2012年

 ノストラダムスの作品には、西暦2012年に起こる出来事を明示した予言はない

 しかし、特に21世紀に入り、マヤ暦などを根拠として2012年の人類滅亡を言い立てる言説や、それに触発されたフィクションなどが多く見られるようになってきた。


【画像】Spencer Carter, I maya, Nostradamus e il 2012 (イタリア語)

 そういう状況の中で、ノストラダムスもその潮流に巻き込もうとする主張が見られるようになった。ノストラダムスと2012年を関連付けるものには以下のものがある。

アーサー・クロケットの新発見予言

 アーサー・クロケットが「ノストラダムスの家の地下室から発見された詩」として紹介している予言の中に、2012年を明示したとされるものがある。

Twenty plus two times six will see the lore of the heavens
Visit the planet in great elation. Disease, pestilence,
Famine die. Rome rejoices for souls saved. The learned
Smile in awe. Astrology confirmed. For science, a new beginning.*1

二十足す二かける六は見るだろう。天空の知識が
意気揚々と惑星を訪れるのを。病気、ペスト、
飢餓が絶える。ローマは救済された魂のために喜ぶ。学識者は
畏敬して微笑む。占星術が承認される。科学にとっての新しい起点。

 この詩は1983年に登場していたもので、2012年が取りざたされるようになる前から存在していた。

 しかしながら、クロケットの新発見予言は単なる偽物に過ぎない。なにしろ、クロケットは地下室の改修工事中に壁の中から見つかったと主張するが、その地下室は1909年の地震で塞がったままなのである。

 クロケットの本が出た当時には、その発見にまつわるエピソードをサロン=ド=プロヴァンスの地元メディアが一蹴していたくらいなので*2、この詩をもってノストラダムスが2012年を予言していたと主張することは全くできないだろう。

 余談だが、上の訳文は『世界ミステリー事件ファイル すべては捏造だった!』(宝島社、2011年/2012年)に掲載されている訳文とまったく同じである。
 しかし、それはその本が当「大事典」から出典を明記せずに転載したものであり、当「大事典」が何らかの著作権侵害をしたものではない。誤解のないようにその点明記しておく。

詩百篇第10巻72番

 「1999年」と「恐怖の大王」という余りにも有名なモチーフが登場する詩百篇第10巻72番を2012年と結び付けようとする者もいる。

 それによれば、ノストラダムスが年代計算に用いていたカバラ秘数の13を1999年に足して2012年と訳すのが正しいにもかかわらず、解釈者をそれを怠ってきたために真意が伝わってこなかったというのである*3

 しかし、年数に13を足すなどという方法論は実証的な論者たちの研究では全く支持されていない。そもそもこの詩を人類滅亡と解釈すること自体が19世紀以降の一部の論者によってなされているに過ぎない。

 それにもかかわらず、それを所与とし、年数を2012年にずらしただけで「ノストラダムスが予言した本当の終末は2012年」*4などという結論を導き出すのはあまりにもずさんな論法といえる。

 このような主張は、ノストラダムスについて詳しく知らないライターが、通俗的な1999年人類滅亡説の焼き直しとして、2012年から逆算してひねり出したものとでも受け取っておくのが妥当だろう。

ノストラダムスの予言絵画

 オッタービオ・チェーザレ・ラモッティが紹介したことで広く知られるようになったノストラダムスの予言絵画に、2012年の星位を予言したものがあり、他の絵画と重ね合わせることで世界の終末が予言されていると解釈できるとする説がある*5

 しかし、実証的にはそもそも予言絵画がノストラダムスに由来すること自体が全く証明されていない。
 16世紀から17世紀にかけては、ノストラダムスに由来すると称する偽予言が多く作成されており、これもそのひとつである可能性は当然疑われなければならない。

 実際、息子セザール・ド・ノートルダムが枢機卿に献上したというが、セザールの著作や私信の中でこうした作品に言及したらしい記述は見つかっていない。それは、ノストラダムスの暦書の予言を多く収集し救済した秘書のジャン=エメ・ド・シャヴィニーについても同様である。

 また、予言絵画の少なからぬ部分は、中世に流行した『全ての教皇に関する預言』などの焼き直しに過ぎない。

 ノストラダムス本人に由来すると見なすに程遠い状態で、その絵の細部を拡大解釈して2012年に結び付けようとするのは、牽強付会の謗りを免れないのではないだろうか。
 並木伸一郎著『人類への警告!!― 最期の審判は2012年からはじまる』(竹書房、2010年)のように、2012年が近づいても本物扱いしている著書も見られるが、妥当性は疑問である。


【画像】『人類への警告!!― 最期の審判は2012年からはじまる』



【画像】Nostradamus: 2012 [Blu-ray] [Import]


【画像】Spencer Carter, Nostradamus Maya 2012 : Mas alla de la profecia Maya del apocalipsis


【画像】 John Michael Greer, Apocalypse Not: Everything You Know About 2012, Nostradamus and the Rapture Is Wrong


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コメントらん
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  • 1999年7の月にKenedy家のjuniorが死んで可哀想でした。lこれ以上VIPが死ぬとますますいろいろな出来事があるかもしれません。2012年には、天変地異(1995年)が起きても、エドワード・ケネディの喪がきつい(夢枕にケネディ三兄弟が出て、悩んでいます。)ので、世の中が平和に続くよう祈っております。 -- 小川 久美子 (2010-07-27 17:38:09)
  • フランス人は文章を2つ用意(○番と○番)すれば良いと思っている、当然2個目が正しいと思っている(助けるか助けないかについて、もちろんフランス人ならフランス語で書く、これが本来の救済のあり方だろう)。 -- 名無しさん (2014-04-27 18:17:32)
最終更新:2014年04月27日 18:17

*1 A.Crockett, Nostradamus' Unpublished Prophecies, Inner Light, 2001, p.53

*2 Benazra [1990]

*3 『本当にあった!超怪奇 X事件ファイル108 vol.2』笠倉出版社、2009年

*4 前掲『本当にあった!~』p.41

*5 『週刊世界百不思議』No.16, 講談社、2009年