詩百篇第1巻11番


原文

Le mouuement1 de2 sens3, cueur4, pieds5, & mains6
Seront d'accord.7 Naples, Leon8, Secille9,
Glaifues10, feus11, eaux12 : puis13 aux14 nobles15 Romains16
Plongés, tués17, mors18 par cerueau debile.

異文

(1) mouuement : mouuemene 1557U, mouement 1557B 1627Di
(2) de : des 1605sn 1628dR 1649Xa
(3) sens : Sens 1672Ga
(4) cueur 1555 1588Rf 1589Me 1840 : coeur T.A.Eds.(sauf : Cœur 1672Ga)
(5) pieds : Pieds 1672Ga
(6) mains : main 1668P, Mains 1672Ga
(7) d'accord. 1555 1557U 1557B 1568 : d'accord, 1588-89 1589PV 1612Me 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668 1672Ga, d'acord 1590Ro 1607PR 1627Di, d'accord 1605sn 1606PR 1610Po 1611A 1611B 1628dR 1627Ma 1644Hu 1649Xa 1650Ri 1653AB 1665Ba 1716PR 1772Ri 1981EB, d'acord. 1840
(8) Leon 1555 1557U 1557B 1568X 1588-89 1589PV 1590SJ 1590Ro 1612Me 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668 1672Ga 1840 : Lyon T.A.Eds.
(9) Secille : Sicille 1568A 1568B 1568C 1605sn 1611A 1611B 1628dR 1644Hu 1649Xa 1650Ri 1653AB 1665Ba 1981EB, Cecile 1588-89, Sicile 1591BR 1606PR 1607PR 1610Po 1667Wi 1672Ga 1716PR 1772Ri, Cicile 1612Me
(10) Glaifues : Glaiue 1612Me
(11) feus / feux : Feux 1672Ga
(12) eaux : Eaux 1672Ga
(13) puis : puits 1668P
(14) aux : au 1672Ga, eaux 1716PRb
(15) nobles : nobl 1627Di 1627Ma, Nobles 1590SJ 1644Hu 1772Ri, Noble 1672Ga
(16) Romains : romains 1589PV 1590SJ
(17) tués : Tuez 1672Ga
(18) mors : mort 1667Wi, Morts 1672Ga

1597Brは比較できず

校訂

 異文は多いが、有意義な異文はほとんどない。
 2行目 d'accord. からピエール・ブランダムールはポワン(ピリオド)を消している。しかし、この読み方はジャン=ポール・クレベールが支持しているのみで、ブリューノ・プテ=ジラールリチャード・シーバースピーター・ラメジャラーはポワンを維持している。
 同じ行の Leon, Secille をブランダムールは Leon. Secille と読んだ。句読点が違うだけだが、Leon. とした場合、Leontini の略とする読み方を導けるのである。プテ=ジラール、クレベール、シーバースらはこれを踏襲した。ピーター・ラメジャラーは2003年の時点では疑問符付きで紹介していたが、2010年の英訳では注記なしでそのまま Leon と訳されている。

 3行目 puis aux について、ブランダムールは aux puis と校訂した。この読み方はプテ=ジラール、ラメジャラー、シーバースに異論はない。クレベールは当初の語順を維持しつつも、釈義においては実質的にブランダムールと同じように読んでいる。

日本語訳

感覚、心、両足、両手の動きが
一致するだろう。ナポリシチリアのレオン(では)、
剣と火と水(が)。高貴なローマ人たちは井戸にて
脆弱な判断力のせいで溺れさせられ、殺され、滅ぼされる。

訳について

 1行目から2行目はピエール・ブランダムールの釈義に従うと、「感覚、心情、両足、両手の動きで、ナポリシチリアのレオンは合意するだろう」となる。リチャード・シーバースの英訳もこれに近い。しかし、ブランダムールは釈義をするのみで、それ以上のコメントをしていない (シーバースもコメントしていない) ため、1行目と2行目のつながりが何のことだか分からない。
 ここでは、エヴリット・ブライラーピーター・ラメジャラーの読みに従った。どちらにしても、意味が分からないのは事実だが、ブライラーやラメジャラーの読みでは、初出である1555年版に見られるポワン(ピリオド)を尊重でき、しかも、3行目前半の災厄(戦争と洪水?)の対象がはっきりするという利点がある。
 その際、レオンの扱いはブランダムールの釈義を尊重した。シーバースは訳語で「ナポリ、レオン、シチリア」と並べておいて、注記でレオンはシチリアのレオンティニだと説明しているが、そこまで直訳しなくてもよいように感じられたためである。
 なお、手、足は複数形だが同一人物のものとは限らないので、「両手、両足」には異論がありうる。しかし、「心」が単数形なので、複数人の手足と解釈するよりも同一人物 (あるいはそのような単一の存在に喩えられる何か) と理解する方が自然だろうと判断した。
 coeur は「こころ」と「心臓」の両方の意味がある。この場合はどちらとも解釈しがたい。
 「心」は 「しん」 と音読みする場合、「こころ」と「心臓」の両方の意味を持っている(辞書を引くと、やや古い用法にはなるが、「こころ」にも「心臓」の意味はあるが、現代ではあまり一般的ではない気がする)。
 上の訳文の「心」は、そういう事情から「こころ」と「心臓」の両方の意味になりうる。

 3行目はブランダムールの校訂に従った(校訂に従う場合の puis は puits と同じ)。従わない場合、「剣と火と水と。そしてローマの貴族たちへと」となる。
 なお、剣、火、水はいずれも複数形で、水に関しては複数の場合「大水、洪水」の意味があるので、当「大事典」ではしばしばそう訳すこともあるが、ここでは剣や火を複数で表しづらいことと合わせるために、単に「水」とした。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 1・2行目 「ナポリ スペイン シシリーは/心も、体も、感覚もすべて動きを同じうし」*1は、幾つかの点で疑問がある。まず、「スペイン」は Leon がスペインの都市だから(あるいは中世スペインにレオン王国があったから)、ということなのだろうが、正確性の点で疑問がある。手と足を「体」とまとめてしまうことも、少なくとも原語への忠実さという点では疑問がある。1行目を seront d'accord の内容と理解することの妥当性については、モデルの特定がなされている詩ではないので、何ともいえない。
 3行目「剣 火 水は気高いローマ人に一致させ」は、「一致させ」に当たる語が原文にない。2行目との対比と理解したのかもしれないが、妥当性は疑問である。
 4行目「虚弱な知性で 死につき進み 滅びるだろう」は、plongez (溺れさせられる)が省かれているかわりに、「つき進み」を補うのは不正確だろう。

 山根訳について。
 1・2行目 「感覚 心 足 手の動きは/ナポリとリヨンとシシリーとの一致に委ねられるだろう」*2は、不適切。普通、seront d'accord の主語を1行目と捉える場合には、2行目の後半とは切り離して訳す (seront d'accord は直接に目的語を取らない)。
 3・4行目「剣 火 洪水 高貴なローマ人が溺れる/殺されるか自然死するか 脳が弱いからそうなるのだ」は、morts を「自然死」と訳すのは不適切だろう。mis à mort (殺される)という成句が示すように、自然死とは限らない。文脈からすれば、単に tué (殺される)とほぼ同じ意味を並べていると解釈して不自然ではない。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、カール5世の軍によるローマ掠奪(1527年)と解釈した*3


 マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)(1938年)は釈義だけつけているが、事件には結びつけていない*4。その息子のジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは当初の著書では何も説明していなかったが、晩年の著書ではイタリア統一運動におけるガリバルディの進軍と解釈した*5

 アンドレ・ラモン(1943年)は(説明していないがおそらくLeonをスペインの地名と理解したうえで)1930年代のスペイン内戦におけるイタリアの役割について予言したものと解釈した*6

 エリカ・チータム(1973年)はローマ教皇が引き起こすバチカンとスペインの問題ではないかと解釈した*7。もっとも、後の著書では外れた予言なのではないかとする見解に差し替えられた*8

 セルジュ・ユタン(1978年)は(フランス革命期の?)革命軍のイタリア侵攻か、1944年のイタリア情勢か、未来の事件ではないかとしていたが、ボードワン・ボンセルジャン(2002年)の補訂では、1980年代のイタリアの過激主義者の動向などの可能性が示された*9

同時代的な視点

 Leon. をシチリア島内の地名と読む場合、レオンティニ(現在のレンティーニの古称)と理解することになる。

 特定のモデルは示されていないようである。
 ピエール・ブランダムールは釈義だけにとどまり、何もコメントしていなかった。
 ピーター・ラメジャラーは2003年の時点では『ミラビリス・リベル』に描かれた地中海経由でのイスラーム勢力によるヨーロッパ侵攻がモデルの可能性を示していたが、2010年になると「出典未特定」とした*10


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最終更新:2018年06月22日 22:47

*1 大乗 [1975] p.48。以下、この詩の引用は同じページから。

*2 山根 [1988] p.42 。以下、この詩の引用は同じページから。

*3 Garencieres [1672]

*4 Fontbrune (1938)[1939] p.36, Fontbrune [1975] p.39

*5 Fontbrune [2006] p.269

*6 Lamont [1943] p.166

*7 Cheetham [1973]

*8 Cheetham (1989)[1990]

*9 Hutin [1978], Hutin (2002)[2003]

*10 Lemesurier [2003b], Lemesurier [2010]