『ラングドックのヴァンサン・オカーヌによりその年の初めに国王アンリ4世に献上された、1600年からの世紀に向けたミシェル・ノストラダムス師の予言』(Predictions de Me Michel Nostradamus Pour le siecle de l'an 1600 Pntees au Roy Henri 4e au commencement de l'Annee par Vincent Aucane de Languedoc.)は、フランス国立図書館に現存する予言書の手稿である。
フランス国立図書館に所蔵されている 『主に16世紀末から17世紀初頭のフランス史に関する断片集成』(Recueil de pièces concernant l'histoire de France, principalement à la fin du XVIe siècle et au commencement du XVIIe .)の第76葉から第78葉の3葉(=6ページ)分がこの文書に該当している。この文書集は17世紀ごろの雑多な手稿の寄せ集めなので、前後に収録されている文書などは、この予言書と直接の関連を持たない。
Predictions de Me Michel
Nostradamus Pour
le siecle de l'an 1600 Pntees au Roy Henri 4e au
commencement de l'Annee par Vincent Aucane
de Languedoc.
Pntees が Presentees の略だという点に異論はない。
アンリ4世については、上記の転記はGallicaで公開されているものを元に、ジャック・アルブロン(*1)、パトリス・ギナール(未作成)(*2)の転記も参照したが、ダニエル・ルソ(*3)、ロベール・ブナズラ(*4)は Henri 4° としている。確かにルソの著書のフォトコピーは4の右肩の文字が潰れていたが、フランス語で「第四」を意味する略記は e を右肩に載せるのが普通だし、Gallicaのフォトコピーでは鮮明に e が見えるので、4°とする転記に正当性はない。
著者名についても異読があるが、それについては次の節で扱う。
さて、1520年代の編者不明の予言書『ミラビリス・リベル』に、メトディウスの予言書が「ベメコブスの予言書」として再録されていたように、何の意味があるのかよく分からない名前の改変事例は他にもあるので、「ヴァンサン・オカーヌ」はヴァンサン・セーヴの手稿を筆写した何者かが、何らかの意図で名前を若干アレンジした可能性などもあるのかもしれない。
なお、オカーヌであれ、オケールであれ、そういう単語はフランス語に存在しない(DALFには Aucaire は載っているが、語義不明とされている)。
ただ、プロヴァンス人の姓には Aucano というものがあり、そのフランス語化が Aucane らしい(*6)。また、Aucaire は南仏の言葉で、「雁を見張る人」(celui, celle qui garde les oies)の意味だという(*7)。ゆえに、いずれが正解でも、南仏の人名としてありえないわけではなさそうだ。