百詩篇第1巻20番


原文

Tours, Orleans 1 , Bloys, Angiers 2 , Reims 3 , & nantes 4
Cités vexées 5 par subit 6 changement :
Par langues estranges 7 seront tendues 8 tentes 9 ,
Fluues 10 , dards 11 Renes, terre & mer 12 tremblement 13 .

異文

(1) Tours, Orleans : Tours, orleans 1589PV, Tours, Oriens 1607PR 1610Po, Tours, d'Orlean 1605sn 1628dR, Tours d'Orlean 1649Xa, Tous, Orleans 1653AB
(2) Angiers 1555 1557U 1557B 1568 1589PV 1594JF : Angers T.A.Eds. (sauf : Ang 1627Di 1630Ma)
(3) Reims : Rheims 1594JF, Renes 1672Ga, Reins 1612Me 1716PRb 1840
(4) nantes 1555 1590SJ : Nantes T.A.Eds.(sauf : nante 1589PV, Nante 1612Me)
(5) vexées : vexez 1590SJ 1649Ca 1650Le 1668
(6) subit : soudain 1672Ga
(7) langues estranges : langue' estranges 1594JF, Langues estranges 1672Ga
(8) tendues : tenduës 1606PR 1607PR 1610Po, rendues 1612Me, tenues 1653AB 1665Ba, renduës 1716PR
(9) tentes : Tentes 1672Ga
(10) Fluues 1555 1594JF 1840 : Fleuues T.A.Eds. (sauf : Fleues 1557B)
(11) dards : dars 1557B 1594JF 1605sn 1611A 1628dR 1649Xa, Darts 1672Ga
(12) Renes, terre & mer : renes, terre & mer 1589PV 1590SJ 1649Ca 1650Le 1668, terre & mer Renes 1611B 1792La 1981EB, Rennes, Terre & Mer 1672Ga
(13) tremblement : tremment 1612Me

(注記)1行目 Reims は1555では Reĩs と綴られている。ここでは Reims と直したが、いくつかの版のように Reins と読むのも形式的には可能である(ただし、reins はフランス語で「腰」の意味なので、文脈上は意味をなさない)。

校訂

 ピエール・ブランダムールは3行目の langues estranges を langue estrange と校訂している。
 また、ジャン・デュペーブの示唆を踏まえて4行目の Fluues dards Renes を Fluues d'arene と校訂している。こちらは強引なようだが、当時の印刷では一人が原稿を音読し、他の者が植字をすることがあったため、ブランダムールは可能性があるとしている。確かに、唐突にレンヌが登場する一般的な原文に比べれば、整合的な読み方とは言える。

日本語訳

トゥール、オルレアン、ブロワ、アンジェ、ランス、ナント、
それらの都市は急激な変化に悩まされる。
異国語の話し手たちによって天幕が張られるだろう。
砂まみれの大河、大地と海は震える。

訳について

 4行目はピエール・ブランダムールの校訂の結果を受け入れた。従来の一般的な原文を訳せば、「大河、投槍、レンヌ、大地と海は震える」となる。なお、現代フランス語の arène は、英語のアリーナと同じ語源で、古代ローマの円形闘技場や現代の闘牛場などを指すときに使われるが、ここではそうすべきでない。大元の語源であるラテン語 arena は本来「砂」の意味で、これが円形闘技場の意味になったのは、闘技場に砂をまいたことによるのだし、中期フランス語の arene は砂の意味で用いられていたからである *1
 また、後出のジャン=ポール・クレベールの読み方を投影させて意訳した場合は、「大河には蛇と雨蛙、大地と海は震える」となる。
 「大地と海は震える」は、若干言葉を補った訳だが、補う単語によって「大地と海で震える」とも読める。前者の意味に理解する論者が多いのでここでもそうしたが、ブランダムールは後者で理解している。

 山根訳は依拠した底本の訳としてはほとんど問題ない。1行目の「アンジェノ」は「アンジェ」の単純な誤植だろう。

 大乗訳もそれほど問題はないが、1行目「レイム」はランス(Reims)の読み間違え。4行目「となかい」は一般的ではないが、誤訳とも言い切れない。renne は確かに一般名詞として「となかい」の意味がある。元の原文では「レンヌ」という都市名と理解しても唐突なのは否めないので、ありえない訳というわけではない。

信奉者側の見解

 ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは、1行目に挙げられた都市がプロテスタントに占領されたことと、海と陸が震えるほどにフランスに多くの外国人がなだれ込んだこととした *2 。シャヴィニーは1562年の項でこの詩を扱っているが、特に後半の解釈は具体的に何の事件と結び付けているのかよく分からない。

 バルタザール・ギノーは、反キリストが海と陸からフランスに進軍してくることの予言と解釈した *3 。時期は明示していなかったが、1999年の詩の50ページ以上後に置かれ、その後には百詩篇第1巻48番の解釈しかないことから、かなり先のことと考えていたのだろう。

 ロルフ・ボズウェルは、第一次世界大戦中の情景と解釈し、ロワール渓谷にアメリカ軍が駐屯したことと解釈した *4

 アンドレ・ラモンは、第二次世界大戦中に挙げられている都市が被害にあっていることの予言とした *5

 セルジュ・ユタンは、1870年と1940年にフランス北部がドイツに占領されたことの予言とした *6

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールによれば、砂まみれの大河(fleuves areneux)という表現は同時代のジャン=アントワーヌ・ド・バイフも使っていたようである *7 。また、ブランダムールは最後の「震撼」を、海と陸とで人々が恐怖に震える意味と理解していた。ただし、具体的なモデルなどは全く示していない。
 ピーター・ラメジャラーは、ブランダムールの校訂を受け入れた上で、1行目に列挙されている都市のうち、ランス以外は「砂まみれのロワール川」(the largely sandy river Loire, 浅瀬が多いことをいったものだろう)に沿っているとし、全体的には『ミラビリス・リベル』にある、イスラーム勢力の侵攻のモチーフが投影されているのだろうとする *8
 ロワール川沿いの都市ということに関して、エヴリット・ブライラーは「ランス」を「ロアンヌ」(Roanne)の誤植だろうとしていた *9 。ロアンヌはかなり離れてはいるが、確かにロワール川上流沿いにある。

 ジャン=ポール・クレベールは、前半2行はカトリックとプロテスタントの対立で多くの都市が悩まされていたことの描写だとした。4行目の Fluues dards Renes については、dard に「蛇の舌」の意味があることから「蛇」の代喩と見なし、renes は raines(アマガエル)の誤植と見なすことで、氾濫した川から蛇や蛙があふれることの描写とした。百詩篇第2巻43番にも岸に打ち上げられる蛇の描写があるが、それらは古来、凶兆とされていた *10

【画像】関連地図。なお、各都市は緯度・経度から正確に位置づけているが、ロワール川の流れはかなり大まかなものであることを御承知おき頂きたい。

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