予兆詩第14番

予兆詩第14番(旧15番) 1557年1月について

原文

L'indigne orné craindra la grand1 fornaise.
L'esleu2 premier, les captifs3 n'en retourne,
Grand bas4 du monde, l'Itale5 non à l'aise6.
Bar. 7 Hister8, Malte, & le buy9 ne retourne.*1

異文

(1) grand : grand’ 1649Ca
(2) L'esleu : L'Esleu 1594JF
(3) les captifs 1557Ke : des captifs T.A.Eds.
(4) Grand bas : Bas Grand 1594JF(p.264)
(5) l'Itale : Itale 1594JF(p.264), L'Irale 1605 1628 1649Xa 1649Ca, L'Itale 1650Le 1668
(6) à l'aise 1594JF : à laise 1557Ke, alaise T.A.Eds.
(7) Bar. 1557Ke : Barb. T.A.Eds.
(8) Hister : hister 1557Ke, Ister T.A.Eds.
(9) Malte, & le buy : à malte, & le buy 1557Ke, Malte. & le Buy 1594JF, Malte. Et le Buy T.A.Eds.

(注記)1557Ke は『1557年向けの暦』に見られる異文。1594JF は2箇所に登場しているが(p.144, p.264)、うち片方だけに含まれる異文はページ数を示した。

日本語訳

飾られた小物は大きな坩堝〔るつぼ〕を恐れるだろう。
第一位に選ばれし者。捕虜たちは戻らない。
世界の偉大なる低きもの。イタリアは気楽でない。
バル、ヒステル、マルタ島。空疎な者は戻らない。

信奉者側の解釈

 以下の解釈では、4行目冒頭 Bar. を Barb. とした上でのものである。
 ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは、4行目の「バルブ、ヒステル、マルタ島」の部分のみ、1565年5月にオスマン帝国(バルバロイ)によってマルタ島が攻略されたことの予言とし、残りは1589年にアンリ3世が殺されたことの予言と解釈した。
 それによれば、1行目の「大きな坩堝」はパリの事を指し、アンリ3世が怒号渦巻くパリに恐れを抱くことが描かれているという。
 2行目の「第一位に選ばれし者」は、国王代理官に就任したマイエンヌ公のことで、3行目の「世界の偉大なる低きもの」とは、カトリックに見捨てられたアンリ3世を指すという。
 3行目後半はローマ教皇庁がアンリ3世暗殺に衝撃を受けたさまを表し、4行目の「空虚な者」(le Buy)は一般名詞でなく、ある隊長の名(Nom de certain Capitaine)だという*2

 ジョン・ホーグは4行目のヒステルをアドルフ・ヒトラー、バルブをバルバロッサ作戦(1941年)などと関連付け、第二次世界大戦に関する予言と解釈した*3

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは、将来のイスラム勢力の侵攻についての予言とした*4

同時代的な視点

 固有名詞の部分だけを隔離してアンリ3世の死と結び付けるシャヴィニーの解釈はかなり強引なものといえるだろう。

 従来、Barb. と読まれてきた語は本来 Bar. だったことが明らかになっており、果たして従来のようにバルバロイと理解することが妥当なのかにも疑問がある。実際、Bar- で始まる地名など、フランスだけでも無数にある(DNLF には Bar からBarzy まで200以上載っている)。他の固有名詞なども視野に入れれば、特定は難しいだろう。


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最終更新:2009年09月21日 18:37

*1 原文はChevignard [1999] p.120 による。

*2 Chavigny [1594] pp.144,264

*3 Hogue [1997/1999]

*4 Fontbrune [1980/1982]