Propheties de Maistre Noel Leon Morgard

 『 ノエル・レオン・モルガール師の予言集 』(Propheties de Maistre Noel Leon Morgard)は、おそらく1610年代に刊行されたノエル=レオン・モルガールの著書。ノストラダムスに帰せられた六行詩集を盗用したパンフレットである。

 わずか15ページのパンフレットで、フランス国立図書館に現存するが *1ジャック・アルブロンが2002年に紹介と復刻をするまで、ノストラダムス関連文献とは認識されていなかった。

題名

 現存する伝本に標題紙は付いておらず、本編の冒頭に以下の題名がある。

PROPHETIES DE MAISTRE
Noel Leon Morgard, professeur és[sic.] Mathemati-
ques presentees au Roy Henry le Grand, pour ses
estrennes en l an 1600. contreuenãt plusieurs predi-
ctions sur l alliance d'Espagne.

  • 1600年に新年の贈り物としてアンリ大王に献上された、スペインの同盟に関する多くの予言に背く占星術教授ノエル・レオン・モルガール師の予言集

出版業者・刊行年

 標題紙がなく、巻末にも奥付がない。挿画がないのはもちろんのこと、他の装飾的な要素も欠いており、一部の業者のように、業者名を装飾の特徴から割り出すことも出来ない。

 ただし、刊行年については、パトリス・ギナール(未作成)は1611年以降としており *2ジャック・アルブロンは1614年ごろの刊行としている *3

 さて、モルガールの著書のうち、刊行年ないし対象年の明記された著書は1612年から1619年までしかない。しかも、1614年に漕役刑(ガレー船送り)に処せられたという話があり、1619年のものは偽書の疑いをかけられているので、実質的には1612年から1614年に絞り込まれる。このことから、その頃の刊行を有力視するのは妥当だろう。

 「スペインの同盟」については断言しかねるが、フランスとスペインは、フランス王ルイ13世とスペイン王女アンヌ・ドートリッシュ、王妹エリザベートとスペイン王太子フェリペという二つの婚姻関係を結んでおり(いずれも1612年成立、1615年挙式) *4 、アンリ4世の治世下ではそうした結びつきが見られなかったことを勘案するならば、「スペインの同盟」とは、それらの婚姻によるフランスとスペインの結びつきを指すと見るのが合理的だろう。
 すなわち、そうした事態(ないし事態を踏まえて政治的な予言が多く刊行された状況)に合わせて出版され、説得力を増すために1600年のうちに献上されていたという点を強調したのではないかと考えられる。つまり、1600年に献上されたという表記は、その年に刊行されたことを示すものではないはずである。

 こうしたことを踏まえれば、このモルガールのパンフレットが刊行されたのは、1612年から1614年のことであったろうと考えられる。

六行詩集との関係

 ノストラダムスの六行詩集は、17世紀初頭に偽作されたことがほぼ確実である。その六行詩集には、54篇から成るヴァンサン・オカーヌ名義の手稿と、現在も流布している58篇の印刷版の2種がある。以下の表は、モルガールのテクストとそれらを比較したものである。

 以下では
の6種を比較している。ただし、大文字・小文字の区分など、瑣末な違いは原則として全て略し、特徴的なものをいくつかピックアップするにとどめているので、より詳しくは各リンク先の記事を参照のこと(ただし、2017年4月末時点では、それらの記事の比較に1628dRは含めていない)。* は1600Auに含まれていない予言である。

詩番号 異文(1600Au / 1600Mo / 1605sn / 1611A / 1611B / 1628dR)
01 dedans : dans (1605sn) ; Florence : Provence [?] (1600Au) ; Port : Porte (1600Mo)
02 fera : on verra lors (1600Au) ; pied terre : pied à terre (1600Au), le pied à terre (1600Mo)
03 Cinq : Trois (1600Au) ; laschee : lasche (1605sn), laschée (1628dR)
04 D’vn rond, d’vn lis : D’vn noble lis (1600Au), Du rond d’vn Lis (1600Mo), D’vn rond d’vn lis (1611B) ; Libra : lira (1600Mo), libra (1611B) ; Dame en apres : Dans vn an apres (1600Mo)
05
06 on luy : luy (1611B) ; & en peine : en peine & (1600Mo) ; amye dans Espagne : Admis dedans L’espagne (1600Au), Commis dedans l'Espagne (1600Mo) ; dans la campagne : à la campagne (1600Au)
07 Lors : Alors (1600Au) ; defaudra : on defendra[?] (1600Au), deffendra (1600Mo) ; luy donra : leur donra (1600Au), leur donnera (1600Mo)
08 franc pays : païs franc (1600Mo)
09 Et vne Dame : Vne Dame (1600Mo) ; Bastille : dans la Bastille (1600Mo)
10 Que de l'oster : Que de l’hoster (1600Au), Pour l'oster (1600Mo) ; en ce : en fin (1600Mo)
11* ce siecle : le siecle (1605sn 1628dR) ; Coups & Monfrin : Coups & Moufrin (1611A 1611B), Lors de Montfin (1600Mo) ; Beccoyran, & ales : Bocarreas & Allays (1600Mo) ; alez, & trente moines : aliees de trente meine (1600Mo)
12* Genaudan : Geruaudan (1600Mo) ; demande : de Maude (1600Mo)
13 cens & six : cens cinq (1600Au 1600Mo) ; dans : en (1600Au) ; peu apres : par apres (1600Mo) ; sera hors de puissance : mis hors de sa puissance (1600Mo) ; le puissant : le tres grand (1600Au)
14* Recommençant : Recommançant (1600Mo), Recommançans (1605sn)
15 grand : Geand (1600Mo)
16 six cens & cinq : six cens cinq (1600Au), mil six cens cinq (1600Mo) ; Pouruoyeur : Pouruoyement (1600Mo) ; faits : effects (1600Mo)
17 l'autre : de l'autre (1600Mo), à l'autre (1605sn)
18 ia la toille tissue : ja sa toille tissue (1600Au), la toille est tissuë (1600Mo), ia la toille tissuë (1605sn)
19 iusques l’an : iusques en l’an (1600Au 1600Mo), iusques à l'an (1605sn) ; Crocodril : Crocodil (1611A 1611B 1628dR) ; a caché : a craché (1600Au), à craché (1600Mo), à caché (1628dR)
20 Tenu : A tins (1600Mo) ; R'entre à : Rentrera en (1600Au), Rentre à (1600Mo) ; se sçachant : sçachans (1600Au 1600Mo)
21 commencera regner : commencera a regner (1600Au), commenera a regne (1600Mo) ; r'allumer son feu : por rallumer le feu (1600Au), r’allumer tout son feu (1600Mo), r’allumera son feu (1611B)
22 descouurissant : en descouurant (1600Au), descouurisiant (1600Mo) ; Coups : Coupe (1600Mo) ; Gueté : Guette (1600Au), Guerre (1600Mo)
23 la prouë : la proue (1600Au), l'aprouue (1600Mo), la proüe (1611A 1611B) ; reflus : regrets (1600Mo)
24 cens & huict & vingt : cens huict & vingt (1600Au 1600Mo), cens & vingt (1611B)
25 Six cens & six, six cens & neuf : Six cens six ou six cens neuf (1600Au), Mil six cens six ou neuf (1600Mo) ; terroir : terrouer (1600Au 1600Mo)
26 si l'an : end'an (1600Mo) ; N'est : S'il n'est (1600Mo) ; d’vne grand’ maladie : d'vne grand maladie (1600Au), d'vne grande maladie (1600Mo 1605sn), d'vn grand' maladie (1611B)
27* morts : Maures (1600Mo)
28 L'an mil six cens & neuf ou quatorziesme : L'an mil six cens dix au quatorziesme (1600Au), L'an 1609. au quatorziesme (1600Mo) ; A mesme : Au mesme (1600Au 1600Mo)
29 renforcer : renforce (1600Mo)
30 Dans peu de temps : Dans peu de jours (1600Au), Dame peu de temps (1600Mo) ; Mettront : Mettant (1600Mo) ; accosté : augmenté (1600Au) ; saliue : la vie (1600Au)
31 du pays : d'vn pays (1600Mo) ; Crocodil : Crocodril (1600Au), Cocodril (1600Mo)
32 alarmes : alarme- (1605sn) ; Le Ciel de sol, en fremit & en tremble : Le Ciel fremist & le[?] Soleil en tremble (1600Au), Le Ciel de soy en fremit & en tremble (1600Mo), Le Ciel de Sol, fremit & en tremble (1611B)
33 Du peu : D'vn peu (1600Mo) ; Viuaeois [vers4] : Viuaroy [?] (1600Au), Viuerais (1600Mo), Viuarois (1605sn)
34 l'Arby : labry (1600Au), d'arby (1600Mo)
35 grandement : d'vn grandement (1600Mo) ; la quittee : la quitté,e[sic.] (1600Mo), l’a quittee (1611A 1628dR), l’a quitte (1611B) ; Crocodilles : Crocodrilles (1600Au), Cocodrils (1600Mo) ; forts Bourgs : forts (1600Au), fauxbourgs (1600Mo)
36 geys : gays [?] (1600Au), gais (1600Mo), geyes (1605sn) ; morsure : naissance (1600Mo)
37 auant : deuant (1600Mo) ; enuahira : enuyera 1600Mo
38 à l'hazard : au hazard (1600Au), à l'hazer (1605sn), de l'hazard (1611B) ; Six cens & quinze : Six cens six (1600Mo)
39 du monstre : demonstre (1600Mo)
40 par guerre : par fer (1600Au 1600Mo)
41 sera fors fait : seront forts faits (1600Au 1600Mo), sera fors faits (1605sn) ; soustiendra : souffriront (1600Au) ; vnie : viendra (1600Mo)
42 alarme : armes (1600Mo) ; de : dés (1605sn 1628dR), des (1611A 1611B)
43 se verront dominées : se uera[?] dominee (1600Au), uerra dominee (1600mo) ; Qui aura fait entrée dans : Qu’ils auront faict entrer dedans (1600Mo)
44 Du trait d'Amour, elle sera enlassée, : D'vn trait d'Amour elle sera enlassée (1600Au), Et sera du traict d'amour enlassee (1600Mo)
45 De coup : D'vn coup (1600Au 1600Mo), De coup. (1611B) ; Par Crocodil : Par Crocodril (1600Au), Par Cocodril (1600Mo), Pa Crocodil (1605sn)
46 n'escoute : mescoutte (1600Au), m'escoutte (1600Mo) ; infortune : fortune (1600Au)
47 qu'il tiendra : le tenant (1600Au), qui le tiendra (1600Mo)
48 de ses fils : des fils (1605sn 1628dR) ; predecesseurs : precesseurs (1605sn)
49 Oliuier : l'olliue (1600Au), Olliuier (1600Mo), Oliuer (1605sn)
50 l'Angleterre : l'Aglenterre (1605sna), l'Augleterre (1611B) ; Faite : Feste [?] (1600Au), Faute (1600Mo)
51 en ses ans : long ans (1600Mo)
52 Berthelemy : Barthelemy (1605sn)
53 à l'eau : & l'eau (1600Au 1600Mo)
54 Six cens & quinze, vingt, grand Dame : Six cens & al [?] vne Dame (1600Au), Six cens quinze vne grand Dame (1600Mo)
55 deuant ou apres : apres (1600Au) ; parens : voisins (1600Mo) ; Et à deux : Et a deux (1600Au), Qui a deux (1600Mo)
56 de toutes parts verra : viendra de toutes parts (1600Au), de toute parts viendra (1600Mo) ; aupres de terre : proche de terre (1600Au), proche la terre (1600Mo)
57 mourra : elle mourra (1600Au)
58 sur eux : sur tout (1600Au 1600Mo)

コメント

 モルガールのテクストは54篇の手稿と一致する語を多く含んでいる。その一方で、標準的なテクストと比べて大幅な改編が目立つため、58篇の印刷版がモルガール版に依拠したという可能性はまずない。あくまでも54篇の手稿から58篇の印刷版が生まれる途上で派生した版と見るべきだろう。ゆえに、モルガール版それ自体は、六行詩の起源や系譜を明らかにする上で、さしたる価値を持たない。

 しかし、モルガール版には奇妙な特色がある。すなわち、54篇の手稿と多く共通するにもかかわらず、詩篇の数や配列が58篇の印刷版と完全に一致している点である。このことを説明するためには、次の二つの可能性が挙げられる。
  • モルガールは54篇の手稿と58篇の印刷版の両方を手許において校合し、そこに独自の改変を加えた。
  • 54篇の手稿の原文を多く保持したまま、詩篇数を58篇に増やした未知の手稿があり、モルガールはそれに依拠しつつ、独自の変更を加えた。58篇の印刷版も同じ未知の手稿を底本にしたが、モルガールとは異なる改変を加えた。

 一つ目の可能性は現存するマテリアルのみからの説明として最も合理的なものである。しかし、そうだとすると、54篇の手稿をわざわざ参照することにさしたる意味があるとは思えない。58篇の印刷版だけをもとに、自分の好きなように改変すればよい話だからである。
 仮に、貴重なノストラダムス予言の手稿(の写本)を持っていることを誇示したかったのだとすれば、そういう行為も納得できないわけではない。しかし、実際のモルガール版はそのような編集事情に一切触れず、ノストラダムス作ではなく「モルガールの予言」として提示している以上、誇示する役には全く立っていない。

 それに対して二つ目の可能性は、現存するマテリアルからは少々飛躍があるものの、ノストラダムス予言(と主張していた偽作)を自分の予言として剽窃した人物の行動として理解しやすい。モルガールが面倒な校合をしたと想定する必要がなくなるからである。
 また、手稿しか知らなかったのだとすれば、ノストラダムスの名を消して自分の予言として公表しても露見しにくい、という判断に繋がった可能性がある。
 もっともこの仮説の場合、1605年版どころか1611年シュヴィヨ版すら、モルガールは全く認識していなかったことになるので、ルソやギナールのように、1605年版を偽年代版とした上でシュヴィヨ版を1611年よりも後の時期に持っていく仮説を採用しないと、整合性の点では難があるかもしれない。

シンボル解釈

 この文献には、末尾にシンボルの解釈が載せられている。もともとの手稿にはそういうものがないので、モルガールが自分の政治的意図にひきつけて詩を読ませるために、独自に付け加えた可能性が疑われる。

シンボル 解釈
蛭(sengsue) スペイン人(Espagnol)
オオカミ(Loup) 英国人(Langlois)[L'Anglois]
危険を冒す者(L’auanturier) ローマ教皇(Le pape)
供給する者(Pouruoyeur) 王太子(Dauphin)
ワニ(Cocodril) フランス人の裏切り者たち(traistres François)
諸悪の作り手(L’autheur des maux) ペスト(La peste)
雄弁な者(Mercurial ロニー(Rosny)
老いたカロン(Vieil Charron) 大元帥(Connestable)
グリフィン(Griffon) 神聖ローマ皇帝(l’Empereur)
ゾウ(Elephant) トルコ(Le Turc)
医師(Medecin) アンリ大王(Henry le Grand)
フェニックス(Phoenix) ド・モンモランシー(Demontmorancy)

 『王太子』はルイ13世だろう。この予言はアンリ4世(アンリ大王)に献上されたという体裁なので、よもやルイ13世の治世下の王太子を指すということはないだろう(そもそもルイ14世の誕生は1638年のことであり、予言で詳細に語れるはずもなかった)。
 しかし、ルイ13世の誕生は1601年のことで、どちらにせよ1600年に献上されたという設定で登場するのは不自然である。

 『ロニー』は、アルブロンによると、ロニー=シュル=セーヌで生まれたシュリー公のことらしい。シュリーはアンリ4世の治世下で財政再建に辣腕を振るったことで知られる。1598年に財政長官に任命されているので、この名前が出てくること自体はおかしくない。

 問題となるのが『大元帥』で、アンリ4世の治世下ではアンリ(1世)・ド・モンモランシーが勤めていた(在任1593年 - 1614年)。そして、それ以降、1621年までは空席となっている。
 1600年に献上されたという設定を尊重するなら、モルガールの言う大元帥はアンリ・ド・モンモランシーに他ならない。確かにそれなら「老いた」という表現にも合致する(彼は1534年生まれ)。
 しかし、それだと、フェニックスの解釈に出てくる「ド・モンモランシー」と重複してしまう。フェニックスの方は「モンモランシー家」ということだろうか。
 いずれにせよ、老いたカロンとフェニックスをモンモランシーと解釈するならば、48番はモンモランシー家に対するこれ以上ないくらいの讃歌となる。
 果たしてそれは54篇の手稿の著者の意図するところであったのだろうか。


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