予兆詩第54番

予兆詩第54番(旧50番) 1560年4月について

原文

Du lieu esleu razes1 n'estre contens.
Du lac2 Leman conduite non prouvée3.
Renouveller on fera le vieil4 temps.
Espeuillira5 la trame tant couvée.*1

異文

(1) razes 1589Rec : Razes T.A.Eds.
(2) lac : Lac 1560LN
(3) prouvée : prouee 1560LN
(4) vieil : vieux 1560LN
(5) Espeuillira : Expolira 1560LN

(注記)1560LN は初出である『1560年向けの暦』の原文。ベルナール・シュヴィニャールの校訂の段階では行方不明になっていた。1589Rec はジャン=エメ・ド・シャヴィニーの手稿『散文予兆集成』の異文。

校訂

 1行目の razes は、1560LN でも Razes となっているが、他の用例も勘案すれば、シュヴィニャールの校訂の方が妥当に思える。
 4行目は espeuiller (暴く)と expolire (完成する、飾る)のどちらを採用するかで意味が大きく異なる。シュヴィニャールは前者を採っていたが、むしろそれは分かりやすくするためのシャヴィニーの改変だった可能性がある。

日本語訳

選ばれた場所に剃髪たちは満足しない。
レマン湖から導かれる許されざるもの。
人々は古い時代を一新させ、
綿密に企てられた陰謀を暴くであろう。

訳について

 2行目の「許されざるもの」は、女性形になっている。この詩に出てくる女性名詞は trame(陰謀)だけなので、それが略されていると見て、「許されざる陰謀」と訳すべきか。

 なお、4行目については、以下に見るシャヴィニーの解釈と大きく乖離しているが、当「大事典」の訳がとりたてておかしいとは考えていない。参考にエドガー・レオニは They will strip the plot so well hatched.*2と訳していることを挙げておく。
 4行目で expolira を採用する場合、「綿密に企てられた陰謀を完成させるだろう」といった意味になる。


信奉者側の見解

 ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは、1561年9月のポワシー会談(カトリック聖職者とプロテスタント牧師の会談)と解釈した。1行目はその内容にカトリック側が満足しないことを指し、2行目はジュネーヴの牧師たちの見解がなんら賛同されなかったことを指すとした。3行目は異端についての認識が新たになったことを指し、4行目はプロテスタントが得た譲歩のことだとした*3

同時代的な視点

 「剃髪」はカトリックの聖職者を表すノストラダムスの常用語で、「レマン湖」は当然湖畔の都市ジュネーヴの隠喩だろう。当時のジュネーヴはカルヴァン派の牙城だったので、裏でカルヴァン派が糸を引く陰謀が露見することを描いたものか。


コメントらん
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  • 綿密に企てられた陰謀を暴くであろう。取り敢えずで人助けをして本当はそれほど助けたくなかった、暴いて効果があるのか? -- 名無しさん (2014-04-27 20:59:25)
  • 逆ギレされるだけだろう。 -- 名無しさん (2014-04-27 21:01:19)

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予兆詩
最終更新:2014年04月27日 21:01

*1 原文は Chevignard [1999] p.140による。

*2 Leoni [1961] p.471

*3 Chavigny [1594] p.86