予兆詩第39番

予兆詩第39番(旧35番) 1559年1月について

原文

Plus le grand1 n'estre, pluye, au char le cristal.
Tumulte esmeu, de tous biens abondance.
Razez, sacrez2, neufs, vieux, espouvantal3.
Esleu, ingrat, mort, plaint, joye, alliance. *1

異文

(1) le grand : le Grand 1594JF 1605 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1668
(2) sacrez : Sacrez 1594JF 1605 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1668
(3) espouvantal : espouuental 1605 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1668

校訂

以下に掲げた英訳では3行目の neufs を nefs(船)と読んでいることが明らかである。ただし、ベルナール・シュヴィニャールは、ノストラダムスが対義語を並べる表現を多く使っていることから、従来どおり neufs として問題ないと判断した。

英訳版原文

The great to be no more, rayne in the christall
Tumult moved, of all goodes abundaunce.
Cut up, halowed, olde shippes, fearefull
Chosen unthankfull, death bewayled, joy, alliance.

(注記)この英訳は英訳版『1559年向けの暦』に掲載されていたものである。1559年向けの予兆詩はオリジナルが現存していないこともあるので、参考のため掲載しておく。

日本語訳

偉大な者はもはやいない。雨。二輪馬車に結晶。
喧騒が引き起こされる。全ての物財は豊富にある。
剃髪たち、聖別されたもの、新しいものたち、古いものたち、怯えさせるもの、
選ばれたもの、恩知らず、死体、憐れまれたもの、悦び、同盟。

信奉者側の見解

 ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは、「偉大な者はもはやいない」をこの年に歿したアンリ2世とし、「喧騒」はアンリ2世の死によって不安定化した情勢を指すという。
 「二輪馬車に結晶」は、凍結した川の上を荷馬車が渡ることと解釈した。3行目は新参者が古参や教会勢力を脅かしたこととするが、具体名は挙げていない*2

 ジョン・ホーグは「偉大な者はもはやいない」をアンリ2世だけでなく、同じ年に歿したローマ教皇パウルス4世に関連付けている。
 「二輪馬車に結晶」は、ガラス状の仕上げが施された近代ないし未来の自動車を思わせるものだとしている*3

同時代的な視点

 「偉大な者はもはやいない」は確かにアンリ2世に当てはまるようにも見える。しかし、それは実現した月(7月)とずれる上に、すぐ前の詩同じ年の4月向けの詩のモチーフとは矛盾している。

 後半2行が名詞の羅列でしかないせいもあり、具体的な史実との関連付けは困難であろう。
 とりあえず「結晶」は、小氷期が引き起こした平均気温の低下と関連があったと思われ、その点のみはシャヴィニーの読み方もあながち的外れとはいえないだろう。


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最終更新:2009年12月29日 23:05

*1 原文は Chevignard [1999] p.132 による。

*2 Chavigny [1594] p.58

*3 Hogue [1997/1999]