予兆詩第66番

予兆詩第66番(旧59番) 1561年3月について

原文

Au pied du mur le cendré cordigere1.
L'enclos livré foulant cavalerie.
Du temple hors2 Mars & le Falcigere3,
Hors, mis, démis, & sus la resverie. *1

異文

(1) cordigere : Cordigere 1589Rec, cordigeré 1605 1649Xa
(2) hors : gors 1668P
(3) Falcigere : Falcigeré 1605 1649Xa

(注記)1589Rec はジャン=エメ・ド・シャヴィニーの手稿。初出である『1561年向けの暦』は断片が現存しているが、この詩が載っていたページは現存しておらず、比較できない。

百詩篇第7巻74番

Au pied du mur le cendre cordigere
L'enclos liuré foullant caualerie,
Du temple hors Mars & le falcigere
Horsmis, desmis, & sus la resuerie.

(注記)1588年から1589年にパリで出された版には、百詩篇第7巻74番として収録されていた。信頼性の点で疑問だが、初出が現存していないため、ほぼ同じ時代の参考資料として掲載しておく。底本は1588Rf で比較に 1589Rg, 1589Me を使ったが、異文はなかった。なお、この詩篇は予兆詩との一致がつとに知られていたため、1590年以降の『予言集』に、この詩を収録したものはなかった。

日本語訳

灰色の縄帯を締めている者が壁の下部に。
騎兵を抑えつつ、囚人が解放される。
視野からマルスと大鎌持ちが外れ、
外に置かれ、取り去られる。そして錯乱状態に。

訳について

 ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは3行目の temple を、語源のラテン語 templum に遡って天体観測に関する語と理解し、「火星と大鎌持ちはあちこちを彷徨いつつ熱狂する」(Mars cum Falcigero furit, huc illucque vagantes)とラテン語訳していた*2
 ピエール・ブランダムールもそうした読み方を支持している。ブランダムールによれば、占星術用語としての templum は、天空のうち惑星が運行する東西に渡る部分、つまり獣帯(黄道十二宮)を指し、惑星の限界を超えた運行が描かれていたものだという(これに関連するものか、研究社の『羅和辞典』には hoc omne templum で「宇宙」とする成句も載っている)。ここでは天球のうちの目に入る範囲ということで、『羅和辞典』の訳語のひとつから「視野」を選んだ。

信奉者側の見解

 ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは、1562年の出来事に当てはめ、1行目を修道士たちが自衛のために武器を取ったこと、2行目をプロテスタントの監守(囚人でなく)が釈放されたことと解釈した。3行目から4行目前半は戦端が開かれたときに火星と土星がその狂乱の影響力を及ぼしたことを指し、最後の「錯乱状態」はプロテスタントのこととした*3

同時代的な視点

 「灰色の縄帯を締めている者」がコルドリエ(フランシスコ会修道士)を指していることはアナトール・ル・ペルチエがつとに指摘し、エドガー・レオニピエール・ブランダムールも支持している。

 星位について、ブランダムールは1561年3月15日には、火星(マルス)は双児宮の15度、土星(大鎌持ち)は磨羯宮の9度にあって相互に関係がないとした上で、それらの惑星の限界を超えた運行(la course hors limites de ces planètes)について述べているとした*4。「限界を超えた運行」については詳述されていないため、どういう事態なのかよく分からない。


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最終更新:2010年02月18日 22:47

*1 原文は Chevignard [1999] p.145 による。

*2 Chavigny [1594] p.99

*3 Chavigny [1594] p.98

*4 Brind’Amour [1993] p.250