百詩篇第2巻29番

原文

L'oriental1 sortira de son siege2,
Passer les monts3 Apennins4, voir la Gaule5:
Transpercera6 du ciel7 les eaux & neige8:
Et9 vn chascun10 frapera de sa gaule11.

異文

(1) L'oriental 1555 1589PV 1649Ca 1650Le 1668 1840 : L'Oriental T.A.Eds.
(2) siege : Siege 1672
(3) monts : mons 1590Ro, Monts 1672
(4) Apennins : Apennis 1557U 1557B 1568A 1590Ro, Apennons 1600 1610 1716, Apennois 1627 1644 1650Ri 1650Le 1653 1665 1668, Apenniens 1611B 1660 1792La
(5) Gaule : Caule 1627
(6) Transpercera : Transpererr 1611B, Transpassera 1672
(7) du ciel : ciel 1557U 1557B 1568A 1588-89 1590Ro, le ciel 1568B 1568C 1568I 1597 1600 1610 1611 1627 1628 1644 1650Ri 1660 1716 1772Ri 1792La, le Ciel 1605 1649Xa 1653 1665 1672
(8) les eaux & neige : les eaux & neiges 1589PV, les Eaux & Neige 1672
(9) Et : En 1589PV 1649Ca 1650Le 1668
(10) vn chascun : chascun 1557U 1557B 1568A 1588-89 1590Ro
(11) sa gaule : sa Gaule 1588-89 1672

(注記)1792La は1792年ランドリオ出版社版の異文。

日本語訳

東方の者がその座から出立するだろう、
アッペンニーノ山脈を越えて、ガリアを見るために。
彼は天の水と雪とを突き抜けて、
おのおのをその鞭で打ち据えるだろう。

訳について

 大乗訳も山根訳も3行目以外はほとんど問題はない。
 山根訳3行目「空を飛び 海を渡り 雪を踏みわける」*1、大乗訳3行目「空も 水も 雪も越えてくるだろう」*2は、空、水、雪を並列的に訳している点で共通している。それは彼らの底本に基づく訳としては誤りではないが、初版の原文は le ciel(the sky)でなく du ciel(of the sky)となっており、並列的に訳すことはできない。
 「天の水」とはつまり、ピーター・ラメジャラーが英訳しているように単なる「雨」のことだろう。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、詩の情景を敷衍しているだけで、何も解釈していないに等しい。

 テオドール・ブーイはナポレオンと解釈した。ナポレオンはコルシカ島というフランス本土から見れば「東方」にあたる場所の出身だからというのがその理由で、3行目は有名なグラン・サン=ベルナール峠の行軍の様子を予言したものとした*3
 チャールズ・ウォードもナポレオンと解釈したが、「東方の者」はエジプト遠征中のナポレオンを指す表現とし、ジェイムズ・レイヴァーもそれを支持した*4

 アンドレ・ラモンジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは、将来起こる戦争においてアジアの指導者の軍勢がイタリアとフランスに侵攻する予言と解釈していた*5。ちなみにラモンはこれを百詩篇第10巻72番のすぐ前のページで解説していた。

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムール百詩篇第5巻54番とモチーフが似通っていることを指摘しており、高田勇伊藤進もその読み方を支持していた。その場合、チンギス・ハン、アッティラなどが念頭に置かれていると見ることができるだろう。ジャン=ポール・クレベールも類似の見方をしている。

 ピーター・ラメジャラーは『ミラビリス・リベル』において、イスラーム勢力のヨーロッパへの侵攻が、イタリアやアルプスを経由するものとして描かれていることを指摘している。

 エヴリット・ブライラーは、1行目について、政治的な要素だけではなく星位を示している可能性も示していた。


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百詩篇 第2巻
最終更新:2009年11月13日 22:55

*1 山根 [1988] p.87

*2 大乗 [1975] p.78

*3 Bouys [1806] pp.82-83

*4 Ward [1891] p.318, レイヴァー [1999] pp.276-277

*5 Lamont [1943] p.342, Fontbrune [1980/1982]