詩百篇第10巻13番


原文

Soulz1 la pasture d'animaux2 ruminant3
Par eux conduicts4 au5 ventre herbipolique6
Soldatz7 caichez8 les9 armes10 bruit11 menant12,
Non loing13 temptez14 de cite15 Antipolique16.

異文

(1) Soulz : Souz 1568C 1591BR 1597Br 1603Mo 1606PR 1607PR 1610Po 1611A 1627Ma 1627Di 1650Ri 1716PR, Sous 1644Hu 1650Mo 1653AB 1665Ba 1720To 1772Ri 1840, Soubs 1611B 1668P 1672Ga 1981EB, Soubz 1667Wi
(2) d’animaux : d’aminaux 1610Po
(3) ruminant : ruminants 1605sn 1628dR 1649Xa 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668A 1668P 1712Guy, ruminans 1650Mo 1672Ga
(4) conduicts : conduict 1653AB 1665Ba 1720To 1840 1981EB
(5) au : ou 1668P
(6) herbipolique 1568 1590Ro 1605sn 1628dR 1649Xa 1649Ca 1650Le 1668A 1668P 1772Ri 1840 1981EB : helbipolique 1591BR 1597Br 1603Mo 1606PR 1607PR 1610Po 1611A 1611B 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri 1650Mo 1650Ri 1716PR, helb.bolique 1653AB, herbibolique 1665Ba 1720To, helpibolique 1667Wi, Herbi-polique 1672Ga, hiperbolique 1712Guy
(7) Soldats : Suldats 1605sn
(8) caichez 1568X 1568A 1568B : cachez 1568C & T.A.Eds.
(9) les : let 1653AB 1665Ba
(10) armes : armet 1590Ro, Armes 1712Guy
(11) bruit : bruits 1712Guy
(12) menant : menants 1605sn 1628dR 1649Xa 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668A 1668P 1672Ga 1712Guy
(13) loing : ioing 1597Br 1603Mo 1606PR 1650Mo, loin 1627Ma 1627Di 1644Hu 1653AB 1665Ba 1672Ga 1712Guy 1716PR 1720To 1772Ri 1840
(14) temptez : tantez 1590Ro, temtez 1650Mo, temperez 1665Ba 1720To, tentez 1672Ga, temptaz 1772Ri
(15) cite 1568X 1568A : cité 1568B 1568C & T.A.Eds. (sauf : ciaé 1627Di, Cité 1672Ga 1712Guy)
(16) Antipolique : antipolique 1712Guy

(注記)1607PRは部分的に掠れていてloing か ioing か判読できない

日本語訳

反芻する動物たちの飼料
― それら(の動物)により、ヘルビポリスの腹の中に運び込まれた ―
その下に兵士たちが隠され、武器が音を立てる。
アンティポリスの旧市街から遠くない場所で企てられる。

訳について

 2行目の conduits が何を形容しているのかがはっきりしない。原文の通り(複数形)なら、1行目の animaux ないし3行目の soldats を形容しているものと思われる。1行目の animaux を形容しているとすれば、前半は「彼らによってヘルビポリスの腹に運び込まれた反芻する動物たちの飼料の下に」となる(当「大事典」の訳では、eux は「動物たち」を指していると読んだが、漠然とした「彼ら」を指すとも読める)。
 一部の異文で conduit と単数形になっているのは、1行目の「飼料」を形容していると見なした結果と思われ、ここではその読み方を採用した。その関係上、1行目の sous は3行目に回した。
 2行目 herbipolique は合成語と解釈されている。herbi-は現代フランス語でも使われるラテン語系接頭辞で「草」の意味。polique はギリシア語系接尾辞 -pole 「都市」を形容詞化したものだろう(エドガー・レオニは「売る」を意味する poleo の可能性も挙げていたが、ジャン=ポール・クレベールピーター・ラメジャラーリチャード・シーバースは都市の意味にとっている)。クレベールは、ヘルビポリスがヴュルツブルクのラテン語名であることを指摘する一方、ヘンリポリス(Henripolis, 予兆詩第38番参照)の誤植の可能性も指摘していた*1
 2行目 ventre は「腹、胎内」などの意味。この場合は、ヘルビポリスの市壁内ということだろう。
 3行目 mener un bruit は中期フランス語では faire un bruit と同じ*2
 4行目 Antipolique が、アンチーブのギリシア語名 Antipolis の形容詞形であろう点に異論はない。polis は都市の意味なので、cité と意味が被るが、cité は中世都市において城壁の中に成立した(旧)市街、bourg はその城壁の外側に発達した地区という区分があった*3。「旧市街」と訳したのはそのためである。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 1行目 「反芻動物の牧場で」*4は誤訳だろう。ヘンリー・C・ロバーツがそのまま pasture と英訳していたためだろう。確かに英語の pasture は「牧草地」の中心であり、フランス語の pâture にもその意味があるけれど、この場合は3行目とのつながりで「~の下に隠される」と読むべきなので、「飼料」の方が適切だろう(辞書によっては載っていないこともあるが、英語の pasture にも「牧草」の意味はある)。
 2行目「草原の内部にそれらをみちびき」も誤訳。ヘルビポリスはロバーツの英訳ではそのまま固有名詞的に訳されているので「草原」とした根拠は不明。また、par eux (それらによって、彼らによって)の訳し方も微妙。
 4行目「自由市の近くでこころみられる」も不適切。tentez には「試みられる」とも訳せるので、それは誤りではないが、「自由市」はロバーツの英訳 Free City の直訳だろうが、根拠が不明瞭。おそらく、Antipolique を Anti(反)+ police (統制)=自由、とでも理解したものか。

 山根訳について。
 2行目 「彼らにみちびかれて食糧の場所の中心へ」*5は、ヘルビポリスの直訳は上述の通り「草の都市」なので、「食糧の場所」は少々意訳が過ぎるように思えなくもない。
 4行目「アンティーブの市からほど遠からぬ所で試される」の「試される」が許容されることは、上述の通りである。また、アンティポリスがアンチーブの古称なのは確かなので、現在名に直すことは問題ないだろう。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエール(1672年)は、牛にひかれ、牧草に隠されて町に導かれた兵たちが、武器の音がなって露見してしまった等と、ほぼそのまま敷衍したような解釈しかつけていなかった。ヘルビポリスは牧草の町の意味としつつ、アンティポリスともども具体的にどこのことかは明記しなかった*6

 バルタザール・ギノー(1712年)は、ある都市の謀略に関する予言と解釈したが、都市名の限定などはしなかった*7

 アンリ・トルネ=シャヴィニー(1861年)は、ナポレオン・ボナパルトが手勢とともにエルバ島を脱出後、アンチーブ近郊の海岸に上陸したことと解釈した*8。史実として、ナポレオンの上陸地はカンヌ=アンチーブ間のゴルフジュアン(ジュアン湾、ジョアン湾)である。
 エリゼ・デュ・ヴィニョワ(未作成)(1910年)もこの解釈をおおむね踏襲した*9

 ヘンリー・C・ロバーツ(1947年)は、ガランシエールの解釈とほとんど同じだが、兵たちが羊飼いに偽装すること(日本語版で「犬」とあるのはShepherd の誤訳。牧羊犬の意味はもちろんあるが、文脈上、犬に化けるのは不自然すぎる)、武器の音で見つかった後に敗走すること等、情景描写がやや膨らまされている*10。この解釈は、夫婦の改訂では、フォークランド紛争(1982年)とする解釈に差し替えられた*11

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ(1980年)はヴィニョワと同じようにナポレオンとしたが、エルバ島脱出は4行目のみで、のこり3行は1806年にヴュルツブルク周辺に侵攻したことと解釈した*12ミシェル・デュフレーヌ(1999年)は、4行目まで含めてナポレオンのドイツ、オーストリア方面への侵攻と解釈した*13

 エリカ・チータム(1973年)は1文字も解釈を書いておらず、決定版(1989年)でも同様だった*14。その日本語版(1988年)でも、非常に漠然とした解説しかつけていなかった。

同時代的な視点

 ロジェ・プレヴォは、マルセイユ周辺の先住民であったケルト系のセゴブリゲス(Segobriges, セゴブリージュ)の伝説をモデルとみた。その伝説に拠れば、セゴブリゲスがフォカエア人の植民都市マッシリア(マルセイユ)を攻撃するため、マッシリアの花祭りの日に賓客名目で訪れ、兵士と武器の上から草をかぶせて偽装した荷車を牛にひかせて入場しようとしたのだという*15
 プレヴォは「ヘルビポリス」について何も説明していないが、花祭りでにぎわっていたマルセイユの隠喩と見なしたのだろう。
 アンチーブはマルセイユに隣接するとは言えないが、いずれもフランス南西部沿岸の都市という点で、フランス国内では「遠くない」都市と見なすのは、そうおかしな話ではないだろう。

 ピーター・ラメジャラーはこの説を支持した*16

 ジャン=ポール・クレベールリチャード・シーバースは語釈をしているものの、歴史的なモチーフの指摘などはしていない。



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