Selin は現代フランス語式に読めば「スラン」。綴り字記号を補えば「セラン」(sélin)で、フランス語の一般名詞としては「はまぜり(浜芹)」の意味。
しかし、ノストラダムスの用語としては、月の女神セレネ(Sélènê)の派生語、つまりはギリシャ語に由来する「月」の関連語とされることが多い。名詞的に捉える場合(
エドガー・レオニなど)と形容詞的に捉える場合(
ベルナール・シュヴィニャール)があり、後者の場合、女性形
Selineに対応する男性形とされる。
フランス王
アンリ2世はディアーヌ・ド・ポワチエを溺愛し、彼女の名前ディアーヌ(月の女神)に因んだものか、自分の紋章にも三日月の意匠を取りいれていた。このことから、エドガー・レオニ、
ピエール・ブランダムール、
ロジェ・プレヴォらは、特に「偉大なスラン」(le grand Selin)や「シラン・スラン」(
Chyren Selin)の文脈では、アンリ2世を指す用語と理解している。
他方で、プレヴォは当時「三日月」はイスラームの象徴としても用いられていたことを踏まえ、文脈によってはイスラーム勢力を指しているとしている。
ピーター・ラメジャラーも、一部の詩でアンリ2世を指しているとしている一方で、多くの場合、イスラーム勢力を指すものとして解釈している。なかには、
ジャン=ポール・クレベールのように、ほとんどの登場箇所でイスラーム勢力と関連付けている者もいる。こうした見解の場合、
マリニー・ローズのように、オスマントルコの君主セリム(Selim ; 1世・在位1512年-1520年)と結び付ける者もいる。
このほか、
百詩篇第6巻58番(未作成)の「太陽の光がスランによって失われる」のように、単なる天体の「月」の意味に用いられているらしい場合もある。実際、この詩句については、ブランダムール、プレヴォ、ラメジャラー、クレベールらが日蝕と解釈している 。ただし、レオニや
リチャード・スモーレー(未作成)は、これも月の紋章、アンリ2世を指すと理解している。
関連して、港との複合語 Port Selin(スランの港)として登場していることが3度ある。そちらは、ボルドー、ラ・ロッシェル、ジェノヴァ、コンスタンティノープルなどと理解されるが、詳しくは「
スランの港」の記事を参照のこと。
なお、ブランダムールは暦書に何度も登場する
Solin(未作成)も、この Selin と同じものとして、アンリ2世と理解していた。ただし、これについてシュヴィニャールはむしろ「太陽」に近い意味ではないかとしている。
登場箇所
参考のため、Seline も含めた。用例を紹介しているが、原文は1568Bで統一している。また、校訂された結果 selin と見なされているものも含む。
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最終更新:2009年09月20日 12:12