Les Oracles de Michel de Nostredame, 1867

 『ミシェル・ド・ノートルダムの神託集』(Les Oracles de Michel de Nostredame)は、1867年にパリで出版されたアナトール・ル・ペルチエの著作。
 3部構成の内容が、2分冊の中に収められている。

正式名

  • Les Oracles de Michel de Nostredame, Astrologue, Médecin et Conseiller ordinaire des Rois Henri II, François II et Charles IX.
    • Édition ne varietur, comprenant : 1o Le Texte-type de Pierre Rigaud (Lyon, 1558-1566), d'après l'édition-princeps conservée à la Bibliothèque de Paris, Avec les Variantes de Benoist Rigaud (Lyon, 1568) et les Suppléments de la réédition de M.DCV ; 2o Un Glossaire de la langue de Nostredame, avec Clef des Noms énigmatiques ; 3o Une Scholie historique des principaux Quatrains.
    • Par Anatole Le Pelletier, Auteur du Cycle Universel (honoré, en 1854, d'un Bref de S. S. le S. P. Pie IX), du Dieu inconnu, de l'Astronomie Biblique, etc.
    • Tome Premier
    • Paris. Le Pelletier, Imprimeur Lithographie, rue d'Aboukir, 40.
    • 1867
  • アンリ2世、フランソワ2世、シャルル9世に仕えた王附占星術師・侍医・顧問ミシェル・ド・ノートルダムの神託集
    • 以下の内容を含む決定版。(1)パリの図書館に所蔵されている原本に従ったピエール・リゴー版(リヨン、1558-1566年)の原文。これにブノワ・リゴー版(リヨン、1568年)の異文と1605年版の補遺を加えた。(2)ノートルダムの用語集と、謎の名称を解くカギ。(3)主要な四行詩の歴史的講釈。
    • 1854年にローマ教皇ピウス9世聖下から親書を賜った『世界の周期』のほか、『未知なる神』『聖書の天文学』などの著者であるアナトール・ル・ペルチエによる。
    • (第1巻 / 第2巻)
    • パリ、アブキル通り40番地のリトグラフ印刷業者ル・ペルチエ
    • 1867年

内容

 第1部が解釈編、第2部が原文編、第3部が用語編となっており(上に掲げた表題では順番が異なっている)、第1部が第1巻に、第2部と第3部が第2巻に収められている。

 第1巻では、第1部に先だって、まず現代フランス語訳したジャン=エメ・ド・シャヴィニーの伝記と、簡潔な予言集の書誌が収められている。
 続いて第1部として解釈が展開され、ル・ペルチエが分類した27の歴史的テーマごとにまとめられている。
 テーマのうち、25までが歴史的テーマであり、未来解釈にあてられているのは最後の2つのテーマのみである。

 第2部は原文編で、ピエール・リゴー版の予言集を底本にして、ブノワ・リゴー版の予言集に登場する異文を併記している。
 六行詩集予兆詩集などは1605年版を使ったことが明記され、詩百篇集の補遺編には1605年版だけでなく1650年ピエール・レファン版も使われている。

 第3部は用語集で、予言集に登場する難解な語句の用語辞典になっている。
 なお、表題にある「謎の名称のカギ」というのは、ル・ペルチエが解釈した隠喩をまとめたものである。例えば、彼の解釈では、「大いなる都市」「バビロン」「48度」「メソポタミア」はいずれもパリの隠喩である。

コメント

 信奉者によってまとめられた作品の中では、最も重要なもののひとつと位置付けうる。

 まず、シャヴィニーの伝記の訳は分かり易く、勝手に追加的なエピソードが差し挟まれることもなく、正確さを心掛けていることが窺える。
 ただし、締めくくりの部分が、現存しているオリジナルの伝記とは異なっている。

 書誌については、ウジェーヌ・バレストアンリ・トルネ=シャヴィニーを踏襲したものらしい。
 もちろん、現代の書誌研究の水準に照らせば、不十分さや不正確さは多く目につくが、当時としては十分誠実にまとめられたものといえるだろう。

 解釈編は、信奉者にとっての古典的解釈の土台を整備したものの一つとして、19世紀のノストラダムス現象の証言としては貴重だろう。
 ただ残念ながら、彼による各詩の解釈は引き継がれたが、全体として中世の予言的伝統を踏まえたものであるとする彼の予言観はあまり考慮されてきたとは言い難い。

 この観点では、現代の実証的論者とル・ペルチエの見解がある程度似通っているともいえるが、それをノストラダムスの世界観として現実的な未来予測と切り離すか、それとも実現可能性を持つ未来の光景とするかという点で、両者は大きく隔たっている。

 第2部の原文編は、十分堅実にまとめられているといってよいだろう。
 ただし、(時代的制約を考慮すればやむを得ないものだが)出版業者や書誌に関する調査が著しく不十分である。

 彼が1558年から1566年と位置付けたピエール・リゴー版は、実際には1600年頃から1610年頃の出版である。
 また、ブノワ・リゴー版は本物ではなく、1772年頃に作成された偽年代版の方であったことも明らかになっている。
 これらはル・ペルチエ自身がフランス帝国図書館(未作成)の書誌番号を記録していたことによって特定できている。
 実際、当「大事典」で校異(原文比較)している範囲内では、ピエール・リゴー版のうち、フランス国立図書館に所蔵されている "Chez" Pierre Rigaud の版と強い一致を示しており、ル・ペルチエの証言を疑うべき理由はない。

 「ピエール・リゴー」版には、1650年ごろの異本と、1716年ごろのニセ版もあるが、これらの「ピエール・リゴー」版がル・ペルチエのテクスト編纂の際に直接的に参照されていた形跡は、(少なくとも校異の範囲では)見出すことができない。

 ル・ペルチエのこの本の5年前に、アンリ・トルネ=シャヴィニーが1716年ごろのニセ版を(それらは前置詞に Par を使っていたにもかかわらず)「Chezピエール・リゴー1566年版」として復刻したことはあったので、それが(ピエール・リゴー版の第二部を1566年とした)ル・ペルチエの年代推定に影響していた可能性くらいは想定できるのかもしれないが、影響していたとしてもその程度だろう。

 こうした事情により、(ル・ペルチエの時代には最良のテクストといえたかもしれないが)現代ではそのまま受け入れるには問題があると言わざるをえない。

 第3部の用語集はかなり充実したものであり、20世紀のシャルル・レノー=プランスマリニー・ローズミシェル・デュフレーヌらの用語集や用語辞典でも参照されている。
 ただし、ル・ペルチエが使用した底本に基づく用語集なので、『予言集』初版に登場する単語などに対するフォローは不十分である。
 また、現在ではル・ペルチエの語源的説明の誤りなども少なからず指摘されている。

 「謎の名称のカギ」は、解釈編と同じく、ある時代の信奉者の解釈例としては一定の価値があるといえるのかもしれないが、実証的には見るべきものがない。

書誌

 初版は上で見たように、1867年パリでの著者自身による出版である。
 1969年にはスラトキヌ出版(Slatkine)によって影印本が出版された。1995年には同じスラトキヌからより廉価な影印本が出された(2巻本。各50フランで、当時は1フラン=約20円だった)。

 2001年には Elibron から、2010年には Nabu Press からいずれも2巻本の影印版が出版された。


【画像】Nabu Press版の1冊


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最終更新:2020年03月29日 11:26