98番のみに登場する語。
 綴りとしては vé または væ が正しいだろうと思われる。実際、暦書では Vae の使用例がある*1

 DMFには名詞のみの用法で「呪い、呪いの言葉」(malédiction)、「脅威」(menace)とある*2
 DALFにはそのほか、間投詞として malheur が載っている*3。malheur は「不幸」などの意味だが、間投詞的な用法としては「災いあれ」のほか、失望や落胆を表す語として使われる。

 ただし、アナトール・ル・ペルチエ以来、しばしばラテン語の vae のフランス語化と見なされている。『羅和辞典』では「ああ!」「災いなるかな!」という語義が挙げられている*4

 新約聖書のウルガータ(カトリック公認ラテン語訳)では、ヨハネの黙示録第8章13節、第18章10・16・19節での嘆きの言葉に vae が繰り返されている。
 これは新共同訳では「不幸だ、不幸だ」、佐竹明訳では「わざわいだ、わざわいだ」(フランシスコ会訳「災いだ、災いだ」、小河陽訳「禍いだ、禍いだ」)などと訳されている。
 なお、文語訳(大正改訳)では「禍害(わざわい)なるかな、禍害なるかな」であった。

 vae を2回(以上)反復するのは、新約では黙示録だけである。旧約だとエゼキエル書、アモス書などにも見られる。

 なお、新約聖書は元々ギリシア語で書かれているが、ラテン語訳 vae の原語は ouai である。
 これは与格を取ると「~に禍いあれ」が本来の意味だというが、マルコ福音書やヨハネ黙示録では「~にとって禍いがある」という意味合いで使われている*5

 ノストラダムスの場合も、呪いを投げかけた言葉として使っているのではないだろう。


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最終更新:2016年05月08日 03:11

*1 Clébert [2003]

*2 DMF p.648

*3 DALF T.08, p.154

*4 『羅和辞典』

*5 田川建三『新約聖書 訳と註』第1巻、p.411