詩百篇第1巻80番


原文

De la sixiesme claire1 splendeur celeste2
Viendra tonner3 si fort en la4 Bourgoigne5:
Puis6 naistra7 monstre de treshideuse8 beste9.
Mars, Apuril, May, Iuing grand charpin & rongne10.

異文

(1) claire : clair 1589Me 1612Me 1981EB
(2) celeste : Celeste 1672Ga
(3) tonner : trouuer 1589Me 1612Me, tonnerre 1605sn 1628dR 1649Xa, tourner 1627Ma 1981EB, tomber 1716PRc, Tonnerre 1672Ga
(4) en la : la 1557B, en 1589Rg, eu la 1649Ca
(5) Bourgoigne 1555 1590Ro 1840 : Bourgongne T.A.Eds. (sauf : bourgongne 1557U 1557B 1568X 1589PV, Bourgougne 1627Di, Bourgogne 1667Wi 1716PR)
(6) Puis : Pnis 1557U, Païs 1612Me
(7) naistra : n'aystra 1606PR 1607PR 1716PR(a c)
(8) treshideuse : tres-hideuse 1588-89 1590Ro 1597Br 1610Po 1627Ma 1644Hu 1649Ca 1650Ri 1650Le 1665Ba 1667Wi 1668, tres hideuse 1605sn 1611B 1612Me 1627Di 1628dR 1649Xa 1653AB 1716PR(b c) 1981EB 1840
(9) beste : bestes 1627Di, neste 1650Le
(10) rongne : rongn[e] 1605sn, rongn 1649Xa, rogne 1672Ga

(注記)1605snのrongne は最後の e は右半分以上が掠れている。これは1605sna, 1605snb, 1605sncに共通するので、きちんと印刷されたものが掠れたのではなく、印刷の時点で削れていたものだろう。1649Xaの異文もそれを裏付ける。

校訂

 ピエール・ブランダムールは4行目との押韻の関係上、2行目のブルゴーニュは Bourgongne と綴られるべきとした。

日本語訳

第六天の明るい輝きから、
ブルゴーニュに非常に激しい雷鳴が下るだろう。
そして非常に醜い獣から怪物が生まれるだろう。
三月、四月、五月、六月に大規模な細分化と切除。

訳について

 4行目の charpinrongneピエール・ブランダムール高田勇伊藤進の読みを踏まえた(高田・伊藤訳では「引き裂きと切り取り」*1)。ただし、ジャン=ポール・クレベールが指摘したように、どちらの語も、疥癬のような皮膚や樹皮の病気の意味に解釈することも可能である。

 大乗訳1行目「六つの明るい天の輝きから」*2は、基数と序数の取り違えによる誤訳。
 同2行目「ブルゴニューを非常に力あるものとするだろう」は、tonner (雷鳴が轟く)が訳に反映されていない。
 同4行目「三月 四月 五月 六月には 大論争とざわめきが起こるだろう」の「大論争とざわめき」はヘンリー・C・ロバーツの英訳のほぼ直訳だが、不適切だろう。

 山根訳はおおむね問題はないが、4行目の後半「はなはだしい懊悩と重い傷」*3に議論の余地があるだろう。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、1行目が意味不明な一方、残りは平易だと述べていた*4

 その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はほとんどいないようである。少なくとも、バルタザール・ギノーD.D.テオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードアンドレ・ラモンロルフ・ボズウェルの著書には載っていない。
 その時期では例外的にマックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)の著書では言及が見られるが、未来の戦争の情景の一つとして、ほとんどそのまま敷衍したような解釈しか載っていない*5

 エリカ・チータムは1行目は太陽系第6惑星の土星のことで、その星の影響下にある時期の出来事の描写とし、何人かの解釈者(some commentators)は1918年春のことと解釈したことを紹介した*6。後の改訂版では多くの解釈者(many commentators)が1918年春としたが、そのような特筆される事件の記録はないとした*7。彼女の著書の日本語版では、1997年の3月から6月に異星人のUFOが大挙して襲撃してくることという原秀人の解釈に差し替えられている*8

 セルジュ・ユタンは、ブルゴーニュでの災厄を描いたものだが、現時点の知識では解明できないとした*9ボードワン・ボンセルジャンの補注では、この場合のブルゴーニュはプロヴァンスを包含していたブルゴーニュ王国のことで、3行目に描かれた怪物はジェヴォーダンの獣のことだろうとした*10

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは近未来に起こると想定していた第三次世界大戦において、ブルゴーニュでの戦闘で大虐殺が行われることと解釈した*11

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールは、当時の天体認識で第六天は木星つまりユピテルなので、前半はユピテルが前兆としての雷を下すこととし、3行目の怪物の誕生とともに、4行目にある災厄を予告するものとした。その災厄について、釈義では「大虐殺」としていた*12

 ピーター・ラメジャラーも似たような読みだが、彼の場合、コンラドゥス・リュコステネスの報告に怪物の誕生と嵐がセットになっている事例が複数あることを指摘した。特に1550年から1551年にドイツであったという事例は、当時のブルゴーニュがドイツ(神聖ローマ帝国)の勢力下にあったことから、それがモデルになったのではないかとも指摘した*13

 ロジェ・プレヴォは、1540年のブルゴーニュ地方では春から夏にかけて大荒れの天気になることが多かったこととし、4行目はそれによって(特産物のワインに使う)ブドウ畑がずだずだにされてしまったことを描いているとした*14

 ジャン=ポール・クレベールは、1542年と1543年にブルゴーニュ地方でひどい嵐があったという記録があることを指摘するとともに、(上の「訳について」の節で紹介したように)4行目の災厄は皮膚や樹皮の病気のこととした*15

その他

 吉岡平のライトノベル『アイドル防衛隊ハミングバード ACT.2』(富士見ファンタジア文庫、1994年)では、ヒロインの五姉妹のうち4人の名前(弥生、卯月、五月、水無月)になぞらえ、彼女たちが遭遇するトラブルがこの詩に予言されていたという形で、メインストーリーに絡められている。


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  • 第6天は木星。3.4.5.6月に雷を『落とす』から衝の位置。乙女、天秤、蠍座、射手座に木星が位置する時、地表が皮膚病のように荒廃、突然変異が現れると訳する。 -- れもん (2015-12-13 11:13:17)

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詩百篇第1巻
最終更新:2018年10月30日 00:08

*1 高田・伊藤 [1999] p.92

*2 大乗 [1975] p.65

*3 山根 [1988] p.69

*4 Garencieres [1672]

*5 Fonbrune [1939] p.267

*6 Cheetham [1973]

*7 Cheetham [1990]

*8 チータム [1988]

*9 Hutin [1978]

*10 Hutin [2002]

*11 Fontbrune [1980/1982]

*12 Brind’Amour [1996]

*13 Lemesurier [2003b/2010]

*14 Prévost [1999] p.148

*15 Clébert [2003]