Anglique

 Anglique は、意味の推定に2つの説がある単語。

意味

イングランド説

 まずは、Angles(アングル人;アングロ・サクソンの部族の一つ)の派生語として、イングランドあるいはイギリスと結び付ける説である。
 イングランドは「アングル人の土地」の意味であり、フランス語名Angleterreも同じ意味である。

 この読み方はD.D.(1715年)が最初だったようだが、チャールズ・ウォードジェイムズ・レイヴァーらの信奉者に引き継がれた。
 現代の実証的な論者でも、ピーター・ラメジャラーがこの読み方を支持している*1


【画像】桜井俊彰『イングランド王国前史―アングロサクソン七王国物語』

 この読み方の派生として、エドガー・レオニジャン=ポール・クレベールによる、Anglican(イングランド国教会の)と捉える読み方がある*2
 Anglican と捉えるのはミシェル・デュフレーヌも同じだが、彼の場合、それを「イギリス国籍を持つ」の意味に理解している*3

天使説

 イングランド説などと明らかに異なるのが、「天使の」という意味に解する場合である。
 マリニー・ローズはフランス語で古くは天使 (ange) を Angle とも綴ったことから、その形容詞として「天使の」という意味としている*4


【画像】Howard Hibbard, Bernini (Pelican S.)

 エドモン・ユゲの『16世紀フランス語辞典』には、この語の副詞形と思われるAnglicquementという語が登場しており、用例としてラブレーの『パンタグリュエル』(第二の書)第11章の以下の箇所が挙げられている。
  • Par bien soy bassiner anglicquement

 この個所は日本では以下のように訳されている。
  • 天使のようにしっぽり体を濡して(渡辺一夫訳)*5
  • ただただ天使のように身体をば濡らして(宮下志朗訳)*6

 天使のように体を濡らす、というのは意味が分からないかもしれないが、もともとこの11章は支離滅裂な弁論の場面であるので*7、深入りする意味はない。

 ただ、このような同時代の用例を踏まえれば、「天使の」と訳すことにも一定の説得力はあるように思われる。

登場箇所



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コメントらん
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  • ペルチエが「天使」と解釈していて萎えた。 -- とある信奉者 (2010-09-05 01:12:04)

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用語
最終更新:2022年03月30日 23:52

*1 Lemesurier [2003b]

*2 Leoni [1961/1982], Clébert [2003]

*3 Dufresne [1989]

*4 Rose [2002c]

*5 渡辺一夫訳『第二之書パンタグリュエル物語』岩波文庫、1973年、p.95

*6 宮下志朗訳『パンタグリュエル』ちくま文庫、2006年、p.151

*7 渡辺、上掲書、p.285;宮下、上掲書、p.149