予兆詩第45番

予兆詩第45番(旧41番) 1559年7月について

原文

Predons pillez, chaleur, grand secheresse.
Par trop non estre, cas non veu, inouï.
A l'estranger la trop grande caresse.
Neuf pays Roy d'Orient1 esblouï. *1

異文

(1) d'Orient conj.(BC) : l'Orient 1594JF 1605 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1668

校訂

 ベルナール・シュヴィニャールの校訂の根拠は、同時代の英訳版による。適切さについては何ともいえないが、何とかしてアンリ2世の死と結び付けようとしたジャン=エメ・ド・シャヴィニーならば、そのくらいの改竄はやってもおかしくなかったとはいえるだろう。

英訳版原文

Robberyes, pyllynges, heat, great drought
Not to be to much : a thinge not seen nor heard.
To the straunger too great flattery
nyne, contryes, the Kyng of the east to be daseled.

(注記)この英訳は英訳版『1559年向けの暦』に掲載されていたものである。1559年向けの予兆詩はオリジナルが現存していないこともあるので、参考のため掲載しておく。

日本語訳

略奪された盗人、暑さ、大旱魃。
過度には存在せず、事件は見られず聞かれない。
その異邦人に対し、非常に深い友愛が示される。
新しい国に、東方の王は目をくらまされる。

訳について

 2行目 par trop は avec excès(過度に)の意味*2

 3行目 caresse は中期フランス語では「愛撫」「親切な言葉」「友情を示すこと」などだが、英訳版で flattery になっているように「お世辞」の意味もあった。その意味で訳せば「その異邦人へのとても仰々しいお世辞」といった意味になる。

 4行目 Neuf pays は「新しい国」とも「九つの国」とも訳せる。また、「新しい国に」はベルナール・シュヴィニャールに従って前置詞を補って訳した結果なので、逆に「東方の王に新しい国は目くらましをされる」とも訳せないわけではない。
4行目は10音節に満たないので、何らかの単語が失われている可能性もあるが、シュヴィニャールは特に注記していない。

信奉者側の見解

 ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは1559年7月にあったアンリ2世の事故死と結び付けている。ただし、彼は1行目には何も注記しておらず、3行目についても解釈を放棄している。
 2行目は、アンリ2世の死が廷臣たちにとって、見たくもないし聞きたくもない事件であったことを言い当てたとしている。4行目をシャヴィニーは「新しい国、王、東方は目をくらまされる」としていて、前半は天国(新しい国)に旅立ったアンリ2世とした。後半は後継者のフランソワ2世が短命であったこととと結びつけているが、根拠は示していない*3。「王がめまぐるしく変わった」=「東方(トルコ?)は目くらましにあったようだった」ということなのかもしれない。

懐疑的な視点

 シャヴィニーの解釈は、無視している要素が多すぎる。また、シュヴィニャールの校訂が正しいのなら、ここでのテーマは「東方の王」であって、アンリ2世に結びつけることはできないだろう。


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予兆詩
最終更新:2010年01月25日 01:48

*1 原文は Chevignard [1999] p.135 による。

*2 DMF

*3 Chavigny [1594] pp.64,66