コイン利殖入門

 『コイン利殖入門』は五島勉が倉田英乃介(くらたひでのすけ)名義で出版した著書。1973年に青春出版社から刊行された。

【画像】1973年4月に刊行された『コイン利殖入門』と、同11月に刊行された『ノストラダムスの大予言』初版

内容

 上の画像からも分かるように、土地や株よりも、もっとも利殖に向いている物財としてコインを取り上げており、5年後にどのくらいの価値になるかという予測が載っている。

売れ行き

 正確な発行部数は不明だが、当「大事典」で所蔵している2つの版を基にすると、増刷ペースは以下のようになる。
  • 1973年4月1日 第1刷
  • 1973年4月15日 第38刷
  • 1973年5月1日 第58刷

 ちなみに帯には「この指示通りに行なって損をした場合、代金はすべてお返しします!」とあるが、それを4月1日(エイプリルフール)に出版した扱いにするというのは、狙ったものなのだろうか。
 なお、他の本がそうであるように、実際の発売日は今となっては追跡困難である。『読売新聞』1973年3月18日朝刊3面に広告が載っているので、そのころの発売だろうか。

 『読売新聞』1973年4月23日朝刊では「財産づくり入門」と題して3冊紹介された本のうちの1冊がこの本で、「あなたもポケットのバラ銭を調べ直したくなることだろう」等と紹介されている。

ノストラダムス関連

 著書の中にはノストラダムスどころかオカルト的な要素への言及自体がない。
 ただ、五島勉の『ノストラダムスの大予言』の初期の版には、カバーの略歴欄でこういう言及があった。

  • 著書は余技に書いた『コイン利殖入門』など多数。

 この部分は後の版では「ドキュメンタリー関係などの著書多数。」に変更された。山本弘の『トンデモノストラダムス本の世界』では、この変更について「やはり人類滅亡を語る人物に『コイン利殖』は似合わない?*1と揶揄されていた。
 ちなみにこの本は、『大予言』に一番近い時期の著書ではない。一番近いのは、1973年6月20日(奥付による)に刊行された『東京ローズの戦慄』である(五島勉の著書一覧参照)。それでなぜ「余技」の方を優先し、しかもあとで差し替える羽目になったのか、さっぱり分からない。

 さて、この本については別名義だったせいもあり、長い間実態不明だったのも事実である。『月刊オーパス』1994年10月号に載った「保存版 こんなに出ている五島勉著作リスト」ではリストから漏れていたし、志水一夫が『トンデモノストラダムス解剖学』巻末に掲載した「五島勉氏 著作総目録稿」でも、『コイン利殖入門』については「詳細不明」とされていた*2。許光俊が『ノストラダムスの大予言』以前の単行本をリストアップした際にも、この本については「不明」と書かれていた*3

 今では国立国会図書館の目録でも、「倉田英乃介」は五島の別名義としてヒットする*4

 この本で五島は倉田英乃介と名乗り、写真では珍しく眼鏡をかけている。
【画像】 『コイン利殖入門』カバー裏見返しの著者紹介欄

 『大予言』関連にしばしば見られる厳しい表情の近影と違い、表情が柔らかいため、メガネの印象と相まって別人のように見えなくもない。ただ、口の端を少し吊り上げるような笑い方などは特徴的である。
 生年や学歴などは、「五島勉」の経歴として発表されているものと一致している。『日本の貨幣と法制』という大学時代の卒業論文名も載っているが、狙い過ぎていて、どこまで本当かは分からない。のちの五島は「勉強もロクにせず、中世フランスの怪奇本なんかばかり読みふけっていた*5、「大学でやってたのはフランス語だけ*6などと、大学の研究テーマについては法学部に属していた以上のことを語らず、フランス語との結びつきを強調するようになるので、卒業論文のタイトルにしても、単にコイン利殖と少しでも結びつくようにという、ある種の演出の可能性が捨てきれないのである。

 後書きによると、「ある週刊誌にコイン利殖の手引きを連載しはじめた。一年後、それをいったん打ち切り、とっときの材料を加え、まったく新しい構想で書きおろしたのがこの本である。*7とあるので、倉田名義の活動歴もそれなりにあったのかもしれない(掲載雑誌名を特定できていないので、発表名義も倉田だったのかは不明)。
 なお、この本の発行後ということであれば、コイン利殖ブームを報じた『週刊サンケイ』の記事に、倉田名義でのコメントを寄せている。

 五島のインタビューも交えた『週刊大衆』1974年8月22日号の記事では、「別名で経済評論をこなし、またコイン利殖を説いたりもしていた」と紹介されているので、倉田英之介もしくはそれ以外の名義による経済評論もあったのかもしれないが、今となっては(特に木村敏夫の例のように、五島でも倉田でもない名義を使っていた場合、本人の証言でも出てこない限り)特定は困難であろうと思われる。

 繰り返しになるが、この本にはノストラダムスへの言及はない。仮に『ノストラダムスの大予言』の略歴に掲載されていなかったら、存在そのものが忘れられていたことだろう。実際、翌年には別人による『コイン利殖入門 : グラフで見る<値上がり率が一目で分かる> 』(渡部敦、日本文芸社)が出ており、国会図書館には所蔵されているが、古本として出回っているのもほぼ見かけないし、ネット上でも特に話題になっている形跡はない。
 コイン相場などは、情報があまり古くなってしまえば価値はないので、倉田名義の『コイン利殖入門』も同じようになっていたとしても、なにも不思議はないのである。

 しかし、この本で「悪性インフレやデノミや円切り上げにおびやかされている現在、人々のひとつの生活防衛として、コイン利殖には大きな意味があると確信するものだ*8などと、核でも地球環境でもなく、庶民の財布のささやかな防衛を説いていた五島がわずか半年後、第一次石油危機を挟んで1999年の人類滅亡を説くようになるギャップを思い起こすとき、『大予言』を取り巻く時代状況の補足資料として、当「大事典」でも触れておく意味はあると思われる。


コメントらん
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  • はじめまして。 -- 都河 (2019-06-14 20:30:31)
  • 恐らくですが私が比較的早い時期に倉田名義に気付いた一人だと思います。故・志水一夫氏に2000年10月に送ったメールです。「 以前から謎だった『コイン利殖入門』について詳細がわかりましたのでお知らせします。国会図書館の蔵書目録(冊子)を『コイン利殖入門』で検索すると2冊出てきましたが『大予言』初巻発行の73年以前のものは倉田英乃介なる人物によるものでした。今度は倉田英乃介で検索すると一緒に『大予言』初巻も出てきました。倉田英乃介というのは五島勉の別の筆名だったようです」 -- 都河 (2019-06-14 20:44:33)
  • この後、志水氏は著作で五島氏に言及することは無かった(はず) ですが、Wikipediaの五島氏の項に倉田英乃介 名義を追加されました。 -- 都河 (2019-06-14 20:49:41)
  • 後に私も『コイン利殖入門』を入手し、著者近影を見て同一人物と確認した時は何とも言えないやるせない感覚でしたね。 -- 都河 (2019-06-14 20:57:45)
  • ちなみに倉田名義で雑誌記事を書いています。落札し損ねたのですがヤフオクに切り抜きが複数出品されていたからです。出品者は五島氏が書いたものだとは気づいていないようでした。 -- 都河 (2019-06-14 21:04:42)
    • はじめまして。記憶違いでしたら失礼ですが「私設五島勉観察会」を運営していらっしゃった方でしょうか。もしそうでしたら、私自身、そのサイトを見て初めて知った口ですので、「比較的早い時期に倉田名義に気付いた一人」というコメントに異論はありません。ただ、サイトの方が消えているようでしたので、うろ覚えで書くわけにもいかず、すみませんが上では何も書いていない形になっています。ところで、ブログの方に書いたように、いま五島氏の記事をいくつか準備中ですので、「雑誌記事」について興味があります。差し支えなければ、ご教示いただけないでしょうか。 -- sumaru (2019-06-14 23:29:01)
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