troche

 troche は現代フランス語では「複合花」(fleuron)や貝の一種の意味*1
 現代仏和辞書の中には古い用法として「同じものの束」などの意味を載せているものがある通り、古語としては「束」(faisceau)、「集団、軍団」(assemblage, troupe)などの意味があった*2。ほかに、DMFには「ぶどうの若芽」(sarment)という意味が載っている。

 マリニー・ローズは標準的な古フランス語や中期フランス語の語義を挙げつつも、当時の綴り方から troque(物々交換)と同じ意味で使われている可能性があることも指摘している。
 「物々交換」という訳は加治木義博も採用していたが、ローズのような緻密な語源研究に基づくものなのか、安易に troc(物々交換)に置き換えて訳しただけなのかは不明である。

信奉者側の旧説

 アナトール・ル・ペルチエはギリシャ語の trukhos の借用として「蕩尽、消耗」(épuisement)、「悲惨、貧困」(misère)の意味としており、エドガー・レオニミシェル・デュフレーヌも踏襲していた。
 テオフィル・ド・ガランシエールもギリシャ語として読んでいたが、彼は「滑車」の意味としていた。この読み方は引き継がれなかった。

 五島は『ノストラダムスの大予言II』で 「この『消費』の原句は、troche(トロッシュ=英語読みでトローチ)である。トローチのようにしゃぶりつくす、の意」 *3と説明しているが、語学的な説得力を持たない。この単語はスチュワート・ロッブの解釈書では exhaustion と英訳されており、五島はおそらくこれに触発されたのだろう。しかし、ロッブは(おそらくル・ペルチエを参考にしたと思われるが)その根拠を明記していなかったため、五島はどういう根拠でそういう訳を導けるのかを特定できずに、上のようなデタラメな語源説明をしてしまったのではないかと思われる。

登場箇所



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最終更新:2010年04月29日 21:22

*1 貝については『仏和大辞典』には「にしきがい」、『新仏和中辞典』には「窪貝」、『ロワイヤル仏和中辞典』には「ニシキウズガイ」とある。

*2 DAF, LAF

*3 五島『大予言II』p.212