予兆詩第20番

予兆詩第20番(旧18番) 1557年7月について

原文

L'heraut1 errant du chien au lion2 tourné3,
Feu ville ardra, pille, prise nouvelle,
Decouvrir fustes, prince4 pris retourné5.
Explor.6 pris, Gall.7, au grand8 jointe pucelle.*1

異文

(1) L'heraut : L'Herault 1557Ke 1649Xa
(2) lion 1557Ke 1594JF : Lion T.A.Eds.
(3) tourné 1557Ke : tourne T.A.Eds.
(4) prince conj(BC) : princes 1557Ke, Princes T.A.Eds.
(5) retourné conj.(BC) : ou retourné 1557Ke, on retourne T.A.Eds.
(6) Explor. : Explor, 1605 1649Xa
(7) Gall. : galli. 1557Ke
(8) au grand : au Grand 1594JF

(注記)1557Ke は『1557年向けの暦』に見られる異文。

校訂

 3行目で ou が余計である可能性は、ピエール・ブランダムールも指摘していた。これは後半律(1行10音節の詩の後半6音節)が1音節余計なためである*2。他方、同じ行の princes については、ブランダムールは特に直していないが、ベルナール・シュヴィニャールは retourné の語尾(単数)との整合性から、prince とされるべきとしている。
 4行目の galli. が Gall. に直されたのは、前半律(1行10音節の詩の前半4音節)が1音節多いことが原因である。

日本語訳

さまよう伝令官は、犬から獅子へと向きが変わる。
火は都市を燃やすだろう。略奪、新しい占領。
軽量船が発見し、囚われの王子が戻される。
斥候はガリア人に捕われる。乙女は大いなる者と結ばれる。

訳について

 4行目前半は省略が目立つことから、いくつかの読み方がありうる。ここではシュヴィニャールの読み下しを参考にしたが、ブランダムールは「捕らわれたガリアの斥候たち」と読んでいる。

信奉者側の見解

 ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは、1557年6月7日にメアリー・チューダーの使いによって、フランスに宣戦布告がなされ、そのあと8月10日のサン=カンタンの戦いで大敗を喫し、捕虜も多く出たことの予言とした*3

同時代的な視点

 ブランダムールによれば、1行目は星位を表しているという。
 「伝令官」とは、神々の伝令役であるメルクリウス(=水星)を指し、それがさまようというのは「逆行」を意味するという。「獅子」は当然「獅子宮」のことで、「犬」は大犬座を指すという。さらに、大犬座は神話上エリゴネ(Erigone)の飼い犬とされることがあり、その場合、エリゴネは乙女座に同定されることから処女宮を指すという。
 いささかこじつけがましいようだが、この詩の対象となっている1557年7月下旬には、実際に水星が処女宮から獅子宮に逆行した。そのことは、当時シムスの暦でも予告されており、ノストラダムスもそれによって知っていたらしい。
 ブランダムールは『1557年向けの暦』の中に、この詩の情景と関連がありそうな描写があることも紹介している*4

 つまりこの詩は、1557年7月に起こると算定した逆行が、どのような事件に結びつきうるのかを予測した詩ということになるのだろう。


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最終更新:2009年10月06日 11:19

*1 原文はChevignard [1999] p.123による。

*2 Brind'Amour [1993] p.248

*3 Chavigny [1594] p.50

*4 Brind'Amour [1993] p.248