詩百篇第1巻17番


原文

Par quarante1 ans l'Iris2 n'aparoistra,
Par quarante ans tous les iours sera veu:
La terre3 aride en siccité4 croistra,
Et grands5 deluges6 quand7 sera aperceu.

異文

(1) quarante : quarente 1605sn 1716PRa
(2) l'Iris : l'iris 1590SJ 1612Me 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668
(3) La terre : Par terre 1606PR 1607PR 1610Po 1716PR, La Terre 1672Ga
(4) siccité : siccite 1649Ca
(5) grands : grand 1605sn 1611 1628dR 1649Xa 1672Ga 1772Ri
(6) deluges : deloges 1607PR 1610Po, deluge 1672Ga
(7) quand : quant 1589PV

日本語訳

四十年間、イリスは現れないだろう。
四十年間、(それは)毎日見られるだろう。
旱魃の大地はますます乾燥していき、
そして(イリスが)目撃されるときには大洪水が。

訳について

 大乗訳も山根訳もほぼ問題はない。

 なお、この詩については、加治木義博が2行目に jours とあることを根拠に、「四十年」ではなく「四十日」だとする読みを披露していたが*1、到底支持できない。1、2行目の前半律の切れ目はともに ans までであり、その上に ans を加治木が「半月状の」と訳していたのも妥当性を欠く(おそらく anse に引きつけて訳していたのだろう)。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、詩の情景ほぼそのままに、40年間虹が見えないときには大旱魃があり、40年間毎日虹が見えるときには大洪水がある予言とした*2

 バルタザール・ギノーD.D.は解釈していなかった。

 匿名の解釈書『暴かれた未来』(1800年)では、1年しか続かないノアの大洪水よりも恐ろしい詩として紹介され、40年間の旱魃と40年間の長雨を示す詩とした*3


 アンドレ・ラモン(1943年)は1909年から1949年までの40年間には、恐慌を含む「乾いた」(欠乏した)状態に世界は置かれるが、1949年からは一転して潤沢な状況になることを示しているとした*4

 ピーター・ローリー(未作成)は、この場合の Iris は植物のアイリスとし、アイリスが21世紀になって鬱病の治療に用いられるようになることとした*5

 現代や近未来の異常気象を予言したものとする加治木義博藤島啓章の解釈もあった*6

同時代的な視点

 リシャール・ルーサの『諸時代の状態と変転の書』の以下の箇所との類似性はつとに指摘されている。

「尊者ベーダが[…]いうに、イリス(虹ないし平和のアーチ)は、天体の影響による大旱魃と、天体に依存する叡智と神の摂理がもとで、この灼熱を前にして四〇年のあいだみられないだろう、と」*7

 この点はピエール・ブランダムールらに指摘されているが、信奉者側の文献でもエリザベート・ベルクールが指摘していた*8

 高田勇伊藤進は、先行する15番16番とともに三幅対を形成していることを指摘し、当時の詩人たちの配慮からいっても、相互の詩の連関についてさらに考察を進める必要があることを指摘した*9

 ピーター・ラメジャラーは、ルーサとの類似が明瞭でありながら、そのモチーフからのズレが存在しているのは、文献を傍らに置くのではなく記憶に頼って叙述したことによるものだろうとした*10

 ジャン=ポール・クレベールはルーサとの類似を認めつつ、「虹」が同盟関係の隠喩なのだとすれば、1525年のドイツ農民戦争がモデルになっている可能性もあるとした*11

 ルイ・シュロッセ(未作成)は1523年の大旱魃の記憶が投影されているとした*12


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  • 自称:息子が別のものを認めて正しいものを提出しない限り、救わないだろう、または、何れ救われたとしても明確な罰を受けるだろう、日本語だけ合わせるなら、旧人類を比で新人類を作った方が良いだろう -- 名無しさん (2014-04-25 19:04:56)

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詩百篇第1巻
最終更新:2018年06月24日 20:50

*1 加治木『真説ノストラダムスの大予言2』pp.189-190 ; 同『真説ノストラダムスの大予言 激動の日本・激変する世界』pp.104-105

*2 Garencieres [1672]

*3 L’Avenir..., p.115

*4 Lamont [1943] p.127

*5 ローリー [1993] pp.100-104

*6 加治木、前掲書。藤島 [1989]

*7 Roussat [1550] p.137. 訳文は高田・伊藤 [1999] p.26から引用させていただいた。

*8 ベルクール [1982] p.103

*9 高田・伊藤 [1999]

*10 Lemesurier [2003b]

*11 Clébert [2003]

*12 Schlosser [1986] p.54