予兆詩第84番

予兆詩第84番(旧74番) 1562年8月について

原文

Les coulorez, les asnes1 malcontens,
Puis à un coup2 par Androgyns alegres,
De la plus part3 voir non venu le temps,
Plusieurs d'entre eux4 feront leurs soupes maigres. *1

異文

(1) asnes 1562LN 1589Rec : Sacres T.A.Eds.
(2) à un coup 1562LN 1589Rec : tout à coup T.A.Eds.
(3) plus part : pluspart 1668A
(4) d'entre eux : d'entr'eux 1589Rec 1649Xa 1649Ca 1650Le 1668

(注記)1562LN は初出である『1562年向けの新たなる暦』に見られる原文。1589Rec はジャン=エメ・ド・シャヴィニーが転記した異文。

校訂

 1行目が asnes(ロバ、ぼんくら)か sacres(聖職者)かについては、間違いなく asnes を取るべきだろう。sacres はジャン=エメ・ド・シャヴィニーが改変した原文に過ぎない。

 それに比べれば à un coup(一挙に)を tout à coup(突然に)に書き換えたのはささいなことだが、やはりシャヴィニーによる改変である。こちらは1行目からの流れで理解できないわけではない。

日本語訳

色鮮やかな者たちとロバたちは満足しない。
そしてアンドロギュノスによってすっかり快活になる。
大部分の人々は時機が来ていないことを悟る。
彼らのうちの数人は乏しい利益を得るだろう。

訳について

 2行目 à un coup は「一挙に、同時に」(d'un seul coup, à la fois)、「すっかり、全体的に」(entièrement)を意味する成句。
 4行目 plusieurs は「数人」とも「多数」とも訳せるが、3行目の「大部分」と対比されていると見れば、おそらく「数人」の方が適切だろう。
 同じく4行目、faire leurs soupes maigres の直訳は「肉が入っていない自分達用のスープを作るだろう」だが、faire ses soupes(自分用のスープを作る)は中期フランス語で「利益を得る」を意味する成句なので*2、ここではそのように訳した。

信奉者側の見解

 ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは、異文欄にあるように、1行目を書き換えて「聖職者達は満足しない」の意味にとっている。彼はこの詩を1563年に当てはめ、この年のアンボワーズ王令がプロテスタントの礼拝の自由を認めたことに、カトリックの聖職者達が不満を持ったことを指すとした。2行目のアンドロギュノス(両性具有者)は、妻帯が認められていないカトリックの聖職者の比喩とした。後半は未来に属するとして解釈を棚上げした*3

同時代的な視点

 アンドロギュノスは当時は凶兆と捉えられるのが一般的だったし、ノストラダムスも百詩篇第2巻45番ではそのように見なしている節があるが、ここでは事態の好転要因になっているように見える。
 シャヴィニーのように聖職者と捉えるのが適切かどうかはともかく、何らかの比喩として捉えるべきかもしれない。

 なお、マリニー・ローズはここでの「色鮮やかな者」は、赤い法衣をまとっている枢機卿の喩えではないかとしている*4


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予兆詩
最終更新:2010年03月10日 22:38

*1 原文は Chevignard [1999] p.154 による。

*2 DMF

*3 Chavigny [1594] p.124

*4 Rose [2002c]