詩百篇第1巻26番


原文

Le grand1 du fouldre2 tumbe3 d'heure4 diurne5,
Mal & predict6 par porteur7 postulaire8
Suiuant presaige tumbe9 d'heure10 nocturne11,
Conflit12 Reins13, Londres14, Etrusque15 pestifere16.

異文

(1) Le grand : Le grain 1572Cr, La grand 1589Me 1612Me
(2) fouldre : Foudre 1672Ga
(3) tumbe : tombe 1588-89 1589PV 1590SJ 1591BR 1597Br 1605sn 1606PR 1607PR 1610Po 1611A 1611B 1612Me 1628dR 1644Hu 1649Ca 1649Xa 1650Le 1650Ri 1653AB 1981EB 1665Ba 1668 1672Ga 1716PR 1772Ri 1791Ga 1794Bo 1800Sa, tomber 1572Cr
(4) d'heure : d'he ure 1590Ro, d'huere 1653AB
(5) diurne : dieurne 1572Cr, diuine 1588-89 1612Me 1665Ba, Diurne 1772Ri 1791Ga
(6) Mal & predict : mal predict 1572Cr
(7) par porteur : porteur 1572Cr, par Porteur 1672Ga
(8) postulaire : populaire 1649Xa 1672Ga
(9) tumbe : tombe 1588-89 1589PV 1590SJ 1591BR 1597Br 1605sn 1606PR 1607PR 1610Po 1611A 1611B 1612Me 1628dR 1644Hu 1649Ca 1649Xa 1650Le 1650Ri 1653AB 1981EB 1665Ba 1668 1672Ga 1716PR 1772Ri 1791Ga 1794Bo 1800Sa
(10) d'heure : de l'heure 1606PR 1607PR 1610Po 1716PR
(11) nocturne : nocturme 1612Me
(12) Conflict : Conffict 1716PR
(13) Reins 1555 1612Me 1840 : Reims T.A.Eds.(sauf Rheims 1672Ga)
(14) Londres : londres 1605sn 1628dR
(15) Etrusque : Etrusques 1612Me
(16) pestifere : pestiferé 1588Rf 1589Rg, Pestifere 1672Ga

(注記)1791Ga は1791年のジャック・ガリガン版、1794Bo は1794年のボネ兄弟版、1800Sa は1800年頃のノストラダムス出版社版の異文。Diurne という異文が1791Ga まで引き継がれている一方、1794Bo や 1800Sa に反映されていないのは、系譜を考える上で一定の意味があると考え、採録した。

校訂


 tumber は tomber と同じもので、当時はそういう綴りも通用していた。

日本語訳

雷の大物が昼の時分に落ち、
凶事が抗議(するための雷)の持ち主によって予言される。
続く予兆は夜の時分に落ちる。
ランスとロンドンで戦闘、エトルリア人に悪疫。

訳について

 1行目「雷の大物」は、ピエール・ブランダムールの釈義やリチャード・シーバースらの英訳では、雷の轟音のこと。
 2行目「抗議(するための雷)の持ち主」は、分かりにくいかもしれないが、ユピテルを指す。postulaireも参照のこと。
 4行目は名詞の列挙だが、前半律(最初の4音節)は Londres までなので、そこまでをひとまとまりと見るのが自然である。一般的に前置詞を補って訳されるので、ここでもそうした。なお、Etrusque は形容詞としては「エトルリアの」、名詞としては「エトルリア人」を指す。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳1行目「偉大なる人は 日の光で堕落し」*1は完全に誤訳。ヘンリー・C・ロバーツの英訳 The great man falleth by lightning in the day*2の lightning を light と勘違いしたのだろう。
 同3行目「予想に従って 他の者は夜の間に堕落し」は、他の者(autre / another)を補えばそういう訳もできないわけではない。
 4行目はランス(Reims)の表記を「レイム」としているのが不適切。

 山根訳1行目「白昼 偉人が雷電に撃たれるだろう」*3は誤訳。du fouldre を le grand と切り離して「偉人が雷によって」と訳すことは可能だが、「撃たれる」ならば受動態でなければおかしい。「偉大な者が雷によって昼の時分に倒れる」と訳すことならば可能である。
 3行目「夜にはさらに一撃が見舞うと 予言が告げる」は原文を元に解釈を交えた結果で、直接的にはこのような訳は導けない。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエール(1672年)は未来に偉大な人物2人が昼と夜に落雷で死ぬことや、ランスでの闘争、ロンドンやトスカーナでの疫病の流行などを予言したものと解釈した*4

 ヘンリー・C・ロバーツ(1947年)はアドルフ・ヒトラーによるチェコスロヴァキア併合と解釈した。これは夫婦の改訂版でも同じだった*5

 エリカ・チータム(1973年)やジョン・ホーグ(1997年)はケネディ兄弟暗殺と解釈した。
 最初の2行がジョン・F・ケネディ大統領暗殺で、3行目は弟のロバート・ケネディ暗殺(1968年)であるという。4行目についてホーグは、英仏の学生闘争(1968年-1969年)や1966年のフィレンツェでの大洪水で疫病の蔓延が懸念されたことを予言したと解釈した*6

 ヴライク・イオネスク(1976年)は、Etrusque を QUETE RUSse のアナグラム(Quete は古語で「事件」と解釈)でロシア革命、ランスを仏・ロンドンを英の代喩、雷の大物を(イオネスクがユピテルをしばしばそう解釈しているところの)アメリカ等々と解釈し、第一次世界大戦とした*7竹本忠雄(2011年)もこの解釈を踏襲した*8

 セルジュ・ユタン(1978年)は第二次世界大戦の予言ではないかとした*9。ユタンの解釈はボードワン・ボンセルジャンが追補し、4行目の疫病はイタリアがファシズムに「汚染」されたことを予言しているとした*10

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌ(1980年)は、ナポレオンの失脚などが予言されていると解釈した*11

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールは1行目から3行目を災いを予言する落雷の描写としている。「抗議(するための雷)の持ち主」とはユピテルのことで、「抗議するための雷」とは、しばしば雷が儀式や生贄などを怠ったものに対する戒めとして落ちるものと認識されていたことによる。
 このことは、ノストラダムスの主要な参考文献のひとつと推測されているクリニトゥスの『栄えある学識について』でも言及されている*12
 ピーター・ラメジャラーもこの読み方とほぼ同じである。高田勇伊藤進はこの解釈を敷衍し、中世から近世において落雷が凶兆として恐れられていたことを、当時の言説を引用することで示している*13

 4行目との関連性について彼らは明記していないが、おそらくは4行目に起こる災厄の前兆となる雷が、前3行に描写されているということだろう。


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