原文
A L'ennemy l'ennemy
1 foy promise
Ne se tiendra, les captifs retenus:
Prins
preme mort & le reste
2 en
3 chemise
4,
Damné
5 le reste pour estre soustenus
6.
異文
(1) L'ennemy l'ennemy : Lennemy lennemy 1568X 1590Ro, L’ennemy, L’ennemy 1603Mo, Lennemy L’ennemy 1650Mo, l'Ennemy, l'ennemy 1672Ga
(2) le reste : reste 1650Mo
(3) en : on 1716PRb
(4) chemise : chem 1650Mo
(5) Damné : Damne 1568X 1590Ro, Damnê 1650Mo, Donnant 1594JF 1605sn 1628dR 1649Ca 1649Xa 1650Le 1667Wi 1668A 1668P 1672Ga 1840, Dãné 1611B, Danne 1792La 1981EB
(6) soustenus : secourus 1594JF 1605sn 1628dR 1649Ca 1649Xa 1650Le 1667Wi 1668A 1668P 1672Ga 1840, soustenues 1981EB
(注記1)L'ennemy は巻頭のAが飾り文字になった都合上、続くLが大文字になっただけなので、これを小文字にしている版は無視した。ただし、1672Gaはそれとやや異なるので一応とりあげた。
(注記2)1611Bの4行目に見られる Dãné は単なる省略形で、本来ならば異文として区別しないが、1792La や 1981EBの異文につながったと考えられる (Dãné は原則からすれば Damné と Danné の双方の省略の可能性がある。なお、Danner は Damner の古語での綴りの揺れである)。ゆえに、版の系譜を考える上で意味があるため、あえて採録した。なお、1792La は1792年のランドリオ出版社版の異文である。
校訂
日本語訳
敵が敵に交わした誓約は
守られないだろう。捕虜たちは抑留される。
死に瀕する囚人、残りの者は肌着姿に。
残りの者には、留め置かれるための判決が下される。
訳について
1行目から2行目前半の直訳は「敵へと、敵(によって)、約束された誓約は守られないだろう」だが、若干日本語として自然なように意訳した。
読みが分かれるのは3行目
preme で、古フランス語の用法に従って「死に近い」という意味に訳しているのが、
エドガー・レオニ、
ピーター・ラメジャラー、
リチャード・シーバースで、当「大事典」もとりあえずそれに従った。ただ、レオニは「死に瀕する者が囚われる」と、若干ニュアンスが異なっている。
ピエール・ブランダムールは特別手当の意味に理解し、Prins preme mort を 「特別手当の贈り物の結果として囚われる者が死ぬであろう」(celui qui sera pris à la suite de l'offrande d'une prime sera mis à mort)と釈義した。しかし、その部分しか釈義しなかったため、どのような状況を想定しているのか、今ひとつ分かりづらく、ここでは主たる訳文に採用しなかった。
ジャン=ポール・クレベールは、preme を prime (この綴りには 「最初の、第一の」 という意味と、「特別報酬」という意味の異義語が存在する)と同一視した上で、「指導者が囚われて死ぬ」という意味に捉えている。
4行目 Damné は古語では Condamné の意味があったし、Condamné の語頭音消失とも理解できるであろう。いずれにしても、Condamné の意味に理解しているクレベールの読みに従い、それを採用した。
レオニ、ラメジャラー、シーバースはそのまま damned と英訳している。
soustenu は soustenir の過去分詞で、普通 soustenir は「支える」の意味である。ゆえに英語圏の論者はそのまま supported と訳すことがしばしばであり、たとえばラメジャラーは4行目を「残りの者は支えられるかわりに罵られる」(the remainder damned instead of supported)と英訳している。
しかし、soustenir には中期フランス語で「その状態を維持する」(maintenir en l'état) という意味もあった。
当「大事典」ではそちらを採用している。
となる。
この場合の 「残り」 を手持ちの財産、有り金全部の意味に理解すれば、3行目後半から最後は「残りの者は、救われようと(カネも服も手許に)残るものを(すべて官吏に?)与えて、肌着姿になる」といった意味だろうか。
この読みが正しいとすれば、なるほど分かりやすいストーリーと言えるだろうが、前述の通り、この異文を採用すべき理由はない。
既存の訳についてコメントしておく。
大乗訳について。
3行目 「はじめの者はつかまって殺され 残りの者は強奪される」の前半は、
premeを prime と同一視した時には成り立つ。他方で後半はやや強引である。en chemise は「肌着姿で、下着姿で」の意味であり、
ヘンリー・C・ロバーツの英訳で stripped が使われていたせいだろうが、それは仏語原文と照らし合わせれば、勿論「裸にされる」の意味で使われているのだろう。ただ、そこから身ぐるみ剥がれるイメージで「強奪される」を導くのは、ありえなくはないだろう。
4行目 「最後の者が救助されるだろう」は、省略されている語がいくつもあり、訳文として不適切である。
山根訳について。
4行目 「残る者は支持したがゆえに非難さる」は 「支持」 と訳すにしても estre soustenus (支持される)と受動態なので、不適切だろう。なお、3行目の le restant を「他の者」、4行目の le restant を「残る者」と訳し分けるのは、少なくとも前者が強引だろう。
信奉者側の見解
ジャン=エメ・ド・シャヴィニー(1594年)は、1562年のコンデ親王の動向および1568年11月のラ・ロッシェル近郊のプロテスタントの動向と解釈した
テオフィル・ド・ガランシエール(1672年)は、「意味の面で少々複雑ではあるが、これらの単語は平易であり、さして重要な事柄を含むわけでもない。さらなる説明には値しない」とだけコメントしていた。
マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)(1938年)は、近未来の戦争の情景としたようだが、漠然としすぎていて詳細な情景が分からない。それは1975年の改訂版でも同じだったが、前後で扱われている詩篇がガラリと変わっており、シナリオが大幅に書き換えられているようである。
もっとも、息子の
ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは、1980年のベストセラーでも晩年の著書でも扱っていない。
ロルフ・ボズウェル(1943年)は、ナチス・ドイツの下でのフランス兵の戦時捕虜解放が遅々として進まなかったことに関する予言とした。ヴィシー政権に関する初期の解釈でもあろうと思われる。
同時代的な視点
エドガー・レオニは、ヴィシー政権に当てはめられる可能性を認めながらも、詩の曖昧さゆえに、歴史的にほかの多くの事件にも当てはめうるであろうことを指摘した。
まさにその曖昧さゆえであろうが、歴史的に特定性の高いモデルは見つかっていない。
ピーター・ラメジャラーも出典未特定としている。
その他
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コメントらん
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- 日ソ中立条約の破棄と57万人以上にもなるシベリア抑留を預言。 -- とある信奉者 (2014-11-04 00:49:28)
最終更新:2018年11月26日 00:12