ノストラダムスの2018年予言

2017年予言2018年予言2019年予言


 ノストラダムスの2018年予言は、いくつかのインターネットメディアで報じられている。しかし、毎年恒例の単なる与太話の域を超えるものではない。

 なお、ノストラダムス本人の予言で2018年と明記された予言は存在しない。

目次

2018年トップ10予言

 海外のサイト「ロンバルディレター」(Lombardi letter)は

  • WW3? Top 10 Nostradamus Predictions for 2018 (第三次世界大戦か? 2018年向けのノストラダムス予言トップ10)

という記事を2017年3月24日に掲載した*1

 日本ではこの記事などに依拠する形でネットメディアのTOCANAが同年9月6日に

  • 【ショック】2018年版ノストラダムスの大予言が絶望的!「史上最悪の地震発生」「豚人間」「 第三次世界大戦」など悲報10連発!

というセンセーショナルな見出しの記事で紹介した*2

 しかし、掲げられている10の予言のほとんどは、以前にノストラダムスの2015年予言として紹介されていたものの焼き直しである。以下、具体的に比べてみよう(以下の比較表には、TOCANAの上記記事などから引用させていただいたフレーズが含まれる)。

2015年予言 2018年予言
イタリアのヴェズヴィオ山が2015年後半から2016年前半に噴火 ヴェスヴィオ火山が来年2018年に再び噴火
豚は人間の仲間になるだろう 豚が人間の友人となるだろう
富裕層の恵まれた未来はなくなり、彼らは幾度となく衰退していくだろう 2018年に「金持ちは幾度となく死に絶える」
(なし) 2つの大国の間で戦争が勃発し、27年続くだろう。彗星の出現とともに恐ろしい暴力が振るわれるだろう
アメリカ西部で地震がおき、続いて火山の噴火も起こる 「史上最悪の地震」「2018年はアメリカ大陸の西側が特に危険」
一部の国では産児制限が厳格になり、出産が許可制になる 子どもを欲する者は、資格あるいは許可が必要になる。自分たちの思い通りに子どもを産むことはできない
長寿に関する薬の開発で200歳まで生きられる人が現れる一方、太陽放射(有害な紫外線?)のせいで早死にする人々が多く出る 医療の進歩により、寿命は200歳まで延びる。80歳であっても50歳の見た目となるだろう
(なし) 言語の統一
王たちが森を奪い、空が開き、大地は熱で焼け焦げる 王が森を盗み、空が開け、大地は熱で焼け焦げる
人々が王に税金を支払うことを拒否する 西側諸国で税金がなくなる
今から千年も経たずして地獄の部屋が足りなくなったとき、葬られた死者は彼らの墓から這い出てくるだろう (なし)

 見ての通り、ほとんどそのまま引き写したような感じで、この種の予言がどれだけいい加減かということをはっきりと表している。
なお、これらの予言のほとんどはノストラダムス自身の予言の中には存在しない。

 2015年の焼き直しに過ぎない項目は、記事「ノストラダムスの2015年予言」で解説したことがほとんどそのまま当てはまるので、ここでは新たに付け加わった項目のみを取り扱っておこう。

 まず「言語の統一」だが、ノストラダムスの予言にはそれらしいモチーフはない。聖書のエピソードではバベルの塔が思い浮かぶが、ノストラダムス予言でバベルが出てくるのは詩百篇第2巻30番のみ、しかもそれは単に本来の意味(バビロン)で使われているに過ぎない。

 次に、第三次世界大戦とされる予言の方を扱っておこう。
 27年続く戦争のモチーフは詩百篇第8巻77番以外には出てこない。しかし、その内容は、上のフレーズと随分違う。それ以前に、TOCANAはロンバルディレターに比べて、引用部分を大幅にカットしている。おそらくバカバカしすぎて、かえってインパクトに欠けてしまうと思ったのだろう。それはこんなフレーズである。

2018年の予言
“A war will start between the two great world powers and it will last for a period of 27 years. A moment of great violence will coincide with the appearance of a comet in the sky. A nuclear terrorism and natural catastrophes will destroy our planet until a giant planet shall approach the earth.”
 2つの偉大な世界的権力の間での戦争が始まり、27年間続くだろう。
 大きな暴力の時は、空に彗星が現れる時と符合するだろう。
 大きな惑星が地球に近づくまで、核のテロリズムと自然の大惨事が我らの星を壊すだろう。

詩百篇第8巻77番
 反キリスト(により)、すぐに三者が絶滅させられる。
 二十七年、彼の血塗られた戦争が続くだろう。
 異端者は死に、捕われ、追い出される。
 血、人体、水が赤くなり、地に雹が降る。

 見ての通り、27年の戦争、という点でかろうじて一致するものの、全体的なモチーフは似ても似つかず、2018年の予言の方が粗悪な偽作であることは明らかである。言うまでもなく、第8巻77番の方を2018年と結び付けられる理由はどこにもない。

 27年の戦争のモチーフ、彗星の強調、アメリカ西海岸の地震予言の再録などから判断すると、元の予言の偽作者はクロケットの四行詩の影響を受けている可能性がある。しかし、クロケットの四行詩自体が粗悪なニセモノに過ぎないのだから、大元の偽作者は、ノストラダムス自身についてあまり知識のない、英語圏のオカルトファンなどではないかと思われる。
 その推測が妥当かはともかく、上記のトップ10予言なるものは、ノストラダムス本人とは無関係である、と改めて強調しておきたい。

 なお、ロンバルディレターの記事では、もうひとつ詩百篇第9巻100番の詩も第三次世界大戦と結び付けられているが、こちらも時期の指定がなく、第三次世界大戦と結び付けるべき理由はない。

トランプ暗殺と27年続く戦争

 27年続く戦争や第三次世界大戦勃発とする解釈については、TOCANAは A・K・シャーマの解釈を踏襲する形で、こんな詩を紹介していたこともある。

 2回打ち上げて2回落とすと、
 東は西を弱めるだろう。
 海で繰り広げられたいくつかの戦闘の後、
 その敵は肝心な場面で失敗するだろう。*3

 この2回打ち上げて、が北朝鮮のミサイル発射実験を指すのだという。しかし、これは強引な翻訳の産物というべきで、実際は以下のような詩篇である。

詩百篇第8巻59番
 二度高く、二度低く置かれ、
 東方も西方のように弱まるだろう。
 その敵は多くの戦闘の後に
 海で駆逐され、居るべき時にいないだろう。

 1行目「高く」は (mis à) haut で、これを直訳すれば「高く(置かれる)」である。DMFにも特に成句としての特殊な意味などはなく、これを「打ち上げる」という意味に捉えるのは強引だろう(mis à bas の方は「低く置かれる」以外に、「打ち倒される」「弱められる」といった意味にもなる。いずれにせよ、ミサイルのニュアンスには読めないが)。素直に読めば、勢力が強まることと弱まることを繰り返すという意味合いなのではないだろうか。
 2行目についても、「東は西を弱める」と読めるかどうかは、議論の分かれるところである。
 そしてもちろん、この詩についても時期の指定はなく、なぜ2017年や2018年と明言できるのかの根拠は全く示されていない。

 日本でも紹介されたA.K.シャーマの解釈には、ドナルド・トランプ暗殺と解釈されているものもある。シャーマの英訳を転訳したものを、TOCANAから引用させて頂こう。

 トランペット(トランプ)は大きな仲たがいで揺れ動いている。
 ある合意が破棄される。顔が天国を見上げる。
 血塗られた口は血の海で泳ぐだろう。
 牛乳とハチミツで清められた顔が地面に横たわる。*4

 このトランペットとトランプを結びつけるのだという。こちらの詩は、少なくとも翻訳そのものは、単語の意味からすればそれほど突飛なものではない。

詩百篇第1巻57番
 大きな不和のせいで喇叭(ラッパ)が鳴り響くだろう、
 調和が破られて、頭を天に掲げて。
 血まみれの口は血の中を泳ぐだろう、
 地べたでその顔は乳と蜜を塗られる。

 しかしながら、西洋古典学者や仏文学者らの研究では、古代ローマの『サテュリコン』に類似の表現があり、最初の3行は、血塗られた姿で冥界から現れ出てくる不和の女神の描写がモデルになっていると推測されている。「ラッパ」が示すものは、不和の女神の登場を知らせる戦闘ラッパのことなのである。
 もちろん、この解釈が絶対に正しいとは言い切れない。しかしながら、シャーマらがトランプの描写だと主張するそのほとんどの描写は、『サテュリコン』と大同小異のものであって、大予言者でなければ描けないようなものではないことは、まぎれもない事実なのである。


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最終更新:2017年12月31日 23:20