百詩篇第2巻1番

原文

VERS 1 Aquitaine 2 par insults 3 Britanniques,
Et 4 par eux mesmes 5 grandes incursions.
Pluies, gelées 6 feront 7 terroirs 8 iniques,
Port Selyn 9 fortes fera inuasions 10 .

異文

(1) VERS : VEers 1627
(2) Aquitaine : Aquitanie 1600 1610 1716
(3) insults 1555 1557U 1557B 1568A 1568B 1568C 1589PV 1840 : insulte 1588Rf 1589Rg, insultes 1589Me, insolus 1590Ro, insuls T.A.Eds.
(4) Et 1555V 1589PV 1649Ca 1650Le 1668 : De T.A.Eds.
(5) eux mesmes : eux-mesmes 1597 1600 1610 1653 1716
(6) gelées : Gelees 1672
(7) feront : seront 1605 1628
(8) terroirs : terroines 1557B, terrois 1568A 1649Xa 1650Le 1665 1668, terroir 1589PV
(9) Selyn : selin 1627
(10) inuasions : inuensions 1627

(注記)1611Aは比較していない。

校訂

 2行目冒頭は、初版の2つの伝本に意味の食い違う異文が含まれている珍しいケース。1555V の方が後に出され、誤植などの訂正箇所も多いとされており、この場合も De よりも Et の方が適切であるとされている。ただし、異文欄を見れば明らかな様に、この訂正された異文を受け継いだ版は極めて限定的だった。

日本語訳

アキテーヌの方では、ブリタニアの攻撃のせいで、
そして彼ら自身のせいで、大々的な侵入が(あるだろう)。
雨と霜は不正な耕地を生み出すだろう。
スランの港は苛烈な侵攻を生じさせるだろう。

訳について

 1行目の「ブリタニアの攻撃」と2行目の「彼ら(アキテーヌの人々)自身」は並列的。つまり、大々的な侵入は、外的要因だけでなく攻められる側にも原因があるということ *1 。この点で、大乗訳「アキテーヌへのイギリスの / 襲撃と大侵入があるだろう」 *2 、山根訳「アキテーヌに向かうイギリスの攻撃 / そしてまた彼らの侵略」 *3 はいずれも不適当である。
 上記の訳の3行目「不正な耕地を生み出すだろう」は直訳。「不正な耕地」とは要するに「公正に作物を生まない耕地」=「不毛の土地」のこと *4 。この点で、「地上の安全をそこなう」(山根訳)、「地をゆるがし」(大乗訳)といった訳は不適当。

信奉者側の見解

 エリカ・チータムは、第一次世界大戦期における英仏軍のダーダネルス海峡での行動と結び付けている *5

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは、近未来に起こると想定していたイスラム勢力による英仏への侵攻と解釈していた *6加治木義博も似たようなもので、1990年代前半に起こると想定していた欧州大戦の中で、リビア軍などが英仏に侵攻する予言と解釈していた *7

同時代的な視点

 1548年にボルドーを中心とするアキテーヌ地方で起きた反塩税一揆がモデルになっているという点で、ピエール・ブランダムールピーター・ラメジャラーの読み方は一致している。当時の反乱では、イングランドがアキテーヌの援軍に来ることが恐れられたからであり、またノストラダムスがこの詩を書いたのは、その反乱から5年ほどしか経っていない時期だった。ジャン=ポール・クレベールはより一般的にイングランドがアキテーヌを脅かすことの予言だろうとしているが、中世にはアキテーヌがイングランド領だったこともあるだけに、これはこれで的外れともいえない。

 「スランの港」は百詩篇第1巻94番百詩篇第4巻23番にも登場している。同じ港を指しているか定かではないが、クレベールが指摘する様に、少なくともこの詩では「月の港」ボルドーを指していると見てよいのではないだろうか。ラメジャラーは Selyn を salin(塩の)と読むことで「海港」(salt-sea port)と訳している。


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